■■■ 「古事記」解釈 [2024.4.5] ■■■
🪞[849]参考「水鏡」[17代～30代天皇]
〈八十七年崩。年百十。葬和泉國百舌鳥野陵。〉
次の帝、仁德天皇と申しき。
應神天皇第四の皇子。
御母の皇后仲姬なり。
癸酉の年正月己卯の日位に即き給ふ。御年二十四。
世を治り給ふ事八十七年なり。
この帝の御弟を東宮と申ししかば、すべからく位を繼ぎ給ふべかりしに、兄に譲り申し給ひしかども、互につぎ給はずして、空しく三年を過ぐさせ給ひしかば、東宮みづから命を失ひ給ひにき。帝、この事を聞こしめして、かの東宮へ急ぎおはしまして、泣き悲しび給ひしかども、かひなくて、その後、位には即かせ給ひしなり。
四年と申しし二月に、高き樓に登りて四方の民の住処を見給ひて、烟絕え寂しかりしかば、今より後三年民を休め、九重の內の修理をとどめさせ給ひき。
さて、七年と申しし四月に、又、樓にのぼりて御覽ぜしに、民の住処賑ひて御覽ぜられければ、帝、詠ませ給ひし。
高き屋に 登りて見れば 煙立つ 民のかまどは 賑ひにけり
四十二年と申しし九月にぞ、鷹の鳥をとるといふことは知りそめて、狩、始め給ひし。
五十五年と申ししに、武內の大臣亡せ給ひにき。年二百八十にぞなり給ひし。六代の帝の御後見をして、大臣の位にて二百四十四年ぞおはせし。
六十二年と申ししに、氷すうることは出で来始めて、今に至るまで供御にそなふるなり。
この帝、御容世にすぐれて、御心ばへめでたくおはしましき。
【第十八代】履中天皇
〈六年崩。年六十七。葬和泉國百舌鳥耳原陵。〉
次の帝、履中天皇と申しき。
仁德天皇第一の御子。
御母の皇后磐之媛なり。
仁德天皇三十一年に東宮に立ち給ふ。御年五歲。
庚子の年二月一日位に即き給ふ。御年六十二。
世を保ち給ふ事六年。
父 帝、亡せおはしまして後、いまだ位に即き給はざりし程に、葦田宿禰の女 黑媛と云ひし人を后とせむと思して、御弟の住吉仲皇子を遣はして、その日おはすべきよし仰せられしに、この皇子、我が名を隠して、東宮のおはするさまにもてなして、この姬君に親しきさまになむなりにける。さて、持ちたりつる鈴を忘れて歸りにけり。その次の夜、東宮姬君のもとへおはしたるに、居給へる傍に、鈴のありければ、
怪しく思して、姬君に問ひ奉り給ひければ
「これこそは昨夜持ておはしたりし鈴よ。」
とのたまふに、
東宮、われと名のりて、皇子の近づき給ひにけるにこそと思して、歸り給ひにけり。皇子この事を東宮聞き給ひぬらむ。我が身平かならむ事難かるべしと思して、東宮を傾け奉らむと謀りて、兵を起して、宮を圍みしをり、大臣たち、東宮にかかる事侍ると吿げ奉りしに、いふかひなく酔ひ給ひて、おどろき給はざりしかば、大臣たち、この東宮を馬にかき乗せ奉りて逃侍りにき。皇子、この事をしらずして宮に火をつけて燒きてき。これは津の國の難波の宮なり。
東宮大和の國におはして、酔ひさめ給ひて、
「此はいづれの所ぞ。」
と問ひ給ひしかば、大臣たち、事のありつるさまを申し給ひき。
さて、石上の宮に坐し着きたりしに、又の御弟に、瑞歯の皇子と申しし人急ぎ参り給へりしを、疑ひ給ひて会ひ給はざりしかば、
この皇子
「われにおきては更に同じ心に侍らず。」
と申し給ひしかば、
