表紙
目次

📖
■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.10.8 ■■■

ナマス料理の反省

加熱調理しない生モノ食は結構怖いのだゾという話を取り上げた。
   「魚膾の恠」

成式先生は多分あまりお好みではなかったようだが、段家菜の2代目当主であるから、それなりに楽しんでいたに違いない。"膾曰萬丈足"を逸品と見なしていたようだし。[→]

ただ、ナマス料理はいかがなものか、というところ。
それは、仏教的な信条からなのか、心情的なのかはわからぬが、"生きたまま包丁を入れるという残酷な行為"は耐えがたいものがあるということ。

一つ目の話は、自ら包丁を取ってナマス料理を造っていて、それが自慢でもあった人が、突然、魚の精霊の存在に気付いてしまい、すべて止めたという例。・・・・

進士段碩常識南孝廉者,善斫膾。
毅薄絲縷,輕可吹起,操刀向捷,若合節奏。
因會客R伎,先起魚架之,忽暴風雨,雷震一聲,
膾悉化為蝴蝶飛去。
南驚懼,遂折刀,誓不復作。
 
[卷四 物革]
進士の段碩は、南孝廉をよく知っていた。
それによると、
(鱠は魚のナマスで、膾は獣のナマスだが、両方の)
ナマス料理を得意としていたそうである。
凄腕なところは、肉の超薄切りと、極細の糸造り。
その軽さと言えば風で吹き上がるほど。
しかも、その時の包丁捌きが素早いのである。
あたかも、調子を合わせた二重奏の如し。
会合があり、来客にその素早い技を見せることになった。
先ず最初は魚のナマスの架掛け料理。
ところが、できあがると忽ちにして暴風雨が始まり雷の一撃。
すると、鱠は悉く蝴蝶と化し、飛び去ってしまった。
南は驚きかつ懼れ、遂に料理刀を折ってしまった。
そして、二度とナマスは作らぬと誓った。


次は、喰われる魚の立場で、料理されることの残酷さを感じ取ってしまい、出家してしまった例。・・・

越州有盧者,時舉秀才,家貧,未及入京,因之顧頭堰,堰在山陰縣顧頭村,與表兄韓確同居。
自幼嗜鱠,在堰嘗憑吏求魚。
韓方寢,夢身為魚在潭,有相忘之樂。
見二漁人乘艇張網,不覺入網中,被擲桶中,覆之以葦。
復睹所憑吏就潭商價,吏即擢鰓貫,楚痛殆不可忍。
及至舍,歴認妻子婢仆。
有頃,置砧之,苦若脱膚。
首落方覺,神癡良久,盧驚問之,具述所夢。
遽呼吏訪所市魚處漁子形状,與夢不差。
韓後入釋,住祗園寺。
時開元二年,成式書吏沈家在越州,與堰相近,目睹其事。
 
[續集卷三 支諾皋下]
越州の盧は、時をときめく秀才。
しかし、家が貧しいので入京できなかった。
そこで、山陰県顧頭村の堰を管轄する役職に就いた。
親類の韓確との同居生活だった。
幼い頃から膾が好みだったこともあり、
 堰で働いている官吏に頼んで魚を入手していた。
さて、韓確が眠ていた時のこと。
夢の中では、底深き淵の魚となっていた。
 そして、我を忘れる如きに楽しむことができた。
そこに、二人の漁師が舟に乗ってやってきた。
 網を張っていたのだが、不覚にもその網に入ってしまった。
捕らえられ、桶に入れられ、葦で覆われてしまった。
そうこうするうち、頼んでいる官吏が、淵にやって来て、
 魚の価格交渉を始めた。
その官吏は、鰓をこじ開けて紐を貫通させたので、
 ほとんど忍耐し難き痛みに襲われた。
それからいつも用事を頼んでいる役人が
 淵にやって来て値段を掛け合うのを目にした。
役人は韓確の腮を持ち上げて紐を通したので、
 耐えられないほど酷く痛んだ。
家に到着すると、妻子や奴婢がいるのがわかった。
そうこうするうち、俎上で捌かれ、
 生の皮膚を剥がされる如き苦しみに襲われた。
頭を切り落とされた瞬間、目覚めた。
久しく神がかり状態だったので、
が驚いて問いただしてきた。
そこで、具体的に見た夢を話した。
すかさず、先の官吏を呼び寄せ、魚を買った市場を訪れた。
そこには魚を捕まえた漁師の姿があったが、
 夢の内容と差がなかった。
その後、韓確は出家し、祇園寺に住んだ。
 :


2つとも、唐代の話であるが、現代にも通じそう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>>    トップ頁へ>>>
 (C) 2016 RandDManagement.com