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■■■ 「古事記」解釈 [2023.9.28] ■■■
[819] 太安万侶:「漢倭辞典」前置助詞(下)
<介詞>を持ち出したが、その文法的扱いが参考になるから。
印欧語では名詞自体が格表示する仕組みだった訳で、VО構文で名詞に次々と細かく新しい格を定めていくのは余りに煩雑すぎる。どうしても副詞を自由自在な補助機能として設定する必要があるが、その表現には明らかに限界がある。従って、その機能を<前置詞+名詞>で規格化して大幅に強化したと考えるのが自然。
一方、漢語では、どの語彙も全く変化し無い孤立語の世界。名詞にその様な表現機能は持ち込めないから、文構造で名詞の関係性を示すしかない。しかし、それは印欧語以上に限界があり、筆記文章で詳細情報を伝えるには、名詞の関係性を示す文法記号を名詞に付けざるを得ない。しかし、一意的な関係性を規定する文法と、その記号の読み方を決める方法論が無ければ話語として使えないので実用性皆無。ところが、漢語は、もともと、同一語彙が異なる品詞で共有されている。これなら、新たに専用文字を作らずとも、誤読なきよう注意さえすれば、他の品詞の転用でかまわないことになる。
(但し、記号的な文法文字でしかないから、単純な短音節の発音が望ましいのは言うまでもないが。)一旦、この流れが確定してしまえば、元の字義に近い概念での文章内での文法的関係性を示す品詞として多用されて当然だろう。話語なら、この仕組みでの意思伝達はさほど難しくないから、無数とは言えないものの数百の<介詞>が生まれておかしくない。ただ多くなる一方で収拾がつかなくなってくれば、社会的有用性ですぐに自然淘汰が始まろう。官語はこの結果を追認するしかない。

・・・参考と書いたが、それは反面教師的な視点に近い。

出自から考えて、他の品詞と区別が難しい用例には事欠かない筈。従って、<介詞>を文法的に詳細規定してもたいした意味は無いかも。
換言すれば、構造文中での文法的位置付けを一意的に決めることは困難である可能性が高い。そうなれば、論理一貫性担保を重視すれば、違和感を与える分類が行われかねまい。
こんな状況こそが漢語の特徴でもあろう。
王朝によって公定言語が設定され、識字層は乱れなくそれに従う。官僚統制の帝国である以上、宗族消滅を避けるためには、帝国住民はそれに諾々と従うしかないから、文法は意識せずとも社会に浸透していくことになる。しかし、それは強制的枠組みが決まっただけ。話語の世界では、そのなかで勝手気ままな表現が生まれる訳で、いくら抑圧しようと収まるものではない。

その動きが顕著に表れるのが<介詞>。
<介詞>創出など、話語の世界ではお茶の子済々だからだ。つまり、用法分類に特段の意味などなかろう。もし、"その他"を欠いた分類なら間違った考え方。(但し、優れた用法分類は、現行の言語習得効率が高い筈で、極めて有用。しかし、それは、古代の文法を想像する作業とは無縁の世界。)

・・・これが何の参考になるのか、と感じるかも知れないが、格助詞にも同じことがいえそうだから。

それこそ、何度も取り上げている"主格"を考えるだけでも。・・・
格助詞分類は、屈折語に於ける構造文での格概念に沿っただけに映るからだ。(代替案が見つから無いなら、国語の統一性を崩さないためにはグローバルで見ることができるテクニカル・タ―ムに揃えるのは、致し方あるまい。ではあるものの、現実の用法に合致している保証は無い。)話語に於ける真の主格名詞には格助詞は付けないのが文字化以前の規則であり、主語と思われる名詞に助詞が付いていたら、何らかの意味が付与されていることになる、と見るからだ。

