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■■■ 「古事記」解釈 [2022.4.22] ■■■
[476]"弖"は助詞の代表
弓に棒の漢字には、 弖 弔 引があるが、先頭の漢字だけは滅多なことでは出会わない。
唯一、<弖爾乎波[てにをは]>という用例として紹介されることがある程度。尤も、見慣れない文字なので"手爾遠波"とされることが多いが。
つまり、弖とは助詞"て"の漢字表記ということになる。もともとの漢字についての情報はさっぱり要領を得ない。
≪弖[弓+一]
 【語源】俗文互字
  [音]テイ タイ シ チ
  [訓]ふもと
[「古事記」]
【歌】・・・都麻麻岐迦泥・・・阿理登岐加志・・・阿理登伎許志・・・伊麻陀登加受
而詔之:「豐葦原之千秋長五百秋之水穗國者 伊多久"佐夜藝
"有"祁理"」
 :用例多数
[「万葉集」巻一#36] 大宮人者 船並…大宮人は 舟並め
 :用例多数

その俗文互字だが、「万葉集」で用いられている別文字がある。同様に、助詞"て"である。
漢籍では出所不詳だから「古事記」で使われることは無い。
≪氐[氏+一]
 【語源】互⇒氐≒弖(疑似其訛俗字)
  [音]n.a.…国字
  [訓]
[巻十七#3915] 安之比奇能 山谷古延氐…あしひきの山谷越え
[巻十七#3993] 氐尓麻吉母知弖に巻き持ち
 :用例多数

成程。
"テ"は"天"の初画" ̄ナ"であり、"て"も"天"の書き流しから来ていると見られている。助詞"て"の音素文字として"天"を使っていたように思える。しかし、天とは特別扱いの文字であるから、汎用的に使うことがはばかられたのでは。と云っても、もともと"天"の文字構成は"大+ ̄"であるから、俗字化手法の"_"を付けることにするか、となったのでは。
"天"をママ使う人もいたのだし。・・・
≪天≫
[巻六#919] 葦邊乎指天…葦辺をさし
しかし、"𡗓[大+_]"という大地に立つという意味の文字があり不適である。そこで、手近な氐・弖を代替として使うようになったと考えたらどうか。

一番安直なのは"手"。こちらになる可能性もあったかも。太安万侶は気分を損なうだろうが。
≪手≫
[巻一#1] 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居 師吉名倍手…大和の国は おしなべ 我れこそ居れ しきなべ 我れこそ座せ
 :用例多数

"天"だけではなく、音読みの頭が"テ"の文字を使う人は少なくなかったのであろう。例外的な助詞"て"用法ではあるものの。・・・
≪帝≫
[「古事記」] 伊多玖佐夜帝阿理那理
[巻五#806] 由吉帝己牟丹米…行き来むため
≪底≫
[巻十七#3896] 家尓底母…家にても
≪提≫
[巻五#794] 斯多比枳摩斯提…慕ひ来まし

ただ、この辺りの見方には、前提がある。📖而の訓「古事記」の地の文では、<而>は指定されない限り、"読まず"で一向にかまわないし、"常識的には"<て>であるが、文脈に合わせてそれ以外も。"以て"も、テと読むと文章の流れがよくなる場合が多いが、これは文法的な意味があったりするので同等には扱えない。
と云うことで、弖爾乎波[てにをは]のテに相当する文字としては、「古事記」翻訳文上ではおそらく"而"が一番多いだろうし、以もかなりありそうだが、代表は、あくまでも"弖"とすべきだと思う。

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