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■■■ 「古事記」解釈 [2021.7.10] ■■■
[190] 神話を参考にするならギリシア
「古事記」解釈に、神話比較を使うべきでないというのが、小生の考え方。

信仰を抹消させた残渣と、未だに生きている叙事詩を同一次元で扱うべきでないというにすぎぬ。後者なら、信仰の系譜が残っているから、概念がだいたいつかめるし、個々の話の全体のなかでの位置付けも見えてくる。前者はそうはいかない。見掛けが整って見えるだけで、残り物だからバラバラなものを積み上げたに過ぎない。
その辺りに無頓着なまま、各所から断片を寄せ集めて類似性を探るのが比較神話の方法論と言ってよいだろう。違いが見えてくるからいたって面白いが、それだけのこととも言える。
そこから意味を探るのは無理筋だと思う。
もっとも、そのような断片でも、DNA推定と同じで沢山集めれば全体像が見えてくる場合はある。但し、それが成り立つのは同一信仰系譜にあると言えそうな対象だからだろう。そうでないなら、Apple-Orange比較論となんらかわらぬのでは。
しかし、大流行りになるのは、この世の中、すべて祖から始まる系統樹的秩序で出来上がっているというドグマ信奉が主流だからだ。地動説と同じで、すべてに無理矢理当て嵌めるのである。もっとも、食べていくにはそれが一番好都合だから、今後も続くこと間違いなし。

しかも、厄介なことに、信仰とは無縁な形で残っている"神話"とは、翻案文芸作品の可能性がある。従って、使われているモチーフがもともと存在していたと見てよいとは限らない。貨幣社会に属している限り、いくら辺鄙な場所であろうと、その地域の神職のお話が古代伝承であるとは限らないのは当たり前だから。

・・・こんなことをいくら書いても、風土論の扱いと同じで、ご理解頂ける人は少ないだろう。(例えば、環境によって、神話のバリエーションが生まれるというのと、風土論とは違うということ。虎がいない地域では、代替で熊になったというような話は風土論とは違うし、環境で信仰が決まってしまうという論旨しか読み取れない西洋的発想では風土論の意義は全くわからない。)
乾燥地帯の草原牧畜民と、モンスーン地帯の水田農耕民では、労働の質も違えば、頭の働かし方もまるっきり異なるし、食を得るための仕組みが根本的に異なる以上、両者の信仰は最初から道が異なるという感覚を持てるか否かということ。理屈で考えているのではなく、直観に基づく概念形成の問題である。・・・と言っても、益々わかりにくくなるだけか。
理屈ではなく、センスの問題である。(小生、家の近くでなんとはなしにジャズを聞きに入ってワインを飲んでいたが、座ったのがピアノの鍵盤の真横。ところが、使わないと思っていたピアノで突然予期せぬ飛び込みセッション。素敵な一夜だったが、そこでハタと気付いたのである。この方のモーツアルト演奏は大ホールでキラキラ音の大型スタインウエィでなければ、と。しかし、モーツアルトなら、東京文化会館小ホールでのピアノフォルテが最高では。耳で決まるので、共感が得られっるものかはわからない。しかし、それはどうでもよいことで、このことから、自分が何を愛好しているのか、自分で理解できるようになる。初めて、概念が形成さたのである。その概念を伝えるには理屈があると便利そうにも思えるが、伝わっているかはなんとも言い難きものがある。)

前段が長すぎご容赦の程。
意味ある、比較神話について書こうと思いたったので、どうしてもそうなってしまただけ。

取り上げるのは、叙事詩人ヘシオドス[前740-前670年]:「神統紀」。と言っても読んだ訳ではない。
ギリシア人の信仰する無数の神々を体系的に整理し系統づけたものとされる書だが、どうして興味を覚えたかと言えば、以下の文句が知られているから。・・・

 私よりもせいぜい四百年前の人たちで、
 ギリシア人のために
 (口承叙事詩から)
 神の系譜をたて、
 神々の称号を定め、
 その機能を配分し、
 神々の姿を描いて見せてくれたのは
 この二人、ヘシオドスとホメロスなのである。
 [ヘロドトス:[松平千秋 訳]:「歴史」巻二#53]

ご想像がつくかと思うが、こう読んだのである。
 八世紀初頭、
 倭人のために
 (口承叙事詩を文字化すべく)
 神の系譜をたて、
 神々の称号を定め、
 その機能を配分し、
 神々の姿を描いて見せてくれたのは
 たった一人、太安万侶なのである。


エーゲ海の【ギリシア】の神々との比較について書いた時に、ふと気付いたのである。下記はもちろん「神統紀」に依拠している訳ではなく、いい加減に、Wikiから抜き取って、こちらの都合に合わせて見易くなるように勝手に作ったもの。ゴチャゴチャでとても手に負えそうにないからだが。
  📖インターナショナル視点での原始の海
[原古]混沌/カオスChaos

大地/ガイアGaia
│└┐
[子]天空/ウラノスUranus
└┬┘母子婚
├─┐
○クロノスChronos
△レアーRhea
└┬┘
┼┼├┬┬┬┬─┐[末子 or 長子]全知全能神
┼┼│││││ゼウスZeus…主神@オリンポス山(≒天界)
┼┼││││ヘーラーHera…天界の女王:結婚神
┼┼││││└┬┘姉弟婚
┼┼[家庭]ヘスティア
┼┼┼[農]デメテル
┼┼┼┼[冥府]ハデス
┼┼┼┼┼[海]ポセイドン

