→INDEX ■■■ 「古事記」解釈 [2022.7.19] ■■■ [564]安万侶の倭語音素設定の元ネタ もちろん、そのようなサロンが存在したか否かは調べようがないが、少なくとも、太安万侶はサンスクリット語法による発音同定と、表記の基本についての十分な知識は持っていたと考えることだけは、かなり高い確率で"当たり"だと思う。 そこらについて、簡単に触れておこう。 序文によれば、天武天皇が帝紀・旧辞を誦習するよう舎人 稗田阿礼に命じ、元明天皇の命で、太安万侶が撰録。口誦語である倭語を文字表記することになったのだから、参考になりそうのは唯一漢籍仏典におけるサンスクリット語の表音方法しかない。 しかし、漢訳をいくら研究したところで無駄だろう。元音は、しっかりとした発音表記文字で表記されているが、漢字の発音の方は類似音発声の文字で音を示すという発声理論が欠落した方法なのだから。 そうなれば、サンスクリット語を学ぶしかないのである。 と云うか、倭語の音素は漢語とは大きく違っており、清音なら50種程度であることなど、そこからの学びなくして判定できる筈がなかろう。📖"阿〜和"全87音素設定 稗田阿礼と組んだことで、そこらが見通せたということでもあろう。 ちなみに、こんなことができそうな人は、「今昔物語集」を読んで得た感覚からすれば、留学した吉備真備と空海しかいそうにない。 太安万侶と稗田阿礼は留学経験者ではないから、音韻的な鍛錬ができるとは思えないが、留学帰国者の仏僧と懇意になればできないことではない。 というか、そのような場が天武天皇によって設定されていたかもしれないのである。 そう考えられるのは、国史にそのようなプロジェクトが走っていたことを示す記述があるからだ。・・・ 白鳳十一年春・・・三月・・・丙午 命境部連石積等更肇俾造新字一部卅四卷 [「日本書紀」卷第廿九 天渟中原瀛眞人天皇/下(天武天皇)] その新字だが、似梵字。 <新字部> 私記曰師説此書今在図書寮m其字似梵字未詳其字義𦔲准據乎 [「釈日本紀」巻第十五述義十一第二十九] どこまで信用できるかはなはだ心もとないものがあるが、34巻という大部であるから、文字の整理がなされたということだろうし、そこにサンスクリットの音韻論での解釈が記載されていた可能性もあろう。 おそらく創作文字という意味ではなく、発音記号が付けられたということではないかと推測する。 (サンスクリット方式を模倣するのは極めて容易である。必要な文字数は圧倒的に少ないし、基本論理がシンプルだからだ。しかし、漢語を公式文書用に決めているから、貴族・官僚層が受け入れる可能性は極めて低い。漢字ルビは煩雑になるだけでもともと不要だし、漢語無縁層のための低俗文字は邪魔以外のなにものでもないからだ。かなり後世に登場してくるハングルとはそのような文字である。支配者層から唾棄すべき文字とされていたにもかかわらず、突如通用するようになったのは、中華帝国に依拠していたバイリンガル層の統治が破綻したからだろう。) (C) 2022 RandDManagement.com →HOME |