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■■■ 「古事記」解釈 [2021.11.22] ■■■
[325][脱線]「万葉集」巻十三の"こもりくの"
万葉集ズブの素人で知識がほとんどないにもかかわらず、万葉集から、"隠國[こもりく]の 長谷[泊瀬]の川"と引いた。📖[私説]"こもりくの"泊瀬の意義、多少気になるので、そこらについて書いておきたい。

小生は、素人なら、冒頭の巻一/二は別だが、先ずは巻十三を読むとよいのではないかと思っている。
ここは、余計なことわりが無いからである。要するに作者不詳歌集ということ。歌以外の記述があるのは完璧に例外扱いができる。

解説を読むと、この巻は長歌のオンパレード(66首)とか。短歌はほとんど反歌ということになろう。
その辺りはどうでもよいのだが、作者や状況についての背景情報から入る必要が無いのは実に有り難い。こちらの感覚に合わない専門家の解釈を受け入れざ必要が無いからである。
さらに嬉しいのは、俗に言う、枕詞のオンパレードなので、感覚的に枕詞がつかめる点にある。
まるで、歌鑑賞入門書の如き体裁と言っても過言ではなかろう。
このことは、他巻の歌より古い作品を収集した可能性もあるが、有名な伝承歌の読み替え版として、人々が謡ったりするための作品と見ることもできそうだ。作者を伏せる必要もないのに、記載が一切ないのはいかにも不自然だし。

長谷だけでも、これだけ収録されている。・・・
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   [#3225]
天雲の 影さへ見ゆる
こもりくの[隠来(矣)]
泊瀬の川は[長谷之河者]
浦なみか 舟の寄り来ぬ 礒なみか 海人の釣せぬ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 礒はなくとも 沖つ波 競ひ漕入り来 海人の釣舟
   [#3226]
さざれ波 浮きて流るる
泊瀬[長谷][河]
寄るべき礒の なきが寂しさ
・・・大和川は大阪湾に注ぐが、潟湖⇒下流⇒難所(船乗り換え)⇒中流⇒支流⇒海石榴市船溜⇒初瀬川⇒細枝流となる訳で、海の浦や磯的な情景と比較してどうするという気もする。難波と長谷の違いを詠んでいるということだろうか。釣り船が浮かぶ景色を懐かしむ心情の吐露にどういう意味があるのか定かではない。現代感覚だと、こんな山奥で、水は澄んでいるとはいえ、ともな文化生活も送れぬということになろう。
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   [#3263]
こもりく[己母理久]
泊瀬の川[河]
上つ瀬に 斎杭を打ち 下つ瀬に 真杭を打ち 斎杭には 鏡を懸け 真杭には 真玉を懸け 真玉なす 我が思ふ妹も 鏡なす 我が思ふ妹も ありといはばこそ 国にも 家にも行かめ 誰がゆゑか行かむ
・・・コリャなんだの類。木梨軽太子の話であろうか。
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   [#3299]
見わたしに 妹らは立たし この方に 我れは立ちて 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 安けなくに さ丹塗りの 小舟もがも 玉巻きの 小楫もがも 漕ぎ渡りつつも 語らふ妻を
<左注:或本歌頭句云>

こもりく[己母理久]
泊瀬[波都世]の川[加波]
彼方に 妹らは立たし この方に 我れは立ちて
・・・川で相対する男女。立派な船があればなあ、以上ではなさそう。天の川ならともかく、初瀬川である必然性がさっぱりわからない。
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   [#3310]
隠口
泊瀬の国に
さよばひに 我が来れば たな曇り 雪は降り来 さ曇り 雨は降り来 野つ鳥 雉は響む 家つ鳥 鶏も鳴く さ夜は明け この夜は明けぬ 入りてかつ寝む この戸開かせ
   [#3311]
隠口[隠来]
泊瀬小国に
妻しあれば 石は踏めども なほし来にけり
   [#3312]
隠口
泊瀬小国[長谷小國]
よばひせす 我が天皇よ 奥床に 母は寐ねたり 外床に 父は寐ねたり 起き立たば 母知りぬべし 出でて行かば 父知りぬべし ぬばたまの 夜は明けゆきぬ ここだくも 思ふごとならぬ 隠り妻かも
・・・典型的な妻問い歌。たな曇り…さ曇り 雪…雨の対と、野鳥…家鳥 雉…鶏の対で、夜が明けて来たから入れてという訴え。石だらけの大変な道にもかかわらず、来訪したと言うに。
妻にしたいといらした君への言い訳か。"奥には母、入り口の方には父が根ており、出て行けば気付かれてしまいます。思い通りにはならぬのです。"と。
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   [#3330]
隠口[隠来]
泊瀬[長谷]の川の
上つ瀬に 鵜を八つ潜け 下つ瀬に 鵜を八つ潜け 上つ瀬の 鮎を食はしめ 下つ瀬の 鮎を食はしめ くはし妹に 鮎を惜しみ くはし妹に 鮎を惜しみ 投ぐるさの 遠ざかり居て 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 安けなくに 衣こそば それ破れぬれば 継ぎつつも またも合ふといへ 玉こそば 緒の絶えぬれば くくりつつ またも合ふといへ またも逢はぬものは 妻にしありけり
   [#3331]
隠口[隠来]
泊瀬[長谷]の山
青旗の 忍坂の山は 走出の よろしき山の 出立の くはしき山ぞ あたらしき 山の 荒れまく惜しも
・・・長谷と忍坂の山が見える地で詠まれた歌だろうが、大長谷若建命@長谷朝倉宮/[21]雄略天皇の皇女が亡くなってしまい、鮎の鵜飼漁で思いが募ってくるのである。差配していた山も荒れていくことになる。