「しからば、かの住吉仲皇子を殺して後に来るべし。」
とたのまはせしかば、
この瑞歯の皇子、即ち、難波に歸りて、住吉仲皇子の近くく使ひ給ひし人を語らひて、
「わが言はむ事に從ひたらば、われ位を保たむ時、汝を大臣になさむ。」
とのたまひしかば、
「いかにも仰せに從ふべし。」
と申ししかば、
多く物どもを賜ひて
「しからば汝が主を殺して、われに得さすべし」
とのたまふに、
そのことに従ひて、主の皇子の厠におはするを矛をもちて刺し殺してき。
瑞歯の皇子、その人を相具して参りて、このよしを申し給ふに、
東宮ののたまはく、
「この人はわがために功労あれども、おのれが主を殺しつれば、うるはしき心にあらず。されども大臣の位にのぼさせ給ひて、今日大臣と酒盛りせむ。」
とのたまはせて、
顏隱るるほどの大なる盃にて、東宮まづ飮みたまふ。次にみづはの皇子飮み給ふ。次に大臣のむ折に、太刀を拔きて首を斬り給ひてき。
さて、次の年、位に即き給ひて後、その黑姬をば后に立て奉らせ給ひしなり。
五年九月に、帝、淡路の國におはして、狩し給ひしに、空に風の音に似て声する物ありしほどに、にはかに人走り参りて。后亡せ給ひぬるよし申ししこそ、いとあへなくはべりしか。
【第十九代】反正天皇
〈六年崩。年六十。葬和泉國百舌鳥耳原北陵。〉
次の帝、反正天皇と申しき。
仁德天皇第四の御子。
履中天皇の御弟なり。
御母、皇后磐之媛なり。
履中天皇の御世二年正月に東宮に立ち給ふ。御年五十。 履中天皇の御子おはせしかども、この帝を東宮には立て奉らせ給ひしなり。
丙午の年正月二日位に即き給ふ。御年五十五。
世を治らせ給ふ事六年。
帝、御容めでたくおはしましき。御たけ九尺二寸五分、御齒の長さ一寸二分。上下整ほりて、玉を貫きたるやうにおはしき。生れ給ひし時、やがて御齒ひとつ骨のごとくにて生ひ給へりき。さて、瑞歯の皇子とぞ申し侍りし。
この御世には、雨風も時にしたがひ、世安らかに、民豊かなりき。
位に即き給ひて、次の年十月に都、河內國柴垣の宮に遷りにき。
【第二十代】允恭天皇
〈四十二年崩。年八十。葬河內國惠我長野北原陵。〉
次の帝、允恭天皇と申しき。
仁德天皇第五の御子。
御母、皇后磐之媛なり。
壬子の年十二月に位に即き給ふ。御年三十九。
世を治り給ふ事四十二年なり。
兄の帝、亡せ給ひてのち大臣を始めて、
「位にはこの君こそ即き給ふべけれ。」
とて、璽の箱を奉りしかども、
受け取り給はずして、
「我が身久しく病に沈めり。朝廷の位はおろかなる身にて保つべき事ならず。」
とのたまひしを、
大臣以下猶進め奉りて、
「帝王の御位の、空しくて久しかるべきにあらず。」
と、度々申ししかども、
猶聞し召さずして、正月に兄帝亡せおはしまして、明くる年の十二月まで帝おはしまさでありしを、御乳母にておはしましし人の、
水をとりて御うがひを奉り給ひしついでに、
「皇子はなど位に即き給はで年月をば過ぐさせ給ふにか侍る。大臣より始めて世の中の嘆きに侍るめり。人々の申すに從ひて位に即かせ給へかし。」
と申したまふを、
なほ聞きこし召さで、うち後向き給ひて、物ものたまはざりしかば、この御うがひを持ちて、さりとも、とかく仰せらるる事もやと待ち居侍りしほどに、十二月の事にていと寒かりしに、久しくなりにしかば、御うがひも氷て持ち給へる手も冷えとほりて、既に死に入り給へりしを、
