■■■ 「古事記」解釈 [2021.3.23] ■■■
[81]胸形三前大神の地位の高さ
胸形の君などが仕え祭っている【三前大神】とされている点には十分注意を払うべきだと思われる。浜辺と沖合と中間点の３柱一組の神であるし、事績の記載も無いから玄界灘の航海の神だろうという判断で通りすぎがちだが、それは拙いことに気付いた。地位が極めて高いと指摘しているに等しいからだ。
①多紀理毘賣命(奧津宮＠沖の島)…大国主妻
②市寸嶋比賣命(中津宮＠筑前大島)
③田寸津比賣命(邊津宮＠宗像田島)
筑紫日向橘小門阿波岐原での【伊邪那伎大神】の禊の時点では、速須佐之男命は大神とされていない。3貴神では天照大御神だけが特別扱い。にも拘わらず、墨江之三前大神と胸形君等の伊都久[斎く]三前大神とある。📖「記・紀」は神の概念が異なる
この場所は、航図で考えれば、関門海峡からも、西の壱岐・対馬、東の日本海海岸沿いルートの船にとっても、沖の島は昼間の灯台的役割を果たしていた訳で、筑紫の湊は船泊として最適な地といえよう。
目視航法に長けた人々のたまり場でもあったことを意味しよう。
このことは、"国譲り"を遥かに遡る時代から、筑紫の宗像地区の海人の活動は活発で、そのネットワークの湊には三神信仰が定着しており、紐帯が生まれていたのではあるまいか。
【日本海】伯誉國會見郡⛩宗形神社＠米子宗像
【瀬戸海】(長門国⛩宗像神社)⇒合祀
備前國赤坂郡⛩宗形神社＠赤磐是里
【太平洋】尾張國中島郡⛩宗形神社＠稲沢国府宮[摂社化]
これらのムナカタ(＝牟奈加多「倭名抄」巻五筑前国宗像])の漢字表記はこんな流れのようだ。
胸形/胷形＠「古事記」
↓
宗形＠「正倉院」文書
↓
宗像＠平安期
"胸"を敬遠したのは、白川漢字論からすれば文身を指すことになるから、当然の流れと言えよう。
胸＝匈[＝勹+凶[＝凵+×]]+⺼[＝肉]
中華帝国から、"如墨委面"ということで、匈奴と似た扱いを受け、委奴とされたからだろう。(１文字国家名の時代だったから、委人の国ということで倭になる。後の国家２文字化で大倭となり、それを大和に変換したことになろう。)
樂浪海中有倭人, 分為百餘國, 以歲時來獻見云。
[「漢書」卷二十八下 地理志 第八下 燕地条]
【註釋】
如淳曰:「如墨委面 在帶方東南萬里」
臣瓚曰:「倭是國名 不謂用墨 故謂之委也」
師古(顔師古[581-645年])曰:「如淳云 如墨委面 蓋音委字耳 此音非也 倭音一戈反 今猶有倭國 魏略云 倭在帶方東南大海中 依山島爲國 度海千里 復有國 皆倭種」
劉敞曰:「夫字宜屬上句」
そうなると、漢委奴国王印とは、胸形ネットワークの渡航海人が受け取った、外交・交易文書の正印ということになろうか。
なんらの伝承譚も収録されなかったということは、武力覇権を目指す体質が無かったか、統治機構樹立を嫌う人々か。どうあれ、大国主勢力とも天孫勢力とも協力体制を築いていたように見える。
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