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■■■ 「古事記」解釈 [2021.10.22] ■■■
[294] 天津罪と国津罪について
禊祓行儀記載書的に映る箇所もあるとの話をしたので📖神学は峻別する必要がある、その辺りについて書き留めておこう。

結構、太安万侶の編纂方針が見えてくるからだ。

内容的にはどうということもない、"神功皇后の三韓征伐譚"として紹介される箇所。天皇崩御後の殯が行われる際に、同時に大祓が行われたと記載されているに過ぎない。

大祓が行われるたされている。突然の崩御であるから、当然過ぎる習わしとの印象を受けるが、記載はそれだけで十分な筈。
ところが矢鱈に詳しい。・・・
爾 驚懼 而 坐殯宮
更取國之大奴佐 而
種種求
  生剥 逆剥
  阿離 溝埋 屎戸
  上通下通婚 馬婚 牛婚 鷄婚
   之罪類
爲國之大祓


どうも、これらの罪を列挙する部分は大祓の定番のようだ。
・・・天の益人等が 過犯けむ雑々の罪事は
天津罪と
  畦放 溝埋 樋放 頻蒔 串刺
    
…畦破壊 水路埋戻 溝取外 追加蒔種 竹串水流妨害
  生剥 逆剥 屎戸
ここだくの罪を 天津罪と法別て
国津罪と
  生膚断 死膚断
  白人 胡久美
    
…皮膚異常発生(アルビノ化 疣/瘤)
  己が母犯罪 己が子犯罪 母と子と犯罪 子と母と犯罪 畜犯罪
    
…禁忌性行為
  昆虫の災 高津神の災 高津鳥の災 畜仆し 蟲物為罪
ここだくの罪出でむ・・・
[「六月晦大祓祝詞」]

こうした罪の祓いを、国家が行うことにより、神権と王権の統合を図っているようにも思える。
現代からすれば、超近親婚の存在は例外中の例外に思えてしまうが、特に貴種の場合は誕生直後から親子同居でないのが普通であり、近親か否かを判別する術を欠くことが多く、性情が似ていると惹かれるから、そのような婚姻が発生して当然だろう。
そこらをコントロールしながら、近親婚で皇統の尊厳を維持するのは並大抵のことではなかろう。
田圃は神聖な地とされているもの、ある意味当然のことで、病虫害発生や、灌漑不調で作物全滅もよくあることであり、法家的発想なら、犯罪者は即刻処刑たるべしと言えよう。王として五穀豊穣を祈願しておきながら、田圃も守れない為政者という烙印を押されないためにも、この条項は必須だと思われる。
しかし、田圃の破壊行為を無くすのは本質的に無理である。部族や家が、畦や水路で利益相反状態に置かれるのは常であり、統治者のメネジメント力と状況の深刻さで、目立つかどうかが決まるに過ぎまい。

牛馬に対する残虐殺戮は、畜肉と見なす人々の存在がうかがえるものとなっている。埴輪の存在から、倭国への移入は古そうだが、目的はあくまでも農耕と軍事の貴重な動物であり狩猟対象とは違うから、これは超上層部における中華帝国の肉の饗宴が行われていたことを意味していそう。
敵対勢力を残虐に殺戮するシーンは、毛嫌いされるどころか、天皇讃嘆に繋がっているのは明らかだから、牛馬の扱いについては中華帝国のルールの単純な摸倣である可能性が高かろう。
ただ、牛馬泥棒が横行していておかしくなく、即刻、有用部位の皮のみ取得する行為も少なくなかった筈である。「今昔物語集」を読めばわかるが、盗賊業の貴種も存在していたのは間違いなさそうだし。主流から外されれば、生活レベル維持にはその手しかないだろうし。

獣婚は、いかにも変質者的行為だが、見世物やカルト儀式としては有り得る行為であり、かなりおどろおどろしい一面もあったことがわかる。

言うまでもないが、こうした罪については、速須佐之男命の高天原での行為ですでに語られており、ここで改めて解説されていることになる。
爾 速須佐之男命 白于天照大御~:
「我心C明 故我所生子得手弱女
 因此言者 自我勝」云
而 於勝佐備
離天照大御~之營田之阿 埋其溝
亦 其於聞看大嘗之殿 屎麻理散
 :
轉天照大御~坐忌服屋 而
令織~御衣之時
穿其服屋之頂 逆剥天斑馬剥 而
所墮入時
天服織女見驚而 於梭衝陰上 而 死


これは結局のところ、速須佐之男命の追放という大祓の儀に繋がる。客観的に見れば、このことで、皇統譜的には速須佐之男命の物実の勾玉である五柱に限定されてしまったことになり、皇嗣が正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命に確定したということになる。
同様に、大祓を行った息長帯比売命/神功皇后の皇子 大鞆和気命/品陀和気命が皇嗣と確定。対立する、大中津比売命の皇子 香坂王・忍熊王は消え去るのみ。

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