皇子見驚き給ひて、抱き扶けて、
「位を繼ぐ事は極りなき大事なれば、今まで受け取らぬことにて侍れども、かくのたまひあひたる事なれば、あながちに遁れ侍るべきことにあらず。」
とおほせられしかば、
一天下の人よろこびをなしき。かくて位には即き給ひしなり。
三年と申しし正月に、新羅へ医師を召しに遣したりしかば、八月に參りたりき。帝の御病をつくろはさせ給ひしに、その験ありて、御病癒えさせおはしましにしかば、さまざまの祿どもなど賜はせて、歸しつかはしてき。
七年と申しゝ十二月に、御遊びありしに、帝、琴を弾き給ふを、后聞き愛めで奉りて、舞ひて、うち居給ひし折、
「あはれ、內御をまゐらせばや。」
と申し給ひしを、
帝、
「內御とは誰が事にか。」
と問ひ申させ給ひしを。
「御琴のめでたさに、我にもあらず申し給へりけることにや侍りけむ。さりながらも、
申し出し給ひぬる事なれば。隱し給ふべきならで、
「わが弟に侍る、弟姬となむ申す。色容なむ世に又並ぶ類侍らず。衣の上、光り通り輝き侍り。世の人はされば衣通姬とぞ申す。」
帝、聞こし召して、
「それ奉り給へ。」
と、后を責め申させ給ひしかども、ともかくも御返事も申し給はざりしかば、御使を遣はして七度まで召ししかども參り給はざりしかば、又御使を替へて遣したりしに、その御使庭にひれ伏して、七日までつやつやと物を食はざりしを、御使のいふかひなく死なむことのあさましさに、弟姬內へ參り給ひにき。帝、悅び給ふこと限りなくて、時めき給ふさま並ぶべき人なかりき。この事を姉后やすからぬ事にし給ひしかば、宮を別に造りてぞ、据ゑ奉り給へりし。
四十二年おはしまししに、帝、亡せ給ひにしを、新羅より年毎の事なれば、船八十に様々の物を積みて、樂人八十人相副へて奉りたりしに、帝、亡せ給ひにけりと聞きて、泣き悲ぶこと限りなし。難波の津より京まで、この貢物を持て續け奉りおきて歸りにき。この後は僅に船二つなどをぞ奉りし。又、怠る年々も侍りき。
【第廿一代】安康天皇
〈三年崩。年五十六。葬大和國菅原伏見西陵。〉
次の帝、安康天皇と申しき。
允恭天皇の第二の御子。
御母、皇后忍坂大中姬なり。
甲午の年十月に御兄の東宮を失ひ奉りて、十二月十四日に位には即きたまひしなり。御年五十六。
世を治り給ふ事三年なり。
明くる年の二月に御弟の雄略天皇の大泊瀨の皇子と申しておはせし、御妻になし奉らむとて、御叔父の大草香の皇子と申しし人の御妹を奉り給へど、帝仰せ事ありて、御使を遣したりしに、
この皇子、喜びて、
「身に病を受けて、久しくまかりなりぬ。世に侍ること、今日明日といふ事を知らず。この人みなし子にて侍るを見おき難くて黄泉路も安くまかられざるべきに、その容の醜きをも嫌ひ給はず、かかる仰せを蒙る、忝き事なり。この志をあらはし奉らむ。」
とて、御使につけてめでたき寶を奉れるを、
この御使これを見て耽ける心出できて、この寶物をかすめ隠つ。
さて、歸へり參りて帝に申すやう、
「更に奉るべからず。同じ皇子たちといふとも、我らが妹にて、いかでかあはせ奉るべき。」
と申すよしを僞り申ししかば、大きに怒り給ひて、軍を遣はして殺し給ひてき。その妻をとりてわが后とし給ひ、その妹を召して、本意の如く大泊瀨の皇子にあはせ給ひつ。