小生は、ギリシアについては、"倫理社会"と、悲劇の日本初公演を見たくらいしか記憶がない。無粋ではあるが、廃墟見物の趣味もない。子供用の物語ガイストは多分全部読んだだろうが、そんなものに何の意味もなかろうから、ほとんど無知に近い状態。しかし、ギリシア神話を調べると日本の事情についても色々わかってくることがありそうな気はしている。
学生時代のことだが、地震が来れば本に埋もれてしまうこと間違いなしのお宅に住む研究者から、山の神は男女あり、中性でもあると教えてもらいビックリした覚えが未だに残っているからだ。

余談はさておき、最初に、結論的に、小生が考えるギリシア神話の特徴を書いておこう。「古事記」を眺めてくると、こう結論するしかなくなるのである。・・・
 〇根底では、聖書の民と親和性が高い。
 〇寄せ集めで島嶼的なゴチャゴチャ信仰。
 〇始原の混沌は実は無概念。
 〇最高神の意味は無い。

聖書を読めばこの神が部族神であることは一目瞭然。畜産マネジメントを生業とする遊牧民は是だが、農耕民は否。そこに理由などない。
和辻の指摘を待つまでもなく、沙漠と隣り合わせの地で生きる人達の神なのだ。この民は食い物を育てている訳ではなく、勝手に育っていく動物を利用して食っていくことが生業。動物を支配することが仕事なのである。そのため、家族関係にも王権となんらかわらない支配者コンセプトが持ち込まれることになる。
一方、ギリシアにはそのような部族神はいない。アイデンティティはギリシア語圏というに過ぎないから当然だろう。統一信仰を欠くから、沿海都市群と数多くの島嶼からなるバラバラな集合体以上ではない。各地毎に別な多神教が存在している状態。
いかにも、それぞれの浜や港を牛耳る海人達が造っている社会に映る。
至上神一途の聖書の民とは、文化的にかけ離れた存在と見なさざるを得まい。

ところが、風土論的視点で見ると、これとは違った面が見えてくる。

なんといっても驚きは、ギリシア神話が海人の話とは思えない点。そんな馬鹿なと思う程の伝承しかなく、海を毛嫌いしている体質と見なしてもおかしくない程。
このことは、エーゲ海には、漁を中心として生きれるだけの生産性は期待できず、交易と戦争に於ける通り道以上の役割との認識しかなかったことになろう。
つまり、生業は多種の複合であり、ギリシアの民は、土着の海人ではなかったことを意味しよう。
・・・後背地の林は船材と燃料として伐採され、降雨量からみて、ほとんどは地勢に応じて、果樹園か畜産用野原にされた筈。山では狩猟という具合で、農耕マイナーなギリシア版里山が確立していたように思える。農耕適地は別地を武力的に入手し、冬季に奴隷農法が行われていたのでは。
このことは、移牧を生業としてきた民が、この地に入って来て、副業化を図り余裕ある生活ができるようになったことを意味していそう。そうだとすれば、ギリシア語圏の人々は、根底は遊牧民的性情ということになり、聖書の民の感覚と似たところがあると見てよいのでは。

この辺り、天竺に進出した遊牧系の民と似たところがある。但し、こちらは大陸的地勢なので、遊牧⇒移牧⇒農耕民マネジメントという流れで浸透していったのだと思われる。その結果、ヒマラヤと河川[インダス+ガンジス]を始原神とするベーダ教が生まれたと考える訳だ。

ギリシアは箱庭的分断地勢であり、混合型生業を営んだとすれば、様々な神々が存在するのは必然では。統一的な叙事詩は生まれようがなかろう。軍事的優位性が顕著な勢力の話がポツポツと残るだけにならざるを得まい。
そう考えると、始原とされているカオスは、ゴチャゴチャな厖大な神々すべてを包含するために設定されただけの、無概念の神である可能性もあろう。

とは言え、もともとは遊牧の民だったとすれば、その信仰を基調としている筈だから、混沌とはすべてを支配する最高男神の筈。
実在するギリシア最高峰のオリンポス山2917mで差配するゼウスが最高神とされるとは思えない。実態的にはゼウス信仰はほとんど意味がなかった可能性もあろう。オリンポス山の最高神群とは、生業に関係する対偶神がゾロゾロと並列的に上げられているだけなのでは。

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《混沌》
┌┴─┬──┬──┬──┐
奈落┬大地愛欲暗黒
┼┼││┼┼┼┼┼┼┼│└定業 夢 復讐 嘲り 愛情 老年
┼┼││┼┼┼┼┼┼┼ 死 眠り 不和 欺瞞 苦悩 運命 悪霊
┌─┘├──┬┬──┐└┬──┐
┼┼天空山々天空
┼┼┼│└┬┘
┌┬┬┤├┬┬┐
□□□□□□□□
┼┼┼┼┼┼ティーターン
┼┼┼┼┼《12神》[オーケアノス+テーテュース・ヒュペリーオーン+テイアー・コイオス+ポイベー・クロノス+レアー・テミス・ムネーモシュネー・クレイオス・イーアペトス]

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