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■■■ 「古事記」解釈 [2022.6.3] ■■■
[518]蔵・漢・倭のぶつかりあい
清濁論に拘っているが、それは音韻論にも触れておこうという姿勢ではないことを示すため。

当たり前だが、門外漢が言語学を追求するなど、ほとんどあり得ぬこと。しかし、倭語を後世に伝えるための書でもある「古事記」の本質に迫ろうと考えるなら、決して避けては通れないのである。

ちなみに、本居宣長は清濁論では矢鱈に厳格である。📖清濁論は素人観点が望ましい・・・
  厳かにその清濁を守りて読むべし。
おそらく、直観的(直感ではない。)に、倭語に濁音無しが見えていたのだと思う。突き詰めれば、<か>音はあるが<k+a>音など無かったのでは、と気付いたのだろう。

要するに、太安万侶は、漢語表記を根底とする中華帝国と併存するには、倭語の統一的表記を図る必要があると見て、"子音-母音-子音"のサンスクリット文法を参考にして倭語の表記方法を作り上げたということ。
それは、中華帝国の発音ではなく、合理的なインターナショナル標準を志向したということでもある。

それが想像できるよになったのは、現代中国の民族言語調査結果が公開されているからである。天子独裁-官僚統治の帝国としては異例と言えよう。
「酉陽雑俎」が示唆するように、漢語と相いれない言語は抹消された可能性が高い。一方、漢語表記と文法を受け入れるなら語彙発音の違いは容認し、帝国の差配に諾々と従うなら漢民族と見なせるという方針が徹底している帝国である。換言すれば、異なる発音の国家の支配者階級はすべて抹殺された可能性が高く、漢民族化を願う新支配層を編成するのが、この帝国の基本原理。
言語調査とは、そのからくりを白日のもとにさらすことになる。・・・
 【子音語】
     ⇘(天竺系音)
      藏語@9C
     ⇗
 古代漢語⇒‖断絶‖⇒次王朝漢語⇒‖⇒次々王朝漢語
     ⇘(呉音)  ⇙(漢音)
      倭語@「古事記」
     ⇗(訓)
 【母音語】

藏語@9C話者がもともと何処に住んでいたかは不明であるが、古くはこの言語の国家が存在していたのである。国家は解体再編され、人々は辺境に逃れたか強制移転させられたことになる。辺境故に、発音上の変化は小さいので、古代の息吹が読めることになる。
そして、この言葉と、倭語の呉音はかなり近しいと考えることもできるのではないか、ということ。

しかし、それは本来的には全く異なる3つの流れに属す言語がぶつかり合った現象そのもの。・・・
  音語【子音語】…母子音文字表記系
  文字読み語…表意文字表記系
  音語【母音語】…反文字表記系
(「今昔物語集」編纂者の"三国観"の鋭さに脱帽である。)
太安万侶は、疑似的子音語転換と表意文字表記に同時に踏み切ったことになる。従って、漢文表記の「日本書記」と混淆して読むなどもっての他。

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