-----参考-----
[巻_一#0045]:【雑歌 人麻呂歌】 やすみしし我が大君高照らす日の皇子・・・都を置きて 隠口の 初瀬の山は
[巻_一#0079]:【雑歌】 大君の 命畏み 柔びにし 家を置き こもりくの 泊瀬の川に 舟浮けて
[巻_三#0282]:【雑歌】 つのさはふ磐余も過ぎず泊瀬山いつかも越えむ夜は更けにつつ
[巻_三#0420]:【挽歌 石田王卒】 なゆ竹の とをよる御子 さ丹つらふ 我が大君は こもりくの 初瀬の山に 神さびに
[巻_三#0424]:【挽歌 石田王卒】 こもりくの泊瀬娘子が手に巻ける玉は乱れてありと言はずやも
[巻_三#0425]:【挽歌 石田王卒】 川風の寒き泊瀬を嘆きつつ君が歩くに似る人も逢へや
[巻_三#0428]:【挽歌 人麻呂歌】 こもりくの初瀬の山の山の際にいさよふ雲は妹にかもあらむ
[巻_六#0912]:【雑歌】 泊瀬女の造る木綿花み吉野の滝の水沫に咲きにけらずや
[巻_六#0991]:【雑歌】 石走りたぎち流るる泊瀬川絶ゆることなくまたも来て見む
[巻_七#1095]:【雑歌】 三諸つく三輪山見れば隠口の泊瀬の桧原思ほゆるかも
[巻_七#1107]:【雑歌】 泊瀬川白木綿花に落ちたぎつ瀬をさやけみと見に来し我れを
[巻_七#1108]:【雑歌】 泊瀬川流るる水脈の瀬を早みゐで越す波の音の清けく
[巻_七#1270]:【雑歌】 こもりくの泊瀬の山に照る月は満ち欠けしけり人の常なき
[巻_七#1382]:【譬喩歌】 泊瀬川流るる水沫の絶えばこそ我が思ふ心遂げじと思はめ
[巻_七#1407]:【挽歌】 隠口の泊瀬の山に霞立ちたなびく雲は妹にかもあらむ
[巻_七#1408]:【挽歌】 たはことかおよづれことかこもりくの泊瀬の山に廬りせりといふ
[巻_八#1593]:【秋雑歌】 隠口の泊瀬の山は色づきぬ時雨の雨は降りにけらしも
[巻_九#1664]:<題詞> 雜歌 泊瀬朝倉宮御宇大泊瀬幼武天(皇)御製歌一首
[巻_九#1770]:【相聞】 みもろの神の帯ばせる泊瀬川水脈し絶えずは我れ忘れめや
[巻_九#1775]:【相聞】 泊瀬川夕渡り来て我妹子が家の金門に近づきにけり
[巻_十#2261]:【秋相聞】 泊瀬風かく吹く宵はいつまでか衣片敷き我がひとり寝む
[巻_十#2347]:【冬相聞】 海人小舟泊瀬の山に降る雪の日長く恋ひし君が音ぞする
[巻十一#2353]:【旋頭歌 人麻呂歌】 泊瀬の斎槻が下に我が隠せる妻あかねさし照れる月夜に人見てむかも
[巻十一#2511]:【問答 人麻呂歌】 こもりくの豊泊瀬道は常滑のかしこき道ぞ恋ふらくはゆめ
[巻十一#2706]:【寄物陳思】 泊瀬川早み早瀬をむすび上げて飽かずや妹と問ひし君はも
[巻十三#3225]:【雑歌】
[巻十三#3226]:【雑歌】
[巻十三#3263]:【相聞】
[巻十三#3299]<左注>: 【相聞】
[巻十三#3310]:【問答】
[巻十三#3311]:【問答】
[巻十三#3312]:【問答】
[巻十三#3330]:【挽歌】
[巻十三#3331]:【挽歌】
[巻十六#3806]:【雑歌】 事しあらば小泊瀬山の石城にも隠らばともにな思ひそ我が背

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