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■■■ 「古事記」解釈 [2021.6.13] ■■■
[163] インターナショナル視点での神生み
冒頭に顕れる神々は海人の観念であることを示唆する記述はあるものの、宇宙創造とか、神々を生み役割を果たす訳ではない。それでは、何なのかとなるが、全く明らかにされていない。
神生みを果たすのは、別天神5柱と、神世7代12柱の最後の対偶神。どのような流れでそこに至るのかは神名から想像するしか手がないのでよくわからない。

この箇所は、通称"神生み"と呼ばれるが、インターナショナルな用語とは言いかねるかも。すでに12柱も登場してからということではなく、"倭限定の神生み"だからだ。山・野・河川・海の神と書いてあるなら、それは一般概念の神と解釈しがちだが、「古事記」の記述からすれば、あくまでも倭の島内で通用する話になっている。換言すれば、かなり古層の精神を反映していると言えよう。部族バラバラの信仰の時代だと、自分達の活動領域内での特徴的な山・生活圏の野・利用する河川や海にそれぞれ神が存在していただけで、抽象概念としての一般名は無かった筈ということ。

神生みに先立つ、嶋生みに順番があるように、一斉に国土が成立する訳もなく、先進地域が存在し、次第に言葉や概念を共有化できるようになり、意思疎通可能な領域が生まれ、初めて一般概念としての神が生まれた筈である。と言っても、倭国樹立の遥か昔のことであり、ローカルには固有名詞の神が引き続き存在しており、それが次第に一般神名の別名扱いになっていったのであろう。

と言うことで、伊邪那岐命・伊邪那美命の活動を眺めてみよう。・・・
この❷の箇所は、今までも色々触れてきたが、どう書くべきか悩ましい。素人には理解不能な解説が定番化しており、無碍に無視することもできないからだ。

一つは、"立 天浮橋"との記述部分。
橋ではなく梯、つまりハシゴと解釈すべしとされている。
橋とは、水面と並行に建造され、垂直になることはあり得ないと思うが。(浮橋とは、世の中の常識では、水面に浮かんでいる形状を意味する。)
さらに、その浮橋から、"指下 其 沼矛"。浅い泥地で用いられる道具を使うのであるから、ハシゴに立って指し込む姿勢は無理筋に映る。(「古事記」単独検討を避けると、どうしても強引な解釈が生じる。)

2つ目は、洪水神話との比較論。
  📖天之御柱を廻る婚姻譚のとらえ方
「古事記」のこの箇所は洪水にはまったく無関係。2柱は、大災害等で生き残ったのでもない。"天~諸命 以詔"とはっきり記載されており。そもそも、婚姻の地となる陸地は自ら生成した場所。陸地に兄妹だけで九死に一生で辿り着いたイメージとは余りにかけ離れている。
しかし、倭の領域に入っていないとはいえ、先島[宮古, 八重山]にスンダ域と同類の"兄妹始祖洪水神話"が残っており、無関係として無視する訳にもいくまい。ここらをどう見るかは、なかなか難しいものがある。
少なくとも、倭には、選良の民との意識濃厚なノアの箱舟譚のように、洪水での唯一の生き残りが祖先と誇示する必要がなかった、とは言えそう。
(ご注意:東アジア系とは言い難いチベット-ビルマ語系の彝族/烏蛮[羌系]にも耕作民の洪水神話があり、言われた通りに準備して助かり、そこで結婚して始祖となった話が伝わる。この手の話は、様々な部族で語られており、何をもって類縁関係ありとか、類似文化とみなすべきか、頭を整理しておく必要があろう。)

・・・このような前置きが必要と思ったのは、この男女対偶神を、古代信仰の始祖神の基本形である<天父&地母>観念と同類と見てよいか考えようとすると、同様な問題に直面するからである。

と言うのは、現代教育を受けていると、<天父&地母>とのイメージが<伊邪那岐命&伊邪那美命>に被ってくるが、その場合、どうしても"父なる天を信仰する遊牧民 v.s. 母なる大地を信仰する農耕民"のドグマが入って来ることになるからだ。
「古事記」の論調は単純ではないから、実に悩ましい。

例えば、このように並べることになる。
  【ギリシア】大地神/ガイア+天空神/ウラノス⇒神生み
  【天竺】天空神/ディヤウス+大地神/プリティヴィー⇒神生み
  【倭】伊邪那岐命+伊邪那美命⇒神生み

海人社会をどう考えるべきかという問題もあろう。
漁撈だけに頼った食では、決定的にカロリー不足であり、芋、穀類、堅果といった半栽培的採取兼業あるいは交易無しには社会存立は難しいからだ漁民でもあり農民でもあったのは間違いあるまい。それが、分離協業なのか、両立生業なのかもはっきりしない。

登場してくる神々の性情がわからないのは、現代の感覚からすると、こうした生活を定義するとどうしても曖昧にならざるを得ない点も大きかろう。ただ、別天神には"葦牙"の如き生命感を象徴する神が存在しているので、河川デルタ岸辺に住む海人との印象だけは強烈である。

もっとも、伊邪那岐命と伊邪那美命が登場すれば、嶋を造り、そこで子つくりに励むのだから、海人の信仰であることは自明と言えよう。

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❶冒頭。クラゲのような"原始の海"的世界に神が顕れる。
  造化三神  📖インターナショナル視点での原始の海
 その世界の名称は高天原。
 海に囲まれた島嶼社会に根ざした観念と言ってよいだろう。
 栄養豊富な海辺での水母大量発生のシーンが重なる。
 天竺なら さしずめ乳海に当たる。

❷神々の系譜が独神から対偶神に入り、
 神世の最後に登場するのが倭国の創造神。
  伊邪那岐命伊邪那美命
 高天原の神々の意向で、矛で国造りをすることに。
 矛を入れて引き上げると、
 あたかも潮から塩ができるかの如く、
 日本列島起源の島が出来てしまう。
 島嶼居住の海人の伝承以外に考えられまい。
 葦船 宇摩志阿斯訶備比古遅神 📖葦でなく阿斯と記載する理由
  "国生み[=嶋神生み]"
 [海神]大綿津見神
 鳥之石楠船~/天鳥船
 須佐之男命
❻安曇連祖神
  底津綿津見神
  中津綿津見神
  上津綿津見神
❼墨江之三前大神(住吉神)
  底筒之男神
  中筒之男神
  上筒之男神
❾伊都久三前大神(宗像神)
  多紀理毘賣命(胸形之奥津宮)
  市寸嶋比賣命(胸形之中津宮)
  田寸津比賣命(胸形之邊津宮)
❿天孫降臨後
  綿津見大神

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