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■■■ 「古事記」解釈 [2021.3.13] ■■■
[71]大后扱いに見る后妃の地位
ふと、中巻の記述について書いていて、"賢后"という言葉が妙に気にかかった。📖初代天皇と聖帝間は賢后のみが見所

[《武田祐吉注釈校訂》賢后=崇神天皇]📖近淡海と遠飛鳥に注目する由縁と言うことで、当然と考えていたが、フツーに読めば賢皇后と見なすからだ。それに、漢語では、古代から現代迄、賢惠的皇后以外に使われたことはないのでは。(后[=人の手+口](⇒後)は、殷以後は皇后の称号。人の像とされるのは、母系社会時の君主像と解釈されているから。中華帝国では一般的に女性の権威の標章文字とされて来たので、男王にこの称号を使うことは考えにくい。現代のお話に登場する"賢后":陰麗華, 馬秀英, 徐皇后, 長孫皇后, 竇漪房, 獨孤皇后)
これは太安万侶の仕掛けと違うか。
本文を読む際は、天皇ばかりに神経を集中させず、皇后の方にも、ということか。
思えば、皇后であっても、御陵が記載されていて、天皇と同じ扱いと考えよということなのだろう。

例えば、[11]代の大后 比婆須比賣命については、この天皇代譚段の末に記載されており、他の段での記載形式を考えれば、天皇とほとんど同等の位と見るべしと語ってているようなもの。
 此天皇。・・・御陵在菅原之御立野中也。・・・
 此后者。葬狹木之寺間陵也。


さすれば、常識的判断では、"賢后"とは、応神天皇母の[14]代仲哀天皇大后 神功皇后となろう。息長帯姫大神とも呼ばれる位だから。

ただ、夢で神祇を見て敬うことになったとされているから、それに見合うということで("大物主大~顯於御夢")、崇神天皇とするのは至極妥当な判定と思う。
しかしながら、そこが厄介なところ。どうしても、考えさせられてしまうのである。そこが、太安万侶の目論見ではあるまいか。

一般的には、息長帯日売命は、巫女的なイメージが出来上がっているからだ。これはおそらく当時も同じだったろう。神懸かりして("當時歸~")天皇朝鮮出兵のお告げを天皇に伝えたことであまりにも有名だからだ。しかも、それに反対した天皇は奏琴を始めた途端に崩御。従って、この事績が、神祇尊崇との記述に全く合っていないとも言い切れないのである。実際、その後、國之大祓を行っていることだし。

息長帯日売命は「古事記」の扱いでは、単なる皇后ではなく、大后である。この用語が、尊称としての"大"皇后なのか、先帝皇后(皇太后)としての"太"の代替、あるいは、今上天皇の母を示す"上"という意味で使わているのか、素人には判断がつかぬ。
息長帯日売命の場合は、天皇代理的に強権を発揮し、御子を皇嗣にさせる力量があったという点で、"大"皇后とは思えるし、その力の発揮のしかたから見れば賢后に当て嵌ると言ってよいだろう。
もっとも、「古事記」では皇后と書く場合が少ないので、"大"を付けない場合は、天皇と比較して、各段に権力が弱い皇后と考えた方がよいのかも知れぬが。

古代を振り返ってみれば、皇后がほとんど天皇と変わらぬように、力を持っていたこともあったことに、リマインドさせたかったと考えるのが一番自然な感じがする。
「古事記」巻末は[33]代女帝段だし、完成し献上した時の天皇も女帝。しかし皇統譜は男系記載。だからといって、統治の実態を見誤らないようにというご注意だろう。

簡単に言えば、皇后の役割は、大きく変わっており、それが歴史の流れを決定づけている、との見方。
そこらの変化を見逃さないでとのことで、太安万侶流歴史観を披歴したようなもの。

"大后"を見てみると、そんな感じがしてくるのだ。

初代を別とすれば、11代皇后が最初だが、丁度、初国の天皇と倭建命時代の狭間に当たる。古代の彦姫型の祭祀女王の時代の締めくくりとして見ておけということかも。それ以前は男直系系譜で記載しているが、初代皇后の婚姻譚から見てもその姿勢は従属とはほど遠く、女系的雰囲気を感じ取っておけということかも。
皇后の役割は、皇嗣実現と出自勢力の権益増大という政略的なもの見てしまいがちだが、それは男系発想であり、女系時代の残滓も勘案しておくべきなのだろう。

実際、眺めてみると、単に皇嗣実現というだけで"大"と見なされる訳ではなさそうで、皇統のゴタゴタをどうにかまとめ上げるとか、皇位継承の殺戮合戦をさせぬように力を発揮した点がかわれているようにも思える。石之日賣命の嫉妬とは、そこらを示していると考えてもおかしくはなさそうだし、手白髪命は皇統断絶の危機を乗り切った皇后であるのは間違いないからだ。

"大后"比婆須比賣命は、その点で象徴的である。埴輪や葺石を用いる墓制祭祀次第一切を取り仕切ったような記述だが、彦姫制を終焉に導いた皇后という位置付け的記述も見逃せないというか、圧巻だからだ。文芸的には極めて魅力的なストーリーになっている、天皇暗殺未遂で兄に殉じた"后"譚がそれを示していると見るのである。

