→INDEX

■■■ 「古事記」解釈 [2022.7.14] ■■■
[559]水蛭子を考える
「萬葉集」には登場しないが、分類上[正訓]と呼ぶしかありえそうもない文字がある。・・・
≪蛭≫
  [語義]環形動物ヒル/Leech/螞蟥
  [呉音]シチ テチ
  [漢音]シツ テツ
  [訓]ひる えび
漢語語彙としては水蛭/蛭虮(蟣[≒虱子卵])が多用されているらしいが、意味はほとんど変わらないとされており、他義は無いようだ。(おそらく、この用語はヒル動物全体を指すのではなく、漢方処方薬の乾燥馬蛭の名称だろう。)

但し、小山丘(垤)という意味で解釈される例外的用例があることはある。
  人莫蹪於山 而蹪於蛭 [「淮南子」人闌P]
さらに、具体的な生物ではなく、神話的動物の一種と見ることもできなくはない。(「山海經」大荒北經) 📖
  大荒之中 有山名曰不咸 有肅慎氏之國 有"蜚蛭" 四翼

この漢字に拘るのは、この文字の出現が余りに唐突だから。
  生子水蛭子ひるこ 此子者入葦船而流去

問題は大きい。
いかにも[正訓]用法然としている"ひるこ"という倭語の翻訳語として、水蛭が該当しているとは言い難いのだから。漢語では、この様な出生を意味する用例が無いのである。

と云うことは、もともとの倭語が、環形動物ヒルの性情の新生児という意味であることになる。従って、この文字が当てられたと考えるしかない。
肉の塊が出産したようなものと云うことになろう。現代人からすると、えらく、不気味。早期流産とか胎盤の印象を与えるが、そんなことなど気にならない社会だったことを意味しよう。

このような場合、"比流子<3字音>"と記載するのが流儀だと思うが、それを敢えて避けたのである。環形動物ヒルにはなんらかのメッセージ性があることになろう。
📖天之御柱を廻る婚姻譚のとらえ方📖葦舟葬

 (C) 2022 RandDManagement.com  →HOME