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■■■ 「古事記」解釈 [2023.6.28] ■■■
[732] 倭語の語彙は多単位音型
前半それにしても、「古事記」には恐れ入る。太安万侶が示した雑種言語としての性情が、現代迄綿々と受け継がれているのだから。
漢語は、一見、殷(商朝)から一貫して、表意文字の世界を貫いている様に思うが、墨守しているのは天子独裁-官僚統制の道具として使うという点であって、毛沢東以来徐々に表記文字化が進められているし、もともとの<意味⇒発音⇒文字>についての当初の大原則は帝国化のご都合主義でとっくに捨て去られている。さらに、革命王朝毎に読みがドラスティックに変えられてしまうという点でも、社会風土の違いは大きい。
(中華帝国は漢字の国とされているが、魯迅の時代でさえ、大都会の識字率がせいぜい見ても3割と言われていた。農村は当然ながら1割未満。それが、文字の国の実態。
一方、倭国は無文字に拘り続けた訳で、風土が違うので、単純に解釈すると間違いかねないので注意を要する。
中華帝国は漢字の国とされているが、魯迅の時代でさえ、大都会の識字率がせいぜい高く見ても3割と言われていた。だからこそ日本を見習えとなり、大量に日本語を輸入したのは御存じの通り。成功例の真似は官僚の十八番であるし。そして、そこらは史書から削られ自画自賛表現に変えられて行く訳だが。言うまでもなく、農村は当然ながら1割など到達するべくもない。それが、文字の国の実態。)


倭国は無文字に拘り続けたが、現時点で眺めれば、表意文字表記なのは漢語と日本語だけなので、文化的紐帯濃厚と勘違いしてしまいがちだが、単純にそう解釈すると間違いかねないので注意を要する。
表意文字としての漢字表記の伝統を受け継いでいるのは、実のところ日本語であって、(繁体字圏を除いた)漢語圏ではない。
日本語には最古層の言語の息吹が残存している可能性が高い、と見てよかろう。

数詞を取り上げて来たので、その感を強くした。
フツーに考えれば、数詞が2種並列で用いられることなどあり得まい。徴税の基礎は数であるから、数詞表現の統一は度量衡以前の当たり前のことだと思うが、それが成り立たないのが倭国。未だに、音と訓という形で使われており、それがなにげに混交したりすることさえ。

単数字1〜9の、現代の漢語-日本語-英語を比較すると、2母音や長母音が存在するものの、母音語である日本語を除けば、ほぼ1音(音節)であることがわかる。日本語の訓は、書き方が色々あるのでわかりにくいが、相対話語だからしばしば1音の省略形として使われるが、基本は2音と見てよさそう。・・・
官  客  台   ㊐[音]    🄴
Yi  Yid  It  I-chi❷   [wʌn]
Er  Ni  Ji  Ni(⇐Ni-i❷)   [tuː]
San Sam Sam  San🅧   [ˈtri]
Si  Si  Sie  Shi(⇐Shi-i❷)  [fɔː]
Wu  Ung Go  Go(⇐Go-o❷)   [faɪv]
Liu  Lug  Liok Ro-ku❷   [sɪks]
Qi  Tit  Chid Shi-chi❷   [ˈsɛvən❷]
Ba  Bat  Pat  Ha-chi❷   [eɪt]
Qiu  Giu  Kiu  Kyu(⇐Ki-u❷)   [naɪn]
[訓]
ひと❷-つ …(H/F)-t -助数詞T
ふた❷-つ …(H/F)-t -助数詞T
みっ❷-つ …M-t -助数詞T
よっ❷-つ …Y-t -助数詞T
いつ❷-つ …I-t -助数詞T
むっ❷-つ …M-t -助数詞T
なな❷-つ …Nn -助数詞T
やっ❷-つ …Y-t -助数詞T
ここ❷の❶-つ …Kkn -助数詞T
@サンスクリット[インド数字(アラビア語での名前)]
१ eka-❷[以下語幹のみ]
२ dvi-
३ tri-
४ catur-❷
५ pañca-❷
६ ṣaṣ-
७ sapta-❷
८ aṣṭa-❷
९ nava-❷

