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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.7.3 ■■■

竹芝

茸の話を書いたが、竹肉をじっくり見ておかなかった。 [→「耳(茸)と菌類」]
江淮有竹肉,生竹節上如彈丸,味如白,皆向北。 [卷十九 廣動植類之四 草篇]
江准に竹肉有り。
竹節の上に生え、
大きから言えば弾丸の如し。
味は白樹鶏
[=白キクラゲ]の如し。
皆、北向きに生える。


形状は、鶏卵の様で肉の切れ端の印象を与えるということだろう。有毒のものが多いのではなかろうか。

竹芝も菌類ということで、知らん顔をした。
梁簡文延香園,大同十年,
竹林吐一芝,長八寸,頭蓋似頭實,K色。
其柄似藕柄,内通幹空,皮質皆純白,根下微紅。
頭實處似竹節,脱之又得脱也。
自節處別生一重,如結網羅,四面同,可五六寸,圓繞周匝,以罩柄上,相遠不相著也。
其似結網衆目,輕巧可愛,其柄又得脱也。
驗仙書,與威喜芝相類。


わざわざ、竹につく菌の話をしているから、かなり興味ありということ。
成式邸には竹林もあり、竹譜をじっくりと読んでいたようだから、ここは触れておかねばと考えたのかも。
   「竹譜」

観察眼が鋭い人だから、竹につく茸についても一方ならぬ関心を払っていたに違いない。

そんなこともあり、改めて触れておくのもわるくなかろう。
そう考えたのは、竹には茸は生えぬ、と訳のわからぬことを真面目な顔をして言う人がいたから。

菌の多様化はもの凄い。細菌と同じで、調べきれる訳がないというのが小生の見方。それが、我々が住む世界である。
つまり、菌のつかぬモノは無いと考えた方がよい。
竹で菌類を見かけないとしたら、なんらかの方法で防御しているだけのこと。
しかし、マイナーな存在なら、見かけ上防御に成功し続けるが、メジャーになて世界中で猛烈に繁殖したりすれば、ほぼ自動的にその防御はうち破られる。そのような菌はどこかに必ず存在しており、一挙に拡がることになるからだ。
(・・・これこそが進化の大元である大原則。例えば、石炭紀が終わったのは、炭化する前に腐食させる力を持つ菌が大増殖したと見る訳である。結果、菌だらけの世界で生きる力が弱い動物は死滅の憂き目と相成る。)

話が飛んだが、薮庭茸(太柄,厚肉の濃褐色ビロード状の傘)、網襞茸(細柄,白色薄肉で網目明瞭な傘)が、竹類に生える茸と言われている。小生は両方とも見たことはないが。

検索すると、この他に、純竹薮や竹が混じった雑木林に、日本特産の毒笹子なる茸が生えていることがわかる。潜伏期間5日で、不意に男性の陰部に激痛が走り、それがほぼ1か月続くという、世にも稀な作用を持った茸らしい。余りの痛さで衰弱死の可能性もあるそうナ。マ、浮気者処罰用として知る人ぞ知る茸なのだろう。
本当かいなという気はするが。ハッハッハ。

それに、忘れてはならないのが、銹[さび]病菌。イネ科植物なら、罹患して当たり前。
「赤衣病/Culm rust」と呼ばれる現象が知られている。
別名は、竹蓐病とか、雀の卵。蓐は竹肉的状態から来た命名だろうし、後者は菌の変態だろう。主に、雌竹で見られる病気とされている。
珍しい病気ではなさそう。その割には、余り知られていないのは、竹藪が管理されているからだ。病気が見つかると即焼却されていただけのこと。そのため、一般人は滅多に見かけないのである。もっとも、最近はわからぬが。
それに、山がちのところで藪漕ぎをした人間なら、笹に付着している気色悪いモノを見たことがある筈だ。そんな菌の名前をわざわざ調べる御仁はいそうにないが。

思うに、成式は茸フェチの使用人(奴婢)を雇っていたのではなかろうか。そのお陰で、かなり、色々なキノコ類を食べていたのだと思われる。仙芝感覚ではなく、一種の健康食として旨いならドシドシ食べようぜということで。
そうなれば、危険を避けるために、解説書はほとんど目を通していただろう。
なにせ、釈尊の直接的死因は豚肉的料理であり、それは毒茸である可能性が高いことを知っているのだから。
そして、それが茸だとしたら、仏教に帰依しているなら、最も重要な料理素材と言えるだろう。東アジアでは乳粥は滅多に食べないのであるから。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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