三年と申す八月に、帝、樓に登り給ひて、御酒など進めて遊び給ひて、
后の宮に、
「何事か思す事はある。」
と申し給ひしかば、
后の宮、
「帝の御いとほしみを蒙れり。何事をかは思ひ侍るべき。」
と申したまふ。
帝、仰せられていはく、
「我が身には恐るる事あり。この継子の眉輪の王、おとなしくなりて、わが、その父を殺したりと知りなば、定めて惡しき心を起こしてむ。」
とのたまふを、
この眉輪の王、樓の下に遊びありきて聞き給ひてけり。さて、帝の酔ひて后の御膝を枕にして、晝御殿籠りたるを、傍なる太刀を取りて、眉輪の王、過ち奉りて、逃げて大臣の家におはしにき。
帝の御弟の大泊瀨の皇子、この事を聞きて、軍を起こして、かの大臣の家を囲みて戰ひ給ひき。
眉輪王、
「もとよりわれ位に即かむとの心なし。唯父のかたきを報ゆるばかりなり。」
と言ひて、
自から首を斬りて死ぬ。この眉輪王七歲になむなり給ひし。
【第廿二代】雄略天皇
〈二十三年崩。年九十三。葬河內國高原鷲陵。〉
次の帝、雄略天皇と申しき。
允恭天皇第五の御子。
御母、皇后忍坂大中姬なり。
丙申の年十一月十三日位に即き給ふ。御年七十。
世を治り給ふ事廿三年なり。
この帝、生れ給ひし時、宮の內なむ光りたりし。おとなになり給ひて後、御心猛くして多くの人を殺し給ひき。世の人、大惡天皇と申しき。
二年と申しし七月に、帝、愛せさせ給ひし女こと、男にあひにけり。帝、怒り給ひて、男女二人ながら召し寄せて、四の肢を木の上に張りつけて、火をつけて燒き殺し給ひてき。
四年二月と申ししに、帝、この葛城山にて狩をし給ひしに、帝の御容にいささかも違はぬ人出で來たれりき。
帝、
「これは誰の人ぞ。」
とのたまはせしに、
その人、
「まづ王の名を名告り給へ。その後、申さむ。」
と申ししかば、帝、名告り給ひき。
その後、
「我は一言主の神に侍る。」
と申して、
相共に狩をして、日暮れて歸り給ひしに、この一言主の神、送り奉りしかば、
世の中の人、
「たた人にはおはせぬか。」
とぞ申しあひたりし。
廿三年と申しし七月に、
浦島の子、蓬萊へまかりにけりといふ事侍りしなり。皆人の知り給ひたる事なれば、こまかには申すべからず。
【第廿三代】淸寧天皇
〈五年崩。年四十一。葬河內國坂門原陵。〉
次の帝、淸寧天皇と申しき。
雄略天皇の第三の御子。
御母、皇太夫人葛城韓姬なり。
雄略天皇の御世廿二年正月に東宮に立ちたまふ。御年三十五。
世を治り給ふ事五年。
帝、生れ給ひて御髪白く長かりき。さて、白髮皇子とは申ししなり。
民を愛し給ふ御心ありしを、父 帝、御子たちの中に寵じ給ひて、東宮に立て奉りしなり。
庚申の年正月四日位に即きたまふ。御年三十七。
世を治り給ふ事五年なり。
この帝、位を繼ぐべき人なき事を歎きて、よろづの國々に使を遣はして王孫を求め給ひしに、履中天皇の御孫と云ふ人二人を播磨國より求め出して、兄をば東宮に立て、弟をば皇子とし給ひき。
【第廿四代】飯豐天皇
〈即位年崩。年四十五。葬大和國垣內丘陵。〉
次の帝、飯豐天皇と申しき。 これは女帝におはします。
履中天皇のみこに押羽皇子と申して黑媛の御腹に王子おはしき。その御むすめなり。
御母茅媛なり。