ここで、驚かされるのは、[音]は大陸渡来の発音で、もともとの漢字は単音であるにもかかわらず、[訓]と同じ様に複音に変えられている点。色々と考えさせられる。・・・
現代日本語には名詞の1音語が結構多いので、古代語も1音が多かったと想定する訳だが、常識で考えれば、正式な音は50しかなく、「古事記」では87であり、同音異義語だらけの言語と言っても、1音語ですますことは到底無理。このことは、語彙音の基本は複数であったことを意味しよう。しかし、相対話語であるから、互いに自明なら、上記の<4,5,9>の重複音省略で1音化する様なことは多かったと推測してよかろう。
(「古事記」仮名の同定ということで、一音文字を眺めてみたが、基本は呉音であり、1音訓はそれほど目立たない。e.g. :吾畦鵜好鹿木城子卵瀬兄背田血手戸外名魚土丹野根音刃羽葉俊檜火日梭上辺実目女芽裳喪矢箭屋湯夜世猪井餌緒男尾麻[網羅していない。])

倭語はどうも1音文字が多く、同義語が多そうとは感じるが、雑種言語であるとの前提で考えると、多音節言語基調のところに、漢語の1音語が流入したと考えた方がよさそう。

と言うのは、古代漢語(文字語である。)は明らかに1音語だからだ。
   1つの意味⇒1音節の音⇒1つの文字
天子独裁-官僚統制という観点で生まれたルールだと思われる。この仕組みの厄介な点は、文字はデザインでいくらでも増やせるが、音はそうは簡単に種類を加える訳にはいかない点。従って、声調による種類増加は不可避といえよう。
語彙が多音である倭語には本来不要であるが、。「古事記」が示す通り、渡来語流入で一部受け入れた。太安万侶も、おそらく、早晩不要になっていくと踏んでいたに違いないが。
🄴[1音節]… ma-〜
[最小単位音(1音節)]…ま[ma̱]
    (@「古事記」:麻 摩 万/萬 真 間 馬 天 目 暇 [財]📖+ 満 魔 磨・・・)
[1音節+声調]…媽[mā]麻[má]馬[mǎ]罵[mà]
印欧語的に分析すれば2音素なので理屈では1音節となる。しかし、子音は独立して発音できず、母音前置装飾音でしかない。
但し、現実には、現代中国語の基本語彙はほとんどが2音。1音では語彙数に限りがあり、新語を大量に必要とするなら2字多音節化は当然だろうが、ドラマティックに変化したことになる。「古事記」「萬葉集」ともに略音使用は多く(1音語尾の子音は日本語では発音できないので、母音を付けて1音増加させるので2音になる。「古事記」には無いが、n(ん)も1音である。)、漢語が、1音1文字で続く筈がないと、太安万侶は、気付いていた筈。2字熟語的表現も、言ってみれば、1音1文字時代の終焉ともいえよう。
おそらく、日本からの語彙輸入が最終的に引導を渡すことになったと思われる。
上記のma文字で言えば、こんな用法になる。2文字目は本来は不要である。・・・
 ❶mom ⇔ ❺おかあさん ⇔❷媽媽
 ❷mother ⇔ ❷はは ⇔ ❷母親
1音1文字語彙を2音化しただけ。<衣>⇒<衣服yī fú>という様な手が多そうだが。

まことに恐縮だが、ここで、再び、ギリシア(欧)・印度・中原・倭(インダス系)の4大文明話を持ち出したくなってしまう。余りと言えば余りの違いに愕然となるからだ。・・・
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🄴概念(意味)
言語化(発声)
[多音節語彙]@印欧語…1母音節を連結する子音語
表記化
└→[一意性]標示文字(疑似的表音文字:アルファベット)
        ↓
     (発音記号による表記[アンチョコ用])
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概念(意味)
言語化(発声)
[多単位音語彙]@倭語…少数単母音を核とする母音語
表記化
└→[非一意性]各種文字混在表記…"雑種言語"
        ↓ ↑
     (表音文字[仮名]表記)…約100種
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概念(意味)
言語化(発声)
[単音節(⇒2音節化)語彙]@漢語…文字ありき言語
表記化
└→[一意性]膨大な数になる単漢字
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概念(意味)
言語化(発声)
[多音節語彙]@サンスクリット語…"叙事詩"音声確定語
表記化
└→[一意性]天竺文字…aを基本形とする音節表示表音文字
"言葉ありき"がギリシア-欧州の基本観念だが、インド亜大陸古代に於いては"哲学/論理ありき"。ギリシアに先んじて哲学を生み出している。そんなこともあってか、サンスクリットが創られた。通常用いられている言語をもとにはしているものの、ヒトが論理を駆使して考案した人工的なもの。ところが、その(叙事詩の)言葉の力こそが世界を創ると考えるのである。韻文叙事詩で特定した音節akṣara(実際には対象とするのは母音とならざるを得ない。漢語は単音節なので、翻訳語は"字"となる。)を、意識上でコントロールすることで観念の本質に迫ろうとすることになる。
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