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■■■ 「古事記」解釈 [2023.5.18] ■■■
[694] 「古事記」仮名渡来訓 麻美微牟
まみmiむ📖(長短音)📖(訓呉音)は、すでにより挙げたので、<ま行>の残りの文字音を取り上げておこう。

(末の初画変形)(〃) [萬]…麻
(三の変形)(美) [萬]…美【甲】 @呉音
mi [萬]…微【乙】 @呉音
(厶:牟の初画)(武) [萬]…牟 @呉音 📖素晴らしきかな"ム

<ま行>は、素人にとって重要。それは、3世紀末の史書である魏志倭人伝によく知られる以下の指摘があるから。・・・
  其地無牛馬虎豹羊鵲
ソリャ、義務教育レベルの知識しかなくても、日本列島は狼が絶滅させられる土地柄だから、野獣の王が棲息するのは極めて困難だったろうと感じさせる一節である。その一方で、代表的家畜動物が持ち込まれたのは、極めて新しく、4世紀以後であることに驚かされる訳だ。・・・これが、中学生でのことか、高校生時代のことかは定かではないが、この一瞬の感覚を生徒の頃に味わうことができるかどうかで、その後の頭の働き方を規定することになる。そう書くと、考え違いをする人も多そうなので、一言書いておくが、もっと後に知ったと思う人は、忘れているに過ぎない。

なにが重要かと言えば、<馬>が出て来るから。
辺鄙な地域にも都会生活レベルを実現することに、絶大に注力した来た社会なので、今では、ほとんど出会えなくなってしまった家畜であり、経済動物飼育が敬遠されて随分と時間が経つと言うに、学校教育では重要な単語として早くから覚え込まされることに、ここで気付くか否かが分かれ目となる。
と言っても、下らぬことで。
うまという文字を暗記されられるのだが、その一方で競や桂という読みは滅多に教わらないが、皆知っていると云うだけのこと。しいて辞書を見ることはなかろうが、呉音は"メ"と、書いてあるので、そういえば駿という熟語があるなと思い出すことになる。

そんな内容はどうでもよいのだが、はたして、ここで疑問を覚えるか?

とにもかくにも暗記の生活を楽しく感じさせる教育を受けさせられるので、バリアは極めて高いが、要領よくテストをクリアできる勉強をして好きなことをしたいと思っている体質だと、直観的におかしいナとわかるのである。そして、この疑問を先生に投げかけたりしては迷惑千万だろうことも想像がつく。

ここまでズルズル書けば、何が言いたいのかお分かりになるのでは。
🐎うまとは、日本語由来の読みとばかり思っていた、自分の頭脳水準がいかばかりのものか判断できるようになる。それこそ、現代で言えば、「 ぶっくと訓読みにすることになりました。」とのお達しとほとんど変わらないのだから。(「古事記」の場合、大御所の「倭の言葉として読め。」とのご指示があるのでご注意のほど。)

成程、そういう国だったのかと初めて気付かされる一瞬である。

長くなったが、そのが入っている文字領域を、想像力を駆使して、見ておこうという趣旨である。
(・・・ここらは、漢字を対象とする言語学者の研究成果を見たい所なれど、残念ながら、中国語の基礎知識が欠落している上に、英語だと残念ながら文字が全く想い浮かばないので読めたものではなく、流石に素人の無手勝流が通用しない。しかし、そうとも言っていられないので、ほぼ想像の世界で書いてみることにした。)

マ、<馬>のテキスト読みの例をあげておけば十分かナ。
繰り返すが、馬は日本列島に存在していなかったのであり、この漢字は動物名以外に使われていた形跡が無い以上、その読みは、外来語の倭語化発音、あるいは、当て文字の倭語しかあり得まい。・・・
     定御馬甘:みまかひとさだめ
     牝馬壱疋:めまひとつを
     [巻一#4]馬數而:うまなめて
     [巻三#250]敏馬乎過:みぬをすぎて
     [巻五#806]多都能馬母:たつの
     [巻五#897]白馬走来:はくはしりくるとも
     [巻一#62]對馬乃渡:つしまのわたり
     [巻二#166]生流馬酔木乎:おふるあしび
【ご注意】「古事記」では、津島と表記され、国生み記載方法からすれば、2と湊を重層想起させる、"ツのシマ"と読むのではないかと思ってしまうが、「萬葉集」では上記の通り、對馬と書かれている以上そうはならないらしい。・・・この様に、読みのルールが確立できている様には思えない。個別文字判定にゆだねられる限り、主観的見方から逃れようもなく、テキスト読みの妥当性のレベルは全くわからないと見るしかなかろう。個人的には、「萬葉集」の読みは、学者ではなく詩人に任せるのが一番だと思う。

・・・ここ迄、わざわざ、小生の真意を読み違えるように書いてみたのだがおわかりだろうか。
ここでの気付きの核心は、「古事記」は徹底した倭語の書であったという点だからだ。

