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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.10.18 ■■■

美味しい水草、等

「續集卷九/十 支植上/下」には、李徳裕から教えてもらった植物情報がかなり詰まっている。
おそらく、思いだしながら縷々書き留めていったのであろう。   「廃仏仕掛け人の知」

博学的知識を嫌うという点で意見が一致していたので、どうしても収載しておきたかったのではないかと思われる。

そうなると、それ以外に補遺的に前集に加えたくなる記述としてはどのようなものがあるのか気になってくる。

その一つは、食い物としての植物の魅力が挙げられよう。気晴らしに付けくわえてみたにすぎないのだろうが。
段家菜での宴会で、「前集卷七 酒食」に目を通した友人から、アレをどうして入れないのと言われたりしただろうし。

その1つ目。・・・
根,羹之絶美,江東謂之龜。
/蓴菜[ジュンサイ]は羹料理が飛び抜けて美味い。
江東では"龜"と呼ばれている。


菜は浮葉性水生植物なので、"水葵"とも呼ばれるらしいが、それは植物学的な見方だろう。あくまでも菜だから、この名前は古くから使われていた筈だ。萬葉集では、即物的に"沼縄"とされているが、流石、食い物の本場だけあって、亀のコラーゲン的食感に着目して"蒓龜"と呼んでいたようだ。
尚、羹が絶品というのは、段家菜での扱いという訳ではなく、呉では、蓴羹、鱸魚膾、菰菜が3大名物。一般的な認識ということになる。

現在の主生産地は、江蘇太湖、浙江蕭山湖、杭州西湖であり、唐代も同じような状況だったのであろう。
食べ方にしても、菜羹が定番で、唐代とかわらぬということになろうか。

そうそう、ジュンサイに似ているが、それとは別という草が、通称名だけ前集に登場している。そちらは、変種としようか。

鴨舌草,生水中,似,俗呼為鴨舌草。
  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

2つ目。・・・
又太原晉祠,冬有水底蘋,不死。食之甚美。
太原に晉の祠があるが、冬になると、水底に浮葉植物が増える。
多年草で全く枯れない。
これが、とっても美味しいのだ。


水草の瑞々しさは素晴らしきかな、かネ。
/田字草とはクローバー形の四葉の水草。
 蘋,乃四葉菜也。葉浮水面,根連水底。
  [李時珍:「本草綱目」]

アクアリウムに使われているので、知っている人も少なくないだろうが、食用と考える人はほとんどいまい。大量に繁殖していても、せいぜいが飼料であろう。
しかし、抜群の美味しさというのだ。コレ、成式の特殊な好みという訳ではない。当時は、一般的に高い評価がなされていたのである。
 菜之美者,有崑崙之蘋。
  [「呂氏春秋」]
それが、どうして食べなくなったのだろうか。見かけとは違い、羊歯の仲間だから、山野草的な灰汁的な味が残るのかも知れぬ。それが素晴らしいという人もいれば、嫌いな人もいる訳で。後者が主流になってしまったということか。

要するに、珍しい水草ではないのである。日本でも、水田の雑草として繁殖し放題の時代があった筈。それがいつのまにか、消えてしまったのである。

3つ目は水草ではなく、南の方の樹木。・・・
譏P樹,
古南海縣有譏P樹,峰頭生葉,有面,大者出面百斛。
以牛乳啖之,甚美。


譏P樹とは熱帯雨林帯に多い山棕系の樹木。
棕櫚[シュロ]の仲間であるが、普通は砂糖椰子と呼ばれる。
ご存知のように、その樹液は糖漿そのもの。
その繊維は様々な用途で使うわれてきたが、流石に食用にはならないだろう。
さすれば、ここで言う"麺"とは茎を潰して採取した澱粉の加工品と考えるべきだろう。砂糖椰子だからといって、澱粉麺に格段の旨みがあろう筈もなく、食感がよかったと見るべきだろう。
美味しいのはミルク味なのだと思われる。気になるのは、ミルクの文字が""ではなく"乳"な点だが、水牛ミルクということで、変えたのかも。
油脂分が多くてクリーミーな水牛ミルクに、砂糖椰子シロップをたっぷり加え、麺をいれたデザートということなのだろう。
現代で言えば、タピオカミルク的なもの。
9世紀に、すでに、そんなものを食べていたのか!

4つ目は、芝・菌(茸)大好きな成式が大いに気になった食べ物。
食べてみたかったですな、ご同輩、というところ。・・・

宋州田縣破岡山,武宗二年,巨石上生菌,大如合簣,莖及蓋黄白色,其下淺紅,盡為過僧所食,雲美倍諸菌。

他の"菌"と比べれば美味しさは倍ということで、生えている場所を通りがかった僧侶に食べ尽くされてしまったというのが愉快。
仙人食だ、ナンダカンダとごたくが並んでいる訳ではないのである。

当然、その正体は、なんだかわからぬが、石耳/岩茸の類だろう。地衣類である。
   「地衣類」
岸壁に生えるのが普通なので、滅多なことでは入手できないため、希少価値があるとされる。木耳[キクラゲ]より人気アリなのだ。
 廬山亦多,状如地耳,
  山僧采曝遠,洗去沙土,作茹,勝于木耳,佳品也。

  [李時珍:「本草綱目」]

岩につくような地衣類はたいていは微小な葉状だが、大きく広がることもあろう。色は褐色が多そうだが、色違いはありえそう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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