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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.9 ■■■

蝮と青蛙の猛毒性

考えあぐねている箇所をとりあげてみたい。

前後の記述とは無関係な短文である。
 (パラグラフの前の方には"蛇足"[→]があり、
 すぐ後に続く文章は"冢井気"。
[→])
そのため、たまたま、文章の途中に紛れてしまったようにも映る。・・・

蝮與青蛙,蛇中最毒。
蛇怒時,毒在頭尾。
  [卷十一 廣知]

青蛙がどうして蛇と一緒にされるのか、はなはだ疑問。
青だから竹葉青と呼ばれる猛毒の蛇の別称とする考え方もありうるかも知れぬ。福建辺りの高地竹林に棲む種である。しかし、鱗が顕著な蛇を、滑っとした皮膚の蛙と呼ぶ必然性は全く無かろう。
ここで、先ず躓く。

それに、大陸で蛇中最毒とは、五十歩蛇とか百歩蛇と呼ばれる種。すぐに毒が回って死亡という恐ろしさが名前にでている。
この蛇は蝮とは呼ばないし、青蛙とも無縁である。

ともあれ、"青蛙"が、緑色のアマガエルだとすれば、成式がどうして猛毒話に組み込んだかがわからぬ。しかも、「廣知」篇に収録とくる。
どこにそんな話が広く伝わっているというのだ。

そもそも、江南では、蛙は食用になっていた筈だし。
カエルの皮膚には毒物成分が滲み出てくるとはいえ(弱体な表面を菌類から防御する目的か.)、目の下から毒液を噴出させる蝦蟇[ガマガエル]とは違い、毒として意識させるレベルからは程遠い訳で。
ただ、中南米産には、超猛毒のカエルが棲息していることが知られている。と言うか、両生類を展示している動物園にはたいてい一種類[箭毒蛙,黄金箭毒蛙,鈷藍箭毒蛙,金毒蛙,藍色毒標蛙,等.]は飼育しているから、小型で美麗な身体をじっくりと眺めたことがある人も多かろう。ただ、色は様々あるようだ。(黒,赤,桃,黄,橙,緑,藍)
そこでの解説ポイントは2点。・・・生物学の視点での、触れば危険を示すための警戒色との話と、社会的有用性の視点から、原住民はこの毒を鏃に塗って狩猟を行うとの話。

しかしながら、中国大陸に類似種が棲息していたとの話は聞かない。

う〜む。
ナンダろう。

"蝮"がマムシだとすれば。唐代はわからぬが、それ以前は江南の山がちの地にはウジャウジャ棲息していたと見てよかろう。
(棲息適地減少と食用捕獲量急増で、棲息数は激減した筈。)
一方、青蛙にしても、モンスーン気候帯ではそんじょそこらで普段から見かける種である。

そうなると、これは江南の地の呪術「蠱毒」を指すのかも。
春秋戦国時代にはすでに完成していたようである。どういう秘法なのかさっぱりわからぬが、危険な生物を集めてきて、それを一緒くたにして、粉にして使うのだろうか。要するに、蛇が毒を出すのではなく、毒が蛇の形になって表れるという発想。従って、そのエッセンスを抽出すれば、他人を密かにその毒で倒せるというものらしい。
おそらく、細菌やウイルス性の食中毒で死ぬと、この呪術のせいとされたであろう。魔女狩り用には最適なコンセプトと言えよう。
その場合、最強の毒を作るためには、蝮と 青蛙("青蛙蠱")を使えばよいとされていたのかも。
エッセンスを作るに当たっては、蛇を怒らせ、即座に頭と尾を切り取れということか。
(成式は西域からやってきたコブラ使いを通じて、そのカラクリを知っていた筈で、毒牙のことや、蛇の生態について十分理解していたに違いない。実際に、毒在頭尾と考えていることはありえまい。)

イヤ〜、難しいものヨ。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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