甲子の年二月に位に即き給ふ。御年四十五。
この帝の御弟二人、互に位を讓りて繼ぎ給はざりしほどに、御妹を位に即け奉り給へりしなり。
さて程なく、その年のうち十一月に、亡せ給ひにしかば、この帝をば系圖などにも入れ奉らぬとかやぞ承る。されども日本紀には入れ奉りて侍るなれば、次第に申し侍るなり。
【第廿五代】顯宗天皇
〈三年崩。年三十八。葬大和國磐杯丘陵。〉
次の帝、顯宗天皇と申しき。
飯豐天皇の同じ御腹のおとゝに坐します。
乙丑の年正月一日位に即きたまふ。御年三十六。
世を治り給ふ事三年。
御父の押羽の皇子は、安康天皇の御世三年と申ししに、安康の御弟の雄略天皇と申しし帝の、いまだ皇子にておはしまししに、失はれ給ひしかば、その皇子二人、丹波國へ逃げて坐したりしに、猶、世の中を恐れり給ひて、弟の君、兄の君を勧め奉りて、播磨國へおはして、御名どもをかへて、郡の司に仕へ給ひき。
さて、年月を過ぐし給ひし程に、弟の君、兄の君に申し給はく、
「我等命を遁れて、此所にて年を經にたり。今は名を顕はしてむ。」
とのたまひしに、
兄の君、
「しからば、命を保たむ事いと難かるべし。」
とのたまひしかば、
又、弟の君、
「われ等は履中天皇の御孫なり。身を苦しめて、人に仕へて、馬牛を飼ふ。生ける甲斐なし。唯名を顯して命を失ひてむ。いとよき事なり。」
とのたまひて、
兄弟互に抱きつきて泣き給ふ事限りなし。
兄の君、
「さらば、疾くわれ等が名を顕はし給ひてよ。」
とのたまひしかば、
二人相具して郡の司の家におはして、雨垂りのもとに居給へりしかば、呼び入れ奉りて、竈の前に据ゑて、酒飲み遊びなどして、おのおの立ちて舞ふに、この弟の君、我が御身の有樣をいひ續けて舞ひ給ふを、郡の司聞き驚きて、降りさわぎ、拜し奉りて、郡のうちの民どもを起して、俄に宮造りして、かりそめに据ゑ奉りて、
帝に、
「この二人の王を迎へ奉り給へ。」
と申ししかば、
淸寧天皇、喜びて即ち迎へ取り給ひつ。
「われ子なし位を繼ぎ給ふべし。」
とて。兄の王を東宮に立て奉り給ひき。
さて、淸寧天皇亡せ給ひにしかば、東宮位に即き給ふべかりしを、御弟に譲り給ひしかども、あるべき事にあらずと申し給へりき。かくて互に位に即き給はざりしかば、御妹の飯豐天皇を即け奉り給ひしほどに、その年のうちに亡せ給ひにしかば、猶、弟の王東宮の御勧めに從ひて位に即き給ひき。
その年三月上巳の日、始めて曲水宴を行はせ給ひし。
二年八月と申ししに、
帝、御兄の東宮に申し給はく、
「わが父の皇子、罪なくして、雄畧天皇に失はれ給へりき。恨みの心今に止む事なし。われ、かの帝の陵を毀ちて、その骨を砕きて捨てむ。」
とのたまひしを、東宮申し給はく、
「雄畧天皇は帝におはします。我が父は帝の御子なりといへども、位に登り給はざりき。又、帝、淸寧天皇の御惠を蒙り給へり。雄畧天皇は淸寧天皇の御父におはせずや。今位に登り給ひ、いかでかその志を忘れ給はむ。陵を破り給はむ事あるべからず。」
と申し給ひしかば、その言に従ひ給ひき。
この御時、世治り民安らかに侍りき。
【第廿六代】仁賢天皇
〈十一年崩。年五十。葬河內國埴生坂本陵。〉
次の帝、仁賢天皇と申しき。
顯宗天皇のひとつ御腹の兄なり。
淸寧天皇の御世三年四月に春宮に立ちたまふ。
