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■■■ 「古事記」解釈 [2022.12.14] ■■■
[歌鑑賞72]たまきはる内の朝臣
【天皇】雁卵の問
多麻岐波流たまきはる 宇知能阿曾うちのあそ 那許曾波なこそは 余能那賀比登よのながひと 蘇良美都そらみつ 夜麻登能久邇爾やまとのくにに 加理古牟登かりこむと 岐久夜きくや
㊆(5-5)-(4-6)-(4-7)-8

    亦 一時 天皇爲將豐樂 而 幸行日女嶋之時
    於其嶋雁生卵 爾召建内宿禰命
    以歌問雁生卵之状 其歌曰

魂極る  たまきはる
内の朝臣  我が内廷の朝臣よ
汝こそは  汝こそは
世の長人  この世界では長寿の人だ
そらみつ  (そこで尋ねるが)そらみつ
倭の国に  倭の国で
雁卵産と 聞くや  雁が卵を産んだと 聞いたことがあるかね

No.72〜74の3首は繋がっており、天皇と老臣 建内宿禰命の問答歌になっている。小生は、これを天皇の戯歌と見なした。 📖鴈産卵の戯歌も収載
もちろん、老臣が真面目に対応することを見越して投げかけ、その通りになったということで、表面上はお遊び的な風合いは全く無い。

しかし、こうした見方をすべきと考えた理由は、ここが下巻だから。

「古事記」は上・中・下巻で神-人関係の意味付けを大きく変えており、 建内宿禰命とは基本は中巻の登場人物であるから、ここでの記述は過渡期を示している筈。換言すれば、中巻に於けるのと異なる天皇-臣下の関係が見えてくるように編纂されていると見るべきだと思う。
換言すれば、新時代の天皇は、人間的側面を示す行動を表立ってとるようになったということで、そこに旧時代どっぷりの老臣下が絡むのが、この譚ということで、その観点で、この一連の歌を解釈するのが理にかなっているのでは。

その観点で、冒頭の枕詞"たまきはる"の用法は象徴的。係る語彙は、内 宇智[同音地名][同音] 命 心 (幾)世 磯 等々があり、かなりバラバラだが、それはこの歌を切っ掛けとして流行った詞だからかも。("手纏を佩く" "玉作りの地"にも、妥当性が見てとれる。)ここでの意味は、誕生から逝去までとなろうが、魂が臣下の意思というか心意気的な情感を示すようになって来たようにも思われ、近代的な観念が入って来たように見える。

避寒の渡り鳥が、わざわざ冬季に繁殖する訳がないが、そのような特別な現象があったという手の報告は珍しいものでは無い。熾烈な出世競争の中華帝国ではよくある上申で、瑞兆として寿ぐべしというだけのこと。天応にとっては、どう対処すべきかという単純な問題でしかないが、これは面白いから、老臣に話してみようとなったのでは。

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