→INDEX ■■■ 「古事記」解釈 [2022.7.18] ■■■ [563]巣と社の概念の理解は結構難しい 云うまでも無いが、「古事記」冒頭の神名に使われている文字だからだ。 高御產巢日神 次 神產巢日神 固有名詞であるから、"むす"の単なる音素表記文字として気にもかけず通り過ぎる箇所だが、一般用語としても使用されている。・・・ (大國主~)・・・爾 答白之: 「・・・唯僕住所者 如 天~御子之天津日繼所知之"登陀流" 天之御巢 而・・・ 逆撫でされかねない記述ではなかろうかとも思うが、そのようには解釈されないことになっている。 一方、「萬葉集」収録歌では、まっとうな用法でのみ登場してくる。雁の子 蜘蛛 鳥の3種の巣だけ。"木上の鳥"の象形文字だから当然だろう。江蘇人は禽獸の窝としているそうだが、基本的に木の穴的な窠という意味で使われる文字であり、せいぜい拡大解釈しても、文明以前の古代人や盗賊の卑なる住処としての言い回ししか無さそう。 御という敬称を冠にしたところで、その様な文字が天~御子の住処を示す用語としてふさわしいとは思えまい。 ただ、そのことをことさら取り上げたりしないのは、ここでの<す>が、住む・棲む・栖む、の意味だからだ。倭語では、発音上はヒト・禽獣の区分けは全く無く、文字化する時、表記上分別されるだけ、との事情がある。神とヒトの世界も分別されているようで、繋がっており、それを考えると気にすべきでは無いと云うことに。 ただ、問題は、実は、そういうことでもない。 そもそも、この文には連続して、以下の寿ぎ的な定番句が付随しているからだ。従って、極めて重要な祭祀であることを示しているのに、<巣>文字を用いている。鳥トーテム族でも無い限り、実に奇妙と云わざるを得まい。 於底津石根宮柱"布斗斯理" 於高天原氷木"多迦斯理" 須佐之男命(→大穴牟遅神): 於底津石根宮柱"布刀斯理" 於高天原氷椽"多迦斯理" 邇邇芸命: 於底津石根宮柱 布斗斯理 於高天原氷椽 多迦斯理 このシーンは国譲りの1ステップなので、何の疑問もなしに、巨大で雲に聳えるような出雲大社を造営してくれさえすれば、それでよしとの大国主の言葉があったとの通俗的見方に納得してしまうが、"とだる"という意味不明の言葉もあることだし、はたしてそれでよいのか、本当は慎重な吟味が必要。 と云っても、どう見ても荷が重すぎて、知らん顔しかできない訳だが。 その最大の原因は、この発言の後に、突然にして出雲國之多藝志之小濱に天之御舍を造る話が出てくるから。これが単なる接待宴会用建造物と見れば現代の風習と同じだから納得でき、とりあえずそう考えるが、そうとも言えない内容なのである。 上記と同じような調子の祝詞らしき記載があるからで、悩ましいことこの上なし。"画期的"祭祀を意味しているとすれば、どうして、2つも続けて、<巣>と表記する建造物の話になるのだろうか、と云うこと。・・・ 是我所燧火者 於高天原者 ~產巢日御祖命之登陀流天之新巢之 地下者 於底津石根燒凝 而 と云っても、最初の御巣が大國主~の住所ということなら、 だが、その言葉<社>の用例は辛うじて存在する程度。 定奉天神地祇之社 至美和山 而 留神社@10代天皇段意富多多泥古命譚 <此者坐難波之比賣碁曾社 謂阿加流比賣~者也>@15代天皇段天之日矛単 この言葉も「万葉用字格」ヤ項に記載が無いが、歌では使われている。・・・ <やしろ> [巻三#404]神之社四 [巻三#405]社師怨焉 [巻三#558]神之社尓 [巻七#1286]来背社 [巻十#2309]齋經社之 [巻十一#2656]軽乃社之 [巻十一#2660/2662 巻十七#4011]神社乎 [巻二十#4391]夜之呂乃加美尓 <社>文字が無視されている訳ではなく、モ項扱い。・・・ <もり> [義訓]社 [正訓]杜 神社 主 [n.a.]森 守(野守 津守 山守 道守 關守 奥嶋守 風守 渡守 守部 時守) 少々話が飛ぶが、「古事記」は<社>を限定的にしか使わないだけでなく、神の住処の用語も避けている。 古神道の解説では、山がご神体だったとされるが、「古事記」での、山を特別視する根拠は示唆レベルに留まっており、実は確定的ではない。📖ご神体山と神奈備の曖昧さ よく言われる 「万葉用字格」カ項では以下のように整理されている。・・・ <カミサビ> [正訓]神 [巻四#522]神家武毛[かむさびけむも] [義訓]神成[巻十一#2417]神成[かむさぶる] <カミ> [正訓]神祇[巻三#443]神祇乞祷 [巻四#546]神祇辞因而 [巻四#655]神祇毛知寒 [巻十三#3288]神祇乎曽吾祈 [巻十三#3288]神祇二衣吾祈 <カミナビ> [借訓]甘甞備 …甘[音:カン] 甞≒嘗[訓:な(める)] 備[音:ビ] …甘≒𩚵≒餌 (○甘部とは○養[飼]部のこと。) [巻七#1125]甘南備乃里 …南[音:ナン] [巻八#1435]甘南備河尓 [巻十三#3223]甘南備乃 清三田屋乃 [巻十三#3227]甘南備乃 三諸山者・・・甘甞備乃 三諸乃神之 [巻十三#3230]甘南備山丹 [借訓]神名火類 [巻六#969]神名火乃 淵者淺而 [巻八#1466]神名火乃 磐瀬之社之 [巻十#2162]神名火之 山下動 [巻十一#2657]神名火尓 [巻十一#2657]神名火 [巻十三#3224]神名火乃 山黄葉 [巻十三#3266]神名火山之 帶丹為留 [巻十三#3303]神名火之 此山邊柄 (神名備) [巻三#324]神名備山尓 [巻十#1937]神名備山尓 [巻十#1938]神名備山尓 [巻十三#3228]神名備能 三諸之山丹 神南備 [巻九#1773]神南備 [巻十一#2774]神南備能 淺小竹原乃 神奈備 [巻八#1419]神奈備乃 伊波瀬乃社之 [巻十三#3268]神奈備山従 −−− [巻九#1761]神邊山尓 立向 (C) 2022 RandDManagement.com →HOME |