→INDEX

■■■ 「古事記」解釈 [2022.1.14] ■■■
[378]菩比は穂日とは違う
「古事記」の神名記載は実に面白い。

すべて"天菩比神"とだけ書けばよさそうなものだが、天安河での宇氣布で生まれた五男三女神のハイライトは第1男神の正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命だが、第2男神は吹棄氣吹之狹霧所成神御名は"天之菩卑能"と記載されている。結局のところ、大国主命の下に婿入りしてしまった神である。

"天の"は、天孫との近さと地祇では無いことを示すが、"菩"という表音文字使用は異常であろう。常識的には、ホ・ヒは、穂あるいは、火・日という文字を当てることになる。そのため、"菩"はこれらの代替であるとの説明ばかり見掛けるが、どうして異なる文字にしたのかはなはだ疑問な解釈である。
わざわざ、<菩卑>と表記しているのだから、そこに、何か言いたいことがあると考えた方がよさそうに思うが。・・・

"菩"は、よく知られているように、佛教用語の真理を悟るという意味の"菩提"あるいは、その修行者を指す"菩薩"と云う、漢訳文字として使われている。(尚、菩提樹は「酉陽雜俎」では樹出摩伽陀國とされている。)
太安万侶は、わざわざ、そのような仏教用語にしか用いられていない文字「菩」を使った上、付随して「卑」も用いたのである。どう見ても意図的は表記。

「菩」は辞書的には仏教用語にしか用いられていないが、形而上学的意味表現のために作られた文字であるとは思えず、基本的には、冠部位の艸[=草]と音素表示部分の咅[≒否…つばを吐いて拒否する。]から成り立っていると見るのが自然。従って、本来的な意味としては佛草ということになろう。
それが、具体的な植物として、何に当たるのかは定かではないが、以下の5つを候補として挙げることができるだろう。その中では、雄之万年草がドンピシャという感じがする。倭的には、仏教的"青草"イメージを醸し出す草ということで。・・・
  雄之万年草[オノマンネングサ]/佛甲草(龍牙草)
    …摘み取ってほったらかしにしても生きている草。
       (華中〜華南からの帰化植物らしい。)

  佛座[ホトケノザ]/寶蓋草
  毒矯[ドク ダミ]/蕺菜
  女郎花[オミナエシ]/黄花龍牙
  翁草[オキナグサ]/朝鮮白頭翁

う〜む。
太安万侶が"菩比"神としたのは、その姿勢に、かなり仏教的なヒト臭さを感じたからではあるまいか。
現代感覚での判断であるが。

と言うのは、大国主命とは、いかにも、葦原中国を治定している大王の一般名詞的神だから。しかも、高天原の始原神の一柱の御子との共同統治でなんとかこなしてきたと吐露している。その後、問題を起こした訳でも無さそうなのに、突如、なんの理由もなく、高天原の神が統治することに決定したと通告。現代で言えば、侵略を国是にする武力国家そのもの。

この実行のため、最初に派遣されたのが天之菩卑能命。ところが、高天原からの命に背いて、出雲では婿入りで後継者になろうと考えたのか、大人しくしていたようだ。高天原からすれば、天照大御神の5柱の神ではあるものの、媚附大國主神で命に従っていないということで、新たに派遣者を決めざるを得なくなってしまう。

天菩比神からすれば、大国主命スタイルの統治に特段の難点無しと判定せざるを得ず、国譲りは無理筋と考えて、穏やかな形で後継者になる道を画策していたということのようだ。それが太安万侶の眼から見ると仏教的に映ったのではあるまいか。

ともかく、天之菩卑能命では、どうにもならぬと見た高天原は、新たに天若日子を派遣。しかし、同様な状況に。その結果、高木神は、天若日子は反高天原者と烙印を押し、暗殺同等の措置を執り行う。(この高木神の血統を引き継ぐのが、降臨して皇統の祖となる神である。天照大御神の御子はこの血統を欠くため、命じられたにもかかわらず、降臨を避けて、高木神の娘との間に生まれた子にその任を譲ったと見ることもできよう。)

さて、天之菩卑能命だが、子をもうけた。その名前は建比良鳥命。いかにも、高天原の鳥信仰族に属していそうな印象を与える。阿遲鉏高日子根~が迦毛大御~であり、いかにも鳥族としての親和性が高そう。実際、出雲國造等の租とされている訳で。📖誓約で生まれた神は1柱を除いて降臨か
もちろん、出雲以外の各地の氏族も縁戚に当たるとされている。・・・大国主命に媚び、かつ、高天原からの命に反逆姿勢を見せたとされる神の系譜に当たることが果たして当時の政治上、プラスに働くのか、マイナスなのかはよくわからないが。

 (C) 2022 RandDManagement.com  →HOME