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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.3 ■■■

松の盆栽

"瓦松"[→]は、多肉植物と思われるが、正真正銘の松についての記載がある。

すでに、高級官僚私邸には庭園が普及しており、松・柏・竹を植え、山水調の造園を行うのが当たり前になっていたということ。(現代からすれば、豪奢に映るが、狩猟ができる広大な地域こそが本来的には"庭園"。皇家の力が落ちてきたことを意味しよう。規模の誇示から、文化的精巧の競い合いに変わったともいえる。)

ただ、わざわざ松を取り上げたのは、生物観察好きな成式が問題意識を持ったからだろう。
衛國公李徳裕との会話で[→]その感を深めたのかも。

松,今言兩粒、五粒,粒當言鬣。
成式修竹裏私第,大堂前有五鬣松兩根,大財如碗,甲子年結實,味如新羅、南詔者不別。
五鬣松皮不鱗,中使仇士良水I亭子在城東,有兩鬣皮不鱗者。
又有七鬣者,不知自何而得。俗謂孔雀松,三鬣松也。
松命根遇石則偃,蓋不必千年也。
  [卷十八 廣動植之三 木篇]
現時点で、松は"2粒"、"5粒"と呼ばれているが、「粒」とは、針状のヒゲ葉「鬣」に当たるのだから、そう言う方がよかろう。
  :
松の命を司る主幹の根の下に石を置いて、その上に這わせると,まさに千年樹木と言わざるをえない老木になる。


確かに、わざわざ"粒"という文字を使う必要などない。どうせ、宗教屋が何らかの目的でつけた名称に違いない。そのような用語に何の意義もないから、いい加減に止めたら如何かと主張しているのである。広大な庭を持たぬ人々も松の植栽を楽しめるようになった時代の流れを踏まえてのことだろう。

最後のパラグラフから見て、松の盆栽造りに精を出していたようだ。一般にまで流布していたとは思えないが、唐代からすでに人気があったようだ。状況から見て、植木商がすでに存在していたと思われる。

現代の分類は、葉の枚数ではないので、わかりにくいが、その視点で整理すると以下ののようになる。(素人がまとめたので誤謬ありと思って見て欲しい。)

【二葉】
黄山松 or 台灣二葉松/新高松/Taiwan red pine,赤松/Japanese red pine,黒松/Japanese Black pine,欧洲K松/〃/Black pine,欧洲赤松/〃/Scots pine,欧洲山松/-/Creeping pine,班克松/バンクス松/Jack pine,葉松/コントルタ松/Shore pine
【三鬣】
長葉松/大王松/Longleaf pine,剛松/リギダ松/Pitch pine,火炬松/テーダ松/Loblolly pine,湿地松/スラッシュ松/Srasyu pine
【五鬣】
華南五針松/-/Hainan white pine,大果松/-/Big-cone pine,紅松/朝鮮五葉松/Korean pine,刺果松/-/Great Basin bristlecone pine[長寿でしられる.],華山松/高嶺五葉/ Chinese white pine,瑞士五葉松/霜降松/Stone pine,偃松/這松/Japanese stone pine,日本五針松/姫小松[五葉松]/Japanese white pine,北美喬松/ストローブ松/Eastern white pine
【七鬣】・・・杉の一種ではないか。
【孔雀松】・・・三針葉とされているが、形状が孔雀的なのだろうから、これも杉系かもしれぬ。俗称だから、種としての概念ではなく、特定の有名樹木の名前が各地で真似られて広がったものだろうから、種はバラバラではないか。一種の栽培種だった可能性もありそうだが。

「太平廣記 草木一」の松類の記載には、「酉陽雑俎」の指摘が引かれているので、ご参考までに。・・・
五鬣松:
松凡言兩粒五粒,粒當言鬣。段成式修行里私第大堂前,有五鬣松兩株。大才如椀。結實,味與新羅者不別。五鬣松皮不鱗。唐中使仇士良水磑亭子,有兩鬣皮不鱗者,又有七鬣者,不知自何而得。俗謂孔雀三鬣松也。松命根。下遇石則偃盖。不必千年也。
三鬣松:
唐衛公李徳裕言,三鬣松與孔雀松別。又云,欲松不長,以石抵其直下根,便偃。不必千年方偃。
魚甲松:
洛中有魚甲松。


魚甲松という聞きなれない名前があるが、樹皮が見事な菱形で揃っている2針葉の大王松のことではなかろうか。成式によれば、五鬣松皮不鱗であるから。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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