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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.2.10 ■■■

魚 (鰐, 山椒魚, 鮫)

「酉陽雑俎」の巻十六〜十九は廣動植で以下のような内容。
 序 羽(鳥) 毛(獣) (魚) 蟲 木 草
そのうちの魚のなかからいくつかを取り上げてみたい。
と言うと、ビックリされるかも。タイトルでおわかりのように、鰐,山椒魚,鮫だからだ。爬虫類、両生類、軟骨魚類と、本流の硬骨魚類ではないものばかりだから。

その辺りの事情はお読みになればおわかりいただけると信じて、早速始めよう。

【馬頭魚】
 象浦有魚,色K,長五丈余,頭如馬,伺人入水食人。
場所は浙江省東清市。江南に建てられた東晋の頃の東清県の西界が象浦だった。
「馬」に似ていると判断しているが、揚子江より南の地は馬はいなかったようだが。
・・・江南(一曰來)無狼馬[@序]

おそらく、その地に全長5mが普通の入江鰐が漂着し例外的に棲息できたのだろう。爬虫類では最大の生物だし、極めて獰猛なのでスキルが無いと捕獲は簡単ではない。
現在、東南アジア全域に棲息するが、奄美、西表、八丈で発見されたことがあり、いかにもありえそうな話。
尚、体色は、一般的には深緑系褐色だが、黒斑があるので、色調的な違いはない。
 入江鰐/Salt-water crocodile/灣 or 食人
他の東南アジア棲息のワニは、王朝が宮廷で飼うことはあっても漂着することは稀だと思う。もっとも、気温の関係上かなり難しそうではあるが。
 シャムワニ/Siamese crocodile/暹羅鰐
 マレーガビアル/Malayan gharial/馬來長吻

中国に棲息するワニはアリゲーター。今と違って沢山いただろうから、よく知られていた筈である。日本人はワニとして見てしまうが、古代中国ではクロコダイルとは違う種類と見なしていたのは間違いない。
 揚子江鰐/Chinese alligator/(龍)[揚子] or 猪婆竜

獰猛な大型4足爬虫類を「魚」と見なすのは、日本人的には違和感が大きすぎるが、鰐、蛇、魚は鱗類動物として見れば同類なのである。
ただ、例外的に、鱗が無い両生類の一種の山椒魚(or 鯢)だけは魚扱いにしているようだ。

【鯢魚】
 如鮎,四足長尾,能上樹。
 天旱輒含水上山, 以草葉覆身,
 張口,鳥來飲水,因吸食之,聲如小兒。
 峽中人食之,先縛於樹鞭之,身上白汗出如構汁,
 此方可食,不爾有毒。


少々オーバーな表現という気はするが、普段はじっと静かにしてるが、たまたま口の前に来た生物はなんだろうとガブリ。完全肉食系。日本の大山椒魚は1m以上あり、相当な大きさの餌を飲み込む。大陸の大山椒魚はさらに大型だから、なんでも食べるだろう。
肺呼吸なので陸上を歩くこともでき、絶滅危惧種化してしまい、知られていないだけで、山道さえ歩くと言われている。日本の小型種など陸上棲息であり、乾燥することがないなら、木を登ってもおかしくない。
食べ方だが、北大路魯山人は「山椒魚」で「蜀志」に「山椒魚は木に縛りつけ、棒で叩いて料理する」と記されていると聞くと記載しており、それに合致する。
毒があるというのがどうにも解せぬところだが、間違いとは限らない。ケバケバしい色のイモリ系には猛毒を持つものが多いから、山椒魚の皮膚のネバネバには毒が含まれている可能性があろう。

と言うことで、鱗類の祖を示しておこう。

【鱗-蛟龍-魚の系譜@総叙】
 分鱗生蛟龍,
 蛟龍生鯤
 鯤生建邪,
 建邪生庶魚。

庶魚に至る鱗類の系統が示されている。つまり、鰐の祖は「鮫」龍ということ。化石を見ていたのかも知れないという気にさせられる記載である。

ところが、日本では「鮫」はサメ[小目]の文字として使われている。小さなサメを指すのではないかと思うが、フカ[深]ということで「鱶」を用いることも多い。
中国の現代表記は"狭目"的表現に近いようである。
 鮫/Shark/鯊

しかし、「酉陽雜俎」にはその魚が登場する。

【鮫魚】
 鮫子驚則入母腹中。
胎生の魚がいるということである。

猫鮫は卵生だが、尾長鮫は胎内産卵で孵化してから稚魚として出産。見かけは胎生である。目白鮫になると、擬似胎盤ができる。母親から栄養を直接供給されるのだから、まさしく本格的な胎生。
どうあれ、通常の魚のように、水中産卵の後に、精子を発射して水中受精ではなく、雌雄交接による体内受精が多い。
だからこそ「交魚」なのである。
   さめの話[2005年8月19日]
   鮫族の魚名は殊の外難しい[2014.9.10]

ちなみに、サメと呼んでよいものかという種はこんなところ。
 蝶鮫/Sturgeon/
 坂田鮫/Guitarfish/斑紋犁頭 or 飯匙鯊
 羅鱶/Frilled shark/皺鰓鯊 or 擬鰻鮫

もう一つ、あきらかにサメとは縁遠い魚がいる。サメにくっついている魚である。

【印魚】
 長一尺三寸,額上四方如印,有字。
 諸大魚應死者,先以印封之。

これはピッタリの名称。
わかるヨ、この感覚。

 小判鮫/Live sharksucker/ or 長印魚

ちなみに、魚類の記載では、龍がイの一番に登場する。上記の系譜からすれば、それは鮫龍なのであろう。龍だから超能力発揮と思いきや、単なる祖先でしかないようだ。天に上れる能力は与えてもらうしかないらしい。ハッハッハ、流石、段成式。

【魚の龍】
 頭上有一物,如博山形,名尺木。
 龍無尺木,不能升天。

冠なくしてはタダの生き物。はてさて、誰がその冠を与えるのか。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 3」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.
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