製造用機械産業の研究開発(1)…

 工作機械は昔から「マザー・マシーン」と呼ばれている。全ての製品を産み出す基だからである。工場に使い易い優れた機械が設置されるからこそ、メーカーが高品質な製品を製造することが可能になり、製品競争力を発揮できる。まさに日本の製造業の臍なのである。

 日本のメーカーの強さとは、大企業を中心とするモノ作り現場の製造方法の知恵が活かされる仕組みである。作業手順やラインの設計だけでは、生産性向上の成果は限定的だ。大きな成果をあげることができたのは、ひとえに生産現場が製品設計部隊と知恵を絞って機械を常に改良し、高度利用の実現に日夜努力してきたからではないだろうか。更に、新技術もどしどし活用し、短期間に習熟してきた。旋盤、ボール盤、中ぐり盤、フライス盤、研削盤、歯車機械、放電加工機のすべてでNCマシン化が急速に進んだし、マシニングセンター、ロボットもスムースに浸透した。この積極姿勢がモノ作りで競争力を維持してきたといえよう。数多くの零細企業が存在するから、遅れた産業構造と見なしがちだが、むしろ、改良を続ける顧客工場への個別対応が可能と言う点で有利な構造ともいえる。

 この有利な構造によって競合優位が実現できた時代は終わりに近づいたのではないか。高性能の機械自体が世界に普及しただけでなく、工場の生産プロセス管理技術にも差がなくなった。今までと同じ様に努力しても、機械性能そのものが限界にまで高められているから、いくら改良を進めても成果は限定的になった。日本企業のモノつくり優位が崩れ始めたのである。そうなると、国内製造を諦め労賃が安い海外へと工場移転を進める動きになる。

 職人芸を磨くという発想では、この流れは止められない。従って、今後も日本で、モノ作りで戦おうというのなら、斬新な製造システムを取り入れた「超工場」を早急に作り上げる必要がある。IT技術をベースとした全く新しい工場のコンセプトを練り上げ、それに合うような製造用機械の開発を急がなければならない。このためには、新しい研究開発の仕組みを立ち上げるべきだろう。当然ながら、製造用機械メーカーに任せておくだけでは「超工場」など作りようがないから、ユーザーと機械メーカーが一体になった研究開発体制が不可欠だ。
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