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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.29 ■■■

紅蝙蝠

たった一言にすぎぬが、紅色の蝙蝠の話が収録されている。
説明はあると言えばあるが、ほとんど無いに等しい。珍奇だから選んだのだろうと見て、何も考えずに通り過ぎてしまいそうな箇所である。・・・

紅蝙蝠,
劉君雲:
 “南中紅蕉花時,有紅蝙蝠集花中,
  南人呼為紅蝙蝠。”
  [續集卷八]

はてさて、これを、どう料理するか?

ともあれ、蝙蝠である。紅色なら、さぞかし縁起が良いのだろうナ、と考えたくなる。
と言うのは、よく知られているように、蝙蝠の“蝠”は“福”ということで、幸福の象徴の動物とされるからだ。壁に貼られている図案化された絵を見かけることがあるから、一般的に通用する縁起担ぎなのだろう。

しかし、「酉陽雑俎」ではそうはみなされていない。
僧侶が帝に対して、"ご逝去"の死夢をご覧になりましたナ、と平然と言い放っているからだ。そのどこが、幸福を呼ぶ鳥なのかネ、と言いたげ。
それが、中華帝国のいい加減なところ。 [→王朝][→仏僧]

と言うことで、文献的には、どう扱われているか、みておこう。
《爾雅》曰:蝙蝠服翼。
  :
《玄中記》曰:百伏翼,色赤,止則倒懸,千伏翼,色白,得食之,壽萬
  :
【賦】《魏陳王曹植蝙蝠賦》曰:吁何姦氣,生茲蝙蝠,形殊性詭,毎變常式,行不由足,飛不假翼,明伏暗動,晝似鼠形,謂鳥不似,二足為毛,飛而含齒,巣不哺,空不乳子,不容毛群,斥逐羽族,下不蹈陸,上不馮木。
  [「藝文類衆」巻九十七 蟲豸部 蝙蝠]

蝙蝠,色白如雪,集則倒縣,腦重故也。此二物得而陰乾末服之,令人壽四萬  [「抱朴子」卷十一 仙藥]

先ず、“福”の内実だが、百、千、萬の蝙蝠と呼ばれており、長命を寿ぐということのようだ。ヒトが洞窟生活をしていた頃の友としての記憶から来ていそうな気がしないでもないが、いかにも道教的。お得意のご都合主義的デッチアゲに映るということだが。
その理由は、"色白如雪"としているから。夜行性動物だから、白色種が存在するとはとうてい思えぬ訳で。

しかし、調べてみると、白色コウモリは存在するようである。
  腿白蝙蝠/Asian large‐footed bat@東北〜シベリア[一部白色]
  白箆蝙蝠/White pigmy bat@南米[全面的白色]

このことは、四川〜雲南の人が踏み入れていない山岳部に白色コウモリが棲息していた可能性を示唆する。もともと希少種だったろうから、長寿実現食材との噂がたてば、アッという間に絶滅ということ。

一方、紅色コウモリは、フルーツバット類だろうから、南方にはいかにもいそうな種だ。
こちらの需要も旺盛だったと思われる。
成式は書いていないが、紅蝙蝠は媚薬だからだ。
それがわかるのは、成式の息子の著作。・・・

紅蝙蝠出隴州@広東,背深紅色,唯翼脈淺K,多伏紅蕉花間。採者若獲其一,則一不去。
南人收為媚藥,
 瀧州には、背の色が深紅の蝙蝠が棲息している。
 ただし、翼の筋骨は浅黒い。
 紅芭蕉の花の間に伏せていることが多い。
 採取者がいるが、対の片方を捕獲する。
 すると、残った一匹は逃げず留まったまま。
 従って、こちらは、たやすく捕獲できるのである。
 そんなこともあって、南人は媚藥にする。

與象鼻蟲,珠,𧕻𧌰,諾龍為比。
王子年《拾遺》云
 有五色蝙蝠。
《異物志》:
 蝨魚,因風雨入空木而化為蝙蝠,其肉甚美。
《靈芝圖説》曰:
 蝙蝠,服之壽萬
又《媚藥》載:
 嗽金鳥辟寒金,龍子,布穀脛骨,鵲腦,砂草,荀草,左行草,
獨未見録紅蝙蝠處,豈闕載乎?
又有無風獨搖草,亦生嶺中,男女帶之相媚,頭若彈子,尾若鳥毛,兩葉開合,見人自動,故曰獨搖草。
又陳藏器云:
子,蔓生,取子中。人多食之,主蠱毒,帶於衣令人有媚,多迷人。子如土瓜,無毛,秋熟,色赤,形如酒也。
  [北戸録 卷第一]

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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