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■■■ 「古事記」解釈 [2021.2.17] ■■■
[47] 天の香久山伝承譚こそが肝
天の香久山は大和に王権と神権が樹立された象徴そのもの。盆地に丘がポツンとあるので、高天原から降りて来た山とのイメージが実感できたこともあろう。
「万葉集」では、天之香具山は題材として取り上げるのに、太陽神信仰を感じさせる歌は収録されていない点から見て、天之香具山は高天原八百万の神観念の臍とでも言うべき存在かも。
 【詠山】
  いにしへの ことは知らぬを 我れ見ても
   久しくなりぬ
天之香具山 [「万葉集」巻七#1096]
ともあれ、後世の歌には数え切れないほど多く登場してくることからして、感性的に親しみがわくということもありそう。ただ、あくまでも"大和"の情景として。
 【春雜歌】
  久方の
天の香具山 この夕べ
   霞たなびく 春立つらしも 柿本朝臣人麻呂[「万葉集」巻十#1812]


"倭は 国のまほろば たたなづく 青垣山籠れる 倭し麗し"に籠められた倭健命の心情とも一致するのではないか。天の香具山が詠み込まれているのが、唐突に映るが、これこそが肝ということかも。
 【倭建命・美夜受比売の婚姻歌】
久方の
天の香具山[阿米能迦具夜麻] 利鎌に さ渡る鵠
弱細 手弱腕を 枕かむとは 我はすれど
さ寝むとは 我は思へど
汝が著せる 襲の裾に 月立ちにけり


もちろん、ここでの天の香具山とは大和の地を意味しているのだが、もともとの天の香具山は高天原に在り、両者の関連性については一言もない。知識なかりせば、"天の"という接頭語があるので、どうやら天から降りて来たようだと言う程度になってしまう。つまり、天降りは常識だったことになろう。(「風土記」記載は、先降り地主張ということ。)📖地方「風土記」には阿波国関連話
実際、「万葉集」にも記載されていることだし。
天降りつく 神の香具山 [「万葉集」巻三#257/260]

従って、叙事詩としては、天岩戸譚は中核的位置付けと見てよいだろう。ところが、香久山自体は神とされている訳ではないし、なんらかの山神が坐している訳でもなさそう。その霊威の起源も不明だ。
しかも、高天原の諸々の神々によって、皇祖と直接係わりなく物事が粛々と進んで行く状況が描かれているとくる。
従って、見方によっては、天兒屋命と布刀玉命が取り仕切っている様子が目立つように記載されていると感じてしまうが、祝詞と卜占で成立する神権国家であることを示したと考える方がよさそう。と言うのは、両者が呪力を発揮したとのイメージからはほど遠く、鍵を握るのはあくまでも"天香山"だからだ。その霊力を得るために、祭祀挙行をスムースに進める役割を果たしているだけと見た方がよかろう。
重要なのは、そのようなことではなく、祭祀に用いているものが、どこででも入手できる点。しかも、山自体も形状や地質が珍しいとは言いかねる。
このことは、各地に、ご当地香久山を設定することが可能ということ。それこそ、天香久山の土を一握り移植するだけで、同一の祭祀を行うことができることになり、王権・神権を確立し易い信仰が確立したと言えよう。
 【天岩戸譚】
召 天兒屋命 布刀玉命而
 内抜
天香山之眞男鹿之肩 抜 而 …鹿
 取
天香山之 天之波波迦 而 …波波迦=上溝桜
 令 占合麻迦那波 而
天香山之 五百津眞賢木矣根 許士爾許士 而 …眞賢木=
 於上枝取著 八尺勾璁之五百津之御須麻流之玉
 於中枝取繋 八尺鏡
 於下枝取垂 白丹寸手青丹寸手 而
此種種物者 布刀玉命 布刀御幣登 取持 而
天兒屋命 布刀詔戸言掖白 而
天手力男~ 隱立戸掖 而
天宇受賣命 手次繋
天香山之天之日影 而 …日影=日陰蔓
爲𦆅天之眞拆 而 …眞拆=
真拆蔓
手草 結
天香山之小竹葉 而 …小竹葉=
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伊邪那岐命の涙の泣澤女神が座す香山は、高天原から降りた天香山を指していそうだから、"カグ"とは火神の迦具土~と同じ意味の可能性が高い。"輝き"を意味していそう。
  坐香山之畝尾木本 名泣澤女~
香久山ではなく畝傍山のようにも思えるが、現存する神社は、天香久山の方。・・・
天香山神社@天香久山北(御祭神:櫛眞智命/大麻等乃知神)…波波架の木での卜事占兆
畝尾都多本神社@天香久山西[無本殿](ご神体:井戸 御祭神:啼澤女命)
畝尾坐健土安神社@天香久山北西麓/畝尾都多本神社北隣(御祭神:健土安比売命)
坂門神社…阪門神社/春日神社@十市/中町
     or 天岩戸神社@天香久山南麓/南浦中心[無本殿](ご神体:4巨石 御祭神:天照大神)

⛩国常立神社@天香久山山頂(御祭神:国常立神) …【天岩戸譚】とは無縁(国見の地)

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