もう1つ付け加えるなら、"文節"も。・・・
助詞で定義される名詞句の話の途中で、"文節という概念は使えない。"と唐突に記載したが、ここが素人にとってはえらく悩ましい箇所。
例えば、<名詞+助詞+名詞+助詞+主述語>との順列だと、<名詞句+名詞句+主述語>と解釈することになる。これこそが動詞語の世界と考えたくなるが、そう簡単には行かない。
実態としては、名詞句が入れ子状態になっていたりするからだ。
 <名詞句{(<名詞句[名詞+助詞]>+名詞)+助詞}+主述語>
これは普段的に発生しており、そこに特殊性など全くない。助詞としての機能が詳述(特定・具体性)ではあるものの、名詞が単なる1つの後続名詞を修飾するというだけの役割でしかなく、文構成全体に於けるコンポーネンツとしての役割を果たしている訳ではない。
この両者を文法では同次元とする訳だが小生は違和感を覚える。

こうした感覚は思弁的なものではなく、素人が、「古事記」の漢文読み下し調の和語的文章を眺めていると自然に生まれてくるもの。聴衆に聴かせる口誦叙事が、はたして、記載されていない助詞を加えた"文書語"でよいのかという素朴な疑問から発している訳だが。
そのセンスからすると、特に、上記2点が気にならざるを得ないということでもある。

その思いを加速させるのが、主格の用法例。格助詞としては<-が><-は><-の>が使われるとされるからだ。(SОV構文言語とするなら、「古事記」の読み始めに当たって、これらの主格表示の助詞をどう文字表記しているのかを学ぶことが第一歩と思うが、それは極めて難しい。)

・・・これらは、確かに主語と考えられる名詞の後置詞として使用されているが、格を示したいので使っている訳では無いと考えれば、<介詞>同様な表現世界が見えてくる。
<-が><-の>が所有(属)の意味での文法詞としても用いられているからでもある。しかも、その用法は<名詞-助詞-名詞>というサンドイッチ構成。

特に、<-の>の用法は独特。
どの様な格分類をしようがオールマイティで用いることが可能な名詞後置詞ということになる。
📖[安万侶文法]現代"の"文法との繋がり
❶格助詞*
 ①主語名詞格
 ②所属(所有者等)名詞格@連体修飾
 ③名詞代用(もの/こと)@-助詞
 ④並立同格@名詞+の+<〜連体形-(同一名詞)>
 ⑤比喩 ・・・序詞(掛詞 同音反復 比喩)
 ⑥連用修飾
❷[現代]終助詞 …自他への疑問的警告や感動

】現代語なら、誰でも、即座に、様々な"の"のサンドイッチ用例を並べることができよう。(手漉き和紙の本 白表紙の本 ボロボロの本 授業の本 図書館の本 ○○出版社の本 三冊の本 英語の本 漱石の本 犬の本 「古事記」の本 「古事記」の文字 「古事記」の文法 「古事記」の流行 「古事記」の学習 「古事記」の博物館・・・)だからといって、どんな2つの名詞でも繋げることができると思う人はいまい。それに、相対会話でないと意味が曖昧になりがちで、さらに助詞を加えないと誤解を招くことも多いだろう。…はたして、この名詞間の関係を精緻に整理分類して文法的に意味するところを見つけることができるものだろうか。

*】格助詞には動詞語の概念と直接結びつかない項目が含まれている。
<"格/Case">の意味
主述動詞に係る名詞(類)句を示す文法詞
 〜が 主語[主格]…実際は違う。
 〜を 直接目的語[対格]
 〜に 間接目的語[与格]
 〜より 〜から 〜へ 〜で 副詞的用法
 〜と 並列的用法
主述動詞から独立した存在を示す文法詞
 〜よ 〜や [呼格]
名詞サンドイッチ文法詞(名詞句の入れ子)
 〜の 連体修飾語[属格]
名詞の直接主述語化(文法詞不要)
 〜_だ[助動詞]


【"の"用法の難しさ】
以下は、音読みの割注をつけていないから、読者が読めるようになったと見なしている初の文章。全面的に"の"を挿入している可能性は高いだろう。自然にそう読んでしまうから。"之"は入れないと、"の"と読まずになりかねないから挿入したのか、他で"の"を入れるだけ入れたのでここだけは入れるなというサインのどちらなのかはわからぬ。・・・
こゝ
あま_~かみ_もろヽヽ_みこともちて
のたまはく➰伊邪那岐命伊邪那美命_ふたはしら_~かみ_
なほしことわり かため-なせ_"多陀用幣流"ただよへるくに_

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