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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.7.4 ■■■

玄武攷

"玄武"は誰でも知る四神の1ツ亀蛇。にもかかわらず、十二支の生肖像同様に、その由来は諸説が獲り乱れており、さっぱりわからないのが実情。
十二支は、いかにもトーテムらしいし、部族大移動や抹殺をしてきた帝国だから発祥地がわからなくなって当然だろうが、"玄武"の不透明さはそれとは全く次元が異なる難しさがあろう。
何故に片方ではないのかという疑問に対する説明がいかにも中途半端なものだらけなのだ。
情報が少なすぎ、証拠なしに語れない専門家は、議論がしにくいから致し方ないとはいえ。

と言うことで、ここでは素人談義。

特段、"玄武"に興味があるということではなく、「酉陽雑祖」を読んでいると、その歴史が見えてくる気がしたからである。

何故にそうなるかといえば、この記述はいかにも異端だから。その割には、よく引用されているのだが。

なにせ、"蛇変亀"とくる。
そんな事績の場所とは江西北部にある廬山[1548m]。ここは霊異が発生するとされている。[南朝齊 王:「冥祥記」@479年]つまり、道教が、蛇を亀と同類と見なしたりすることもあったのだゼ、と指摘しているようなもの。

朱道士者,太和八年,常遊廬山,憩於澗石。
忽見蟠蛇,如堆暑ム,俄變為巨龜。
訪之山叟,雲是玄武。
 [續集卷三 支諾下]

484年[北魏の年号]の話と思われる。
要は、隋代より古い話であると言っているにすぎない。絵画から見て、唐代には"玄武"は大流行していたようであり、成式はその発祥元を考えていたのだろう。

本の虫であれば、"玄武"の概念が変化していることに気付いていた筈であり、それを主導しているのは道教教団であることもお見通しだったということ。
そこで、異端的な話を登場させ、どのように話が作られていったかの一端を見せることにしたのではなかろうか。

ザッとその変遷を見ておこう。

"玄武"はもともとは、亀蛇ではなく、亀だけだった可能性が高い。
"玄武"を、【玄亞】と呼んでもかまわない位で、北宮の神を指していたのは間違いない。
その神の意向が顕示されるのが龜卜。神のお告げを伝えるのが玄龜ということになろう。蛇は不要である。
《史記 卷二十七 天官書第五》:「北宮玄武,虚,危。危為蓋屋;虚為哭泣之事。」
(ちなみに、「東宮蒼龍,房、心。」「南宮朱鳥,權、衡。」「西宮咸池,曰天五。」)
王逸[120年頃活躍]@《楚辞 遠遊》:「玄武,北方神名。」

当然ながら、北方の天宮となれば、辰星信仰の対象となんらかわるところはない。
そこに、"水神"を被せたところが味噌。
【玄亞】は【玄冥】となるのである。
《淮南子 卷三天文訓》:「北方,水也,其帝,其佐玄冥,執權而治冬。其神為辰星,其獸玄武,其音羽,其日壬癸。」
後代の真[諱名:玄の代替]武大帝であり、この場合、人格神だから、亀や蛇が必要な訳ではない。庶民用の通俗名で言えば、水コ星君となる。

ここでの「水神」とはあくまでも都市を支える中華帝国の大河を指す。土着と言うよりは、インド[恒河]の概念を取り入れた神と見た方がよさそう。[→「ゴチャゴチャの河伯」]
以後、それは"玄武"から独立した存在となっていく。
 河伯@黄河,濟伯
  冰夷,馮夷,無支祁@淮河
  華夏四@黄河,済水,淮水,江水[→「神か水妖か」]

何故に、河神が離されたかといえば、帝国における水神が、河という土着神から、帝国の権力を示す治水の神へと変わったから。
つまり、【】の登場ということ。
"禹"の父、水工"鯀"を象徴する[= or 黿]が"玄武"とされる訳だ。
孔穎達[574-648年]@《禮記 曲禮》:「玄武,龜也。龜有甲,能禦侮用也。」
"玄武"に蛇が絡まる必要はないのである。

水神は蛇であるというドグマ暗記は止めた方がよい。そして、それは農耕に係るという訳でもないのである。中華帝国の江湖河海に於ける水神とは航海神祇土着タイプ(部族祭祀的首領)を指すことの方が多いのだから。
 娥皇/有虞氏帝舜の后@洞庭湖
  女英@湘江
 媽祖@港澳
  通遠王[樂山神と習合]@泉州
 曹娥夫人@浙江
 懿コ夫人@福州
ここらの一挙統合を図ったのが、水官大帝[主宰水域/九江水府河伯神仙+洞陰]ということになろう。水官の下級官僚としての地方官を土着的な神祇とする訳だ。実際、実在の人物への信仰も存在したようである。
 洪聖@廣東
 晏公@江蘇

そして、最後に到達したのが、龜蛇合體(夫婦)の【玄武】ということになるのではないか。
農耕帝国らしく、豊穣を約束する交合の姿になったということだろう。紆余曲折あったものの、唐代に入って、ようやくその概念が定着したということ。
李賢[651-684年]@《後漢書 王梁傳》:「玄武,北方之神,龜蛇合體。」
李善[630-689年]@《文選》:「龜蛇交曰玄武。」

どうかナ。

(参照) /張從軍:「玄武与道教的起源」文化研究,2002,(1):139
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.


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