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■■■ 「古事記」解釈 [2021.12.23] ■■■
[356]天皇名詳細検討に意味はあるか[続]
天皇名を記載するのに、"命"でなく、わざわざ"王"を敬称にしていることについて、考えてみたが📖、この箇所はさらに、ぶっきらぼうにも"天皇"と記載していたりする。・・・
【26代段冒頭】
袁本杼命 坐 伊波禮之玉穂宮 治天下也・・・
 手白髮命<是大后也>
  生御子
天國波流岐廣庭命<波流岐三字以音 一柱>
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【27代段冒頭】
御子 廣國押建金日 坐 勾之金箸宮 治天下也
此天皇無御子也
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【28代段冒頭】
弟 建小廣國押楯命 坐 檜坰之廬入野宮治天下也
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【29代段冒頭】
天國波流岐廣庭天皇 坐 師木嶋大宮治天下 也
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もう一つは、名称に音読みの注が加わっている点。文字の意味を解釈しないようにとのご注意である。おそらく、"波流岐/ハルキ≒霽るき"だろう。スッキリさせるという表現に使われる動詞の連体形だと思われる。
別に、辞書的に見て判断しているのではなく、頭に"天国"という枕が付けられているからで、ようやくにして、正当な皇統譜の天皇が即位してゴチャゴチャの皇位継承争いがご破算になったという感情が籠められていると考えたからである。

・・・この話、考え抜いた結論などというものではなく、実は極めて単純である。

儒教国家の模倣の徹底化が図られている訳で、皇統譜も男系で示すことになったが、すでに書いているように、倭国は女系であり、それに乗った形での男系でしかないというのが、太安万侶の見方。
しかし、「古事記」編纂命を下した天武天皇は中華帝国型の天子制度国家を目指しており、それに従った皇統譜を作成することになる。『天皇』位を、男系一系で記載するようにとの指示と同義である。こうした系譜は、間違いではないが、統治の実体を示している訳ではない。
そもそも、宗族第一主義の儒教国家とは、相容れない風土にもかかわらず(例えば、中華帝国では嫡子長子継承が原則となる。娶る対象は宗族外女性。血族関係がなさそうな女性であっても、同姓婚は絶対的禁忌である。)、天子独裁-官僚統治の体制を構築せざるを得なくなったために、矛盾が発生しているということ。それを隠蔽し、新体制へ邁進せざるを得ない国際政治状況だが、太安万侶としては、そこらを記録に残しておきたいと考えたのだと思われる。

おわかりだろうか。
・・・ご存じのように、倭国の首長は神権を握る女性であり、王権は弟にあたる男性、というのが中華帝国の観察結果である。しかし、首長を男性にしないという取り決めがあった訳ではなさそうで、連合王国的になって、王権の統一が難しくなり国が乱れるという風土と見なしたようである。
天武天皇的には唾棄すべき風土ということになるが、太安万侶からすれば、評価はどうあれ、それが実態であるということになろう。

皇統存続の危機に直面し、品太王五世孫が即位というのは、天武天皇的な評価であることに注意を払うべきだろう。太安万侶は五世孫などに何の関心も払っておらず、皇統上の継承者であるかどうかなどどうでもよいという態度である。
この系譜を真面目に調べ、確かに皇統を引き継ぐ要件を満たしていることを示したのは、仏教勢力である。太安万侶からすれば、マ、謹厳実直なお仕事ご苦労様でしたというところでは。現代でも、5代遡れば、鼠算的な見地もあって、基本、縁戚関係を問うことはできないのが常識であろう。(もちろん、現代の隣国の儒教国は全く異なる。)

要するに、手白髮命が首長であって、[26]品太王五世孫を婿として認めただけのこと。皇嗣は御子[29]天國押波流岐廣庭"天皇"なのである。皇統直系譜から言えば、[26〜28]代天皇は記載する必要が無いことになろう。大雀命から、殺戮された即位していない皇子をを経て、意祁命、手白髮命、[29]天皇と一本で繋がることになる。
ようやく、スッキリした系譜になったのである。

そのような記載書を天武天皇に献呈する訳にいかないのは当たり前。

女帝の時代になって、初めて、公的に奉ることができたのである。もちろん、今上天皇の命を頂戴してすぐに完成できる筈もなく、練りに練ったドラフトがあったということになろう。

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