"大后"一覧
[初]__后妃…阿比良比売
[初]神武后妃…富登多多良伊須須岐比売命/比売多多良伊須気余理比売
  "大后之美人"
    …丹塗矢譚と黥ける利目歌謡
    ⇒御子皇位継承:2
[_2]綏靖后妃…河俣毘売
[_3]安寧后妃…阿久斗比売
[_4]懿徳后妃…賦登麻和訶比売命
[_5]孝昭 后妃…余曽多本毘売命
[_6]孝安 后妃…忍鹿比売命
[_7]孝霊后妃…細比売命 春日千々速真若比売 意富夜麻登玖邇阿礼比売 蝿伊呂杼
[_8]孝元 后妃…内色許売命 伊迦賀色許売命 波邇夜須毘売
[_9]開化 后妃…竹野比売 伊迦賀色許売命 意祁都比売命 __比売
[10]崇神 后妃…遠津年魚目々微比売 意富阿麻比売 御真津比売命
[11]垂仁 后妃…佐波遅比売  氷羽州比売命 沼羽田之入毘売命 阿耶美能伊理毘売命 迦具夜比売命 苅羽田刀弁 弟苅羽田刀弁
  "天皇既崩。爾多遲摩毛理。分縵四縵。矛四矛。獻于大后。"
  "其
大后比婆須比賣命之時。定石祝作。又定土師部。"
        ⇒御子皇位継承:無
[12]景行 后妃…針間之伊那毘大郎女 八尺之入日売命 美波迦斯毘売 伊那毘能若郎女 訶具漏比売
[13]成務 后妃…弟財郎女
[14]仲哀 后妃…大中津比売命 息長帯比売命
  "是大后生御子。"
  "其
大后息長帶日賣命者。當時歸神。・・・請神之命。於是大后歸神。"
    …神託
    ⇒御子皇位継承:15
[15]応神 后妃…高木之入日売命 中日売命 弟日売命 矢河枝比売 袁那弁郎女 息長真若中比売 糸井比売 泉長比売 迦具漏比売 野伊呂売
[16]仁徳后妃…石之日売命 髮長比売 八田若郎女 宇遲能若郎女 黒日売
  "石之日賣命〈大后。〉生御子。"
  "爲
大后。石之日賣命之御名代。"
  "其
大后石之日賣命。甚多嫉妬。・・・然畏其大后之嫉。逃下本國。・・・故大后。聞是之御歌。・・・於是天皇。戀其K日賣。欺大后。"
  "
大后爲將豐樂而。・・・於是大后。御綱柏積盈御船。・・・若大后。不聞看此事乎。・・・於是大后大恨怒。"
  "天皇。聞看其
大后。自山代上幸而。・・・口日賣。仕奉大后。・・・大后幸行所以者。・・・獻於大后。爾天皇。御立其大后所坐殿戸。・・・此天皇與大后所歌之六歌者。志都歌之歌返也。"
  "因
大后之強。・・・於是大后石之日賣命。・・・爾大后。見知其玉釧・・・即與己妻。乃給死刑也。
    …死刑命令
    ⇒御子皇位継承:17 18 19
[17]履中 后妃…黒比売命
[18]反正 后妃…都怒郎女 弟比売
[19]允恭 后妃…忍坂大中津比売命
  "不得所知日繼。然大后始而。諸卿等。因堅奏而乃。治天下。"
  "爲
大后御名代。定刑部。爲大后之弟。田井中比賣御名代。"
    ⇒御子皇位継承:20
[20]安康后妃…長田大郎女
  "其大后先子。目弱王。是年七歲。"
    …殺された旧夫との連れ子が仇討ち的に安康天皇を殺害
    ⇒御子:無
[21]雄略 后妃…若日下部王 韓比売 袁杼比売
  "無子。"
  "初
大后。"
  "故獻此歌者。赦其罪也。爾
大后歌。"
    ⇒御子:無
[22]清寧 后妃…(無)
[23]顕崇 后妃…難波王
[24]仁賢 后妃…春日大郎女 糠若子郎女
[25]武烈 后妃…(無)
[26]継体后妃…若比売 目子郎女 手白髪命 麻組郎女 黒比売 倭比売 波延比売
  "手白髮命。〈是大后也。〉生御子。"
    ⇒御子皇位継承:29
[27]安閑后妃…(無)
[28]宜化后妃…橘中比売命 川内若子比売
[29]欽明 后妃…石比売 小石比売命 糠子郎女 岐多斯比売 小兄比売
[30]敏達后妃…豊御食炊屋比売命 小熊子郎女 比呂比売命 老女子郎女
  "此天皇。娶庶妹。豐御食炊屋比賣命。生御子。"
    ⇒御子皇位継承:無
[31]用明 后妃…意富芸多志比売 間人穴太部王
[32]崇峻后妃…(無)
[33]推古女帝/豊御食炊屋比売命

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