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■■■ 「古事記」解釈 [2022.7.28] ■■■
[573]<者>文字用法
<者>という文字の本質を理解するのは結構難しい。

残念なことに、「古事記」では、日本でも若干残存している異字体を使っておらず、太安万侶がどこまで、この文字を理解していたのかはわからない。
しかし、日本漢文法に従って考えるしかない現代人よりは、自由な眼で眺めていたことは確かだろう。

この異字体だが、朝鮮半島では漢字廃止時まで使われていたようだ。帝国辺境地ならではの拘りがあると見てよいだろう。
  者={耂+丶}(≠[部首]老)+{口(祭祀器)+━}
白川説によれば、者が使われるのは、耂であっても、老とは係累が異なるから。それを示すために丶が付いていると考える訳だ。日本語漢文的見方は分析思考だから、柴を燃やす表意の類縁文字とされてしまう。当然ながら、者≒煮となる。
  煑/煮=耂([部首]老)+日(調理用具)+火

素人<者>は、本来的には特別扱いする際に用いる文字、ということ。

「古事記」での代表的用例は以下の通り。・・・
 【序文[漢文]】4文字
  以獻上者 已因訓述者 全以音連者 大抵所記者
 【本文[漢字表記倭文]】269文字+240文字+93文字
  〜神者 〜命者 〜天皇者 〜王者・・・
  僕者 吾者 我者 誰者 此者 幸行者
  御陵者 國者
  歌者 詔者 白者 言者 間者
  今者
  汝者/詔汝者/言汝者/云汝者
  然者/詔然者/言然者/曰然者/汝爲然者/若不然者/爲然者

  📖[安万侶文法]特別感嘆詞"然者"
具体的には、こんな具合に記載されることになる。
  此三柱~者 並獨~ 成坐 而 隱身也・・・
  指下其沼矛以畫者 鹽"許々袁々呂々邇"畫鳴・・・
  入見之時 ”宇士多加禮許呂呂岐弖”
  於頭 者 大雷居
  於胸 者 火雷居
  於腹 者 K雷居
  於陰 者 拆雷居
  於左手者 若雷居
  於右手者 土雷居
  於左足者 鳴雷居
  於右足者 伏雷居 幷八雷~成居

漢語は一貫して純粋な孤立語で来た。非孤立語では不可欠となる日本語の助詞を完璧に欠くのが特徴。
上記の<者>は確かに格助詞<は>とみなせることが多いものの、主語を示すための助詞は在り得ないのだから、かなり誤解を生じさせていることは間違いない。
(「説文解字」では<者>は≪別事詞≫とされている。者の意義をはっきりさせていない以上、意味について触れていないのは当然だろう。)
漢語としての意味は、このように考えるとよいのではなかろうか。・・・
-名詞化するための代詞(指:人・事・物)-
  動詞・形容詞等後置
  数詞後置
  時間詞後置 
e.g. 古者/昔者 今者 頃者 向者
  否定詞後置
-語気詞[主語名詞後置]-
  明解性強調 
e.g. 黃帝者少典之子
  解釈的記述 
e.g. 人之謂堯賢者・・・
-場所用語化(處於)[名詞後置]-  
e.g. 大國者下流
-他-  [修飾的]文構造提示詞  比擬様態の指示形容詞(=這 )

さて、この文字の読みだが、さして複雑化していない。
<者>
  [呉音・漢音]シャ
  [訓][名詞]もの
   [助詞]は/ば
   [接続詞]てへり/てへれ-ば
「万葉用字格」ではこのような表記が収載されている。
[正音] [巻八#1550]音遥者(声の遥けさ)…"シャ"音は倭語にはない。
[正訓]…基本この用法である。清濁は「萬葉集」では区別しない。
  [正訓]徴者ハタラバ [巻十六#3847]課役徴者(えだちはたらば)
  [約訓]之在者サレバ [巻十#1897]春之在者(春されば)
  [義訓]至者ナレバ [巻二#199]暮尓至者(夕になれば)
[正訓]コノゴロ [巻四#713]不合頃者(逢はぬこのころ)…時間軸表現。
  [正訓]比者コノゴロ [三巻#236]比者不聞而(このころ聞かずて)
  [正訓]迺者コノゴロ [巻十#1984]廼者之(このころの)
  [正訓]昔者イニシヘ [巻三#378]昔者之三
[正訓]ヒト [巻三#1897]生者(生ける者)…後世、"もの"に転換。
尚、日本漢文語法に倣うことはせず、いづれ何則ナントナレバと考える。・・・以詔:「吾恆有所思 何者 汝之子目弱王成人之時 知吾殺其父王者・・・」

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