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■■■ 「古事記」解釈 [2021.8.4] ■■■
[215]椋鳥が好む実の木の重要な特徴
牟久木ムクノキ/椋木/糙葉樹/樸樹📖武蔵野に住む鳥に愛された木の果実は黒色大豆に似ているが球に近い。熟すと甘く生食可能である。

「古事記」では、この実を食べずに噛んで吐き出すだけ。・・・
   《根国訪問譚》
  率入家而 喚入八田間大室 而 令取其頭之虱
  故爾 見其頭者 呉公多在
  於是其妻 以 牟久木實 與 赤土 授其夫
  故咋破其木實含赤土 唾出者
  其大神 以爲咋破呉公 唾出 而
  於心思愛而寢

材の方だが、正倉院御物では柿と並んで鞍材に使われていたりする。刀子把鞘用には最高級は渡来材だが、類似国産材として利用されている。

ムクという名称だが、諸説あって不詳そのものだが、おそらく"剝く"という意味。
皮がはがれるという意味ではなく、古代から、乾燥葉(珪酸含有)を研磨ペーパー的に使っていたからだ。骨角器・木竹用具の時代、道具の使い易さと性能向上は死活問題であり、この葉で一所懸命に磨いた筈。
なにげなく、ムクの実が使われている話が収録されている訳ではない。

樹木名だが、中華帝国では樸樹ともされる。一見、見掛けない文字だが僕の旁と同じで、"素樸⇒素朴"となった文字だ。滅多に気付く人はいないかも知れぬが。
日本は道教信仰の国と言いたげな太安万侶は、はたして、以下をご存じだったろうか。・・・
  絕聖棄智 民利百倍
  絕仁棄義 民復孝慈
  絕巧棄利 盜賊無有。
  此三者以為文 不足。
  故令有所屬:
  見素抱 少思寡慾 絕學無憂。 [老子「道経」十九章]

ムクは民家近くに生えていることも多く老木も少なくない。そのため洞も多いし、板根になっており、独特の雰囲気を醸し出す。中華帝国の風土だと、そこには木霊が住んでいそうな気にもなる。
南海島嶼感覚からすれば、日々供物を捧げて祈る場になりそうなものが、滅多にそんなことにはならない。・・・「酉陽雑俎」からすれば、そこは小さな妖怪が出てくる場になるらしく、出てきたところで、ほとんど悪さなどしない童的な霊だが、見つけたら有無を言わさず叩き殺すのが習慣となっている。流石、儒教国である。
著者の段成式は仏教徒であり、どう思ったかは自明だが、この手の話をママ収録しただけ。自分達の住む社会とはこんなモノと伝えてくれたのである。
「古事記」も、読者は皇族中心のインテリ層だから、「酉陽雑俎」と似たところがありそう。

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