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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.11.23 ■■■

監軍巨犬

「酉陽雜俎」には、「卷二十 肉攫部」がある。今村訳は、"鷹狩須知"であるが、主体は鷹の捕獲や飼育に係る薀蓄であり、狩そのものに興味がある訳ではないのが歴然としている。
保護色の理解もあり、なかなかの優れモノ。

「放鷹走狗」は貴族としては趣味にしておかねばこまる訳で、成式も嗜なんでいた筈だが、登場するのは鷹だけで、犬は完璧に無視されているのである。
   「鷹狩」

猟犬としての友という気分ではなかったことがわかる。
と言って、"食狗"の話もしたくないように見える。

ただ、それは当然かも。

朝鮮半島の撲殺犬肉愛好でわかるように、犬肉食とは、どうみても、孔子に倣った儒教精神の発露。それになぶり殺しで精気を100%頂戴という、道教発想が乗っかっているだけ。
グルメな成式にとっては、くだらぬ理由で質の悪い肉を食すなど笑止千万だったであろう。
ただ、もともと、狗は六牲に入っているから、犬をトーテムにしている蒙古系民族を除けば、食すことには社会的なタブーはなかったであろう。特に、遊牧系の場合は、牧羊犬でもあったから、時には食卓に上っていた訳で。
そうそう、成式もまるっきり無視している訳ではない。1書には、"犬懸蹄肉有毒。"とあると、わざわざ引用してている。

それにしても、犬の記載は少なく、取り上げたくなかったのかナ、と多少気になる。
そう思って改めて眺めてみると、驚いたことに猟犬と共に、監軍官僚が飼っているご自慢の犬が登場していることに気が付いた。ペットの訳もなかろうから、現代で言えば、特別に訓練された監視用犬ではなかろうか。
すでに唐代にそのような犬がいたとは驚きである。

特に、そう感じてしまうのは巨大犬とのことだから。しかも、よく居る吠犬とは違い、戦闘能力を有する犬なのである。

「放鷹走狗」的な猟犬は追う素早さと、隠れ場所からの追い出しが役割だから、甲斐程度の大きさがベストで、大型犬は避ける筈。
それ以外の犬と言えば、小生の中国犬のイメージだと、宮廷犬の京巴/ペキニーズと、至って温和な性格の獅子狗/チャウチャウとなるが、軍事用に向いているとは思えない。
そうなると、どこにでもいるタイプか。所謂、土狗[一般の家犬]。ここから大型を選抜するにしても、はたして可能だろうか。外見だけは小振りの秋田犬だが、東南アジアによくいる犬のように尻尾を巻き、下を向いて歩くような卑屈な性格が強いのでは。柴のような猟犬的特質があるとは思えず。
さすれば、DNA血統的には秋田や柴の類縁である獅子狗を訓練したということか。

もちろんのことだが、監軍犬に焦点があてられている訳ではなく、単に不思議な狐