戊辰の年正月五日位に即かせたまふ。御年四十。
世を治りたまふ事十一年なり。
この帝の御有様、顯宗天皇の御事の中に細かに申し侍りぬ。御心ざまめでたくおはしましき。
【第廿七代】武烈天皇
〈八年崩。年十八。葬大和國傍丘勞杯丘北陵。〉
次の帝、武烈天皇と申しき。
仁賢天皇の御子。
御母、皇后春日の大娘なり。
仁賢天皇七年正月に東宮に立ちたまふ。御年六歲。
戊寅の年十二月に位に即き給ふ。御年十歲。
世を治り給ふ事八年。
その程、人を殺す事、朝夕のしわざとし給ふ。孕める人の腹を裂き割りて、その子を見給ひ、人の爪を抜きて芋を掘らせ、人を木に登せて落して殺し、或時は、人を水に入れて矛にて刺し殺し、或時は、女を裸になして板の上に据ゑて、馬のゆゆしきわざを見せさせ給ふに、その方に入りたる女は板を潤ほすを、帝これを憎みて、やがて殺し給ひき。
さ無きをば召して宮仕へすべきよしの仰せありき。かやうの、あさましく心憂き事多かりし御世なり。
御年十八にて亡せ給ひにき。御子もおはせず。
【第廿八代】繼體天皇
〈二十五年崩。年八十二。葬攝津國二島藍野陵。〉
次の帝、繼體天皇と申しき。
應神天皇第八の御子隼總別皇子と申しき。
その御子を大迹王と申しき。
その御子を私斐王と申しき。又その御子に彦主人の王と申しし王の子にて、この帝はおはしまししなり。
御母垂仁天皇の七世の御孫振姬なり。
丁亥の年二月に位に即き給ふ。御年五十八。
世を治り給ふ事二十五年。
武烈天皇亡せ給ひて後、位を繼ぎ給ふべき人なきことを、
大臣をはじめて一天下の人嘆きて、
≪仲哀天皇の五代の御孫丹波國におはすときこゆ。かの王を迎へ奉りて、位に即け奉らむ。≫
とて、司司、御迎へに参りしを、遙に見やりて、怖ぢ恐れ、色を失ひて、山中に隠れ給ひて、その行き方を知らずなりにき。
かくて、明くる年の正月に、越前國に應神天皇の五代の御孫の王おはすといふ事聞えて、又、司司、御迎へに參りたりしに、この王、驚く御氣色なくして、あぐらに尻をかけて、御前に候ふ人々、畏まり敬ひ奉る事、朝廷の如くなりき。この御迎へに参りたる人々、いよいよ畏まりて事の由を申しき。王、この事を疑ひ給ひて、空しく二日二夜を過させ給ひき。御迎への人々、重ねて大臣の迎へ奉るよし。事の有様を申し侍りし時に、京へ入り給ひしなり。さりながらも、位を受け取り給はざりしかば、大臣をはじめてあながちに勸め奉りしかば、遂に位に即き給ひしなり。
この御時、都遷り三度ありき。
【第廿九代】安閑天皇
〈二年崩。年七十。葬河內國古市高屋丘陵。〉
次の帝、安閑天皇と申しき。
繼體天皇の御子。
御母、妃尾張目子媛。
癸丑の年二月に位に即き給ふ。御年六十八。
世を治り給ふ事二年。
御位に即き給ひて明くる年正月に、都、大和の高市郡に遷りにき。
【第卅代】宣化天皇
〈四年崩。年七十二。葬大和國身狹桃花鳥坂上陵。〉
次の帝、宣化天皇と申しき。
安閑天皇のひとつはらの御弟におはします。
乙卯の年十二月に位に即き給ふ。御年六十九。
世を治り給ふ事四年。
位に即き給ひて三年と申ししにぞ、天臺大師生れ給ひし時に侍りしと、後に承りし。
序・初代～16代天皇⏪ ⏩31代 32～35代天皇
(C) 2024 RandDManagement.com →HOME