一言で言えば、<うま>とは確かに外来語だが、まさしく「訓」なのだ。「音」は<マ><メ><モ>で、<ま>は【略訓】である。
考えてみれば、それは現代常識。Bookは英語だが、発音表記文字でしかないブックは100%日本語というに過ぎない。両者は全く異なる言葉だからだ。
太安万侶は、このことの重要性を意識して文字表記化を行っているから、そのつもりで読む必要があろう。

それでは、倭人は、どうして<マ>を<うま>と発音するのか。
小生は、この本質は、倭人は漢語は<ゥマ>⇒<マ>と変遷して来たと見抜いたからだと思う。洞察力が優れていたというより、漢語のいい加減さに気付いたからであろう。
当たり前だが、漢語は帝国内の各国毎に発音は違ってくるので、読みは多種多様にならざるを得ない。しかし、一つの王朝内では厳然として文字とその発音は1対1対応の大原則は崩せない。そのため、50音に慣れた語族からすれば、面倒極まりない。今でも、中国語の音の多さはトンデモ無い数に映るし、さらに声調まで付加するから一体全体この言語はどうなっているのだとなること請け合い。
しかし、帝国化しても、<マ><メ><モ>が同居する状態が続くというのは、いかにもおかしな現象。従って、祖語があると考えるのは自然なこと。それが<ゥマ>。訓扱いにならざるを得ないが、幻の中華音とした方が正確だろう。

ここらは、現代人からすれば解り難いと思うが、漢語発音では頭が必ず子音であり、母音語(末尾子音の語彙は無い。)の倭人にとっては不可思議な発音に映って当たり前。しかも、その子音の種類が途方もなく多いので、(後世の発音ではあるものの、36音ある。50音的[実質音素(独立子音発音不可能)]に数えれば、300〜400音[音素ではなく音節]存在することになろう。その宋朝韻圖は末尾に記載。)辟易したに違いなく、倭語化は漢語発音と相当に異なったものにされておかしくない。それが顕著に表れているのが<マ>⇒<ゥマ>⇒<ま>との倭語化に見ることができよう。さらに、推定を一歩進めれば、宋朝韻圖的な発音を耳にすれば、倭語発音習慣から、<バ>≒<ゥマ>に聴こえた可能性もあろう。
言い方を変えると、馬<ゥマ>は外来語だから新しい語彙だが、もしも馬が倭国に古代から棲息していれば、倭語は古くに伝わって来た漢語祖語をママ保っていることになろう。文化の辺境吹き溜まり現象であるが、文字表記化を嫌い続けた<倭>の、インダス文明的風土そのものとも言えそう。

ーーー
≪マ≫
麻  都麻つま碁微尓
  [呉音]メ [漢音]バ [訓]あさ を  [吳語]mo [客家語]mà
摩  多礼袁志摩加牟まかむ
  [呉音]マ [漢音]バ [訓]ま-する
萬/万  [漢文@序文]臣安萬侶
  [呉音]マン モン [漢音]バン [訓]よろず ま ゆる よし かず  [吳語]me; [客家語]van
真  真事まこと登波受
  [呉漢音]シン [訓]ま まこと  [吳語]tsen [客家語]chûn
間  針間はりま国
  [呉音]ケン [漢音]カン [訓]ま あいだ
馬  御馬みま甘
  [呉音]メ [漢音]バ [訓]うま u-ma  [吳語]ma [客家語]ma
天  高天原たか(あ)まのはら
  [呉漢音]テン [訓]あま あめ そら a-ma  [吳語]thi [客家語]thiên
面  面黥老人まさけるおきな
  [呉音]メン [漢音]ベン [訓]おも つら o-mo  [吳語]mi [客家語]mien
暇     [巻七#1154]何暇尓:いつのまに
  [呉音]ゲ [漢音]カ [訓]ひま hi-ma  [吳語]n.a. [客家語]n.a. [官話]xia
  江野財ゑぬま臣
  [呉音]ザイ [漢音]サイ [訓]たから わずか  [吳語]ze [客家語]chhòi
≪ミ[甲]≫
美  佐賀美迩迦美さがみにかみ
  [呉音]ミ [漢音]ビ [訓]うつく-しい い-し
彌/弥  和賀多多弥由米わがたたみゆめ
  [呉音]ミ [漢音]ビ [訓]や
御  神御名みな
  [呉音]ゴ [漢音]ギョ [訓]おん お おおん   [吳語]nyy [客家語]n.a.
三  三柱
  [呉漢音]サム [訓]み みつ
 (參/参)  壱佰伍拾参歳
  [呉音]サム シム ソム [漢音]サム シム [訓]まい-る
見  見立みたて天之御柱
  [呉漢音]ケン [訓]み-る み-える み-せる
水  水門みなと
  [呉漢音]スイ [訓]みづ
瞻  望瞻のぞみみて
  [呉漢音]セム [訓]み-る まば-る
皇  皇子みこ
  [呉音]ワゥ [漢音]クヮゥ [訓]おお おうじ かみ きみ み すめらぎ  [吳語]hhuaan [客家語]fòng
満  満山みやま末
  [呉音]マン [漢音]バン [訓]み-ちる み-たす
臣  [漢文@序文]臣おほ安萬侶
  [呉音]ジン [漢音]シン [訓]たか と とみ おみ
網  依網よさみ池
  [呉音]マゥ [漢音]バゥ [訓]あみ a-mi  [吳語]maan [客家語]miong
海  淡海あふみ
  [呉漢音]カイ [訓]うみ u-mi  [吳語]he [客家語]hoi
≪mi[乙]≫
微  微能もの意富祁久袁
  [呉音]ミ [漢音]ビ [訓]かす-か わず-か
味  佐味那志さみなし尓阿波礼
  [呉音]ミ [漢音]ビ [訓]あじ あじ-わう
身  身自みみづから追来焉
  [呉漢音]シン [訓]み
実  登岐士玖能迦玖能木実このみ
  [呉音]ジチ [漢音]シツ [訓]み みの-る
  其桃子そのもものみ
  [呉漢音]シ [訓]こ ね  [吳語]tsr [客家語]chú
≪ム≫
牟  佐賀牟さがむ能袁怒
  [呉音]ム [漢音]ボウ [訓]むさぼる  [吳語]meu [客家語]mèu
武  金波鎮漢紀武こむはちむかむきむ
  [呉音]ム [漢音]ブ [訓]たけ-し たけん お う
无  无邪志むざし国造
  [呉音]ム [漢音]ブ [訓]なし ない
将  将行いかむ吾祖之国
  [呉音]サゥ [漢音]シャゥ [訓]たか すすむ かつり もって ひきい-る まさ はた まさ-に ゆき
産  高御産巣日神
  [呉音]セン [漢音]サン [訓]う-む、う-まれる もと む-す
六   并六柱
  [呉音]ロク [漢音]リク [訓]む むつ むっつ むい
 陸  壱佰陸拾捌歳
  [呉音]ロク [漢音]リク [訓]おか たち みち む-つ くが
  然欲為せむ力競
  [呉漢音]ヨク [訓]ほ-しい ほっ-する  [吳語]hhioq [客家語]yúk
  所知しらさむ国者也
  [呉音]ショ [漢音]ソ [訓]る ら-る ばか-り ところ-とする  [吳語]su [客家語]só
  懐妊臨〜むとしき産
  [呉漢音]リム [訓]のぞ-む み  [吳語]lin [客家語]lìm
≪メ[甲]≫
賣/売
  [呉音]メ [漢音]バイ [慣用音]マイ [訓]う-る
≪me[乙]≫
米  阿米あめ能迦具夜麻
  [呉音]マイ [漢音]ベイ [訓]こめ めめ よね ko-me  [吳語]mi [客家語]mi
馬と同じく梅の渡来も新しいが、「古事記」には、梅の記載は無い。📖愛でる花の色が変わってしまった木
梅     [巻五#852]烏梅能波奈:うめのはな
  [呉音]マイ [漢音]ベイ [訓]うめ u-me  [吳語]me [客家語]moi
面     [巻五#852]美奴面乎左指天:みぬめをさして
  [呉音]メン [漢音]ベン [訓]おもて おも つら o-mo  [吳語]mi [客家語]mien
≪モ[甲]≫
妹  伊呂妹いろも
  [呉漢音]マイ [訓]いもうと いも i-mo  [吳語]me [客家語]moi
≪mo[乙]≫
母  志麻母しまも美由
  [呉音]ム モ [漢音]ボウ [訓]はは は あも おも かか かあ o-mo  [吳語]mu [客家語]mu

ーーーーー
≪宋朝韻圖≫36頭子音
【唇音】ハ マ
  (重:両唇)🈚[p][p‘]🈶[b‘][m]
  (輕:上歯+下唇)🈚[f][f‘]🈶[b][ɱ]
               鼻音
【舌音[破裂音]】タ ナ ラ
  (舌頭&歯茎)🈚[t][t‘]🈶[d‘][n]
  (舌上&歯茎硬口蓋)🈚[t‘][t′‘]🈶[d′‘][n′]
 【半舌音】
  (歯茎)   🈶[l]
【歯音/齗音】
  (歯頭-歯茎)🈚[s][ts][ts‘]🈶[dz][z]
  (そり舌&歯茎硬口蓋)🈚[tɕ][ɕ] 穿[tɕ‘]🈶[dʑ][ʑ]
 【半歯音】
  (硬口蓋)   🈶[ɲ]
【牙音/顎音】
  (軟口蓋)🈚[k][k‘]🈶[ɡ][ŋ]
【喉音】
  (声門)🈚[ʔ]
  (軟口蓋)🈚曉/暁[h]🈶[ɦ]
  (硬口蓋)   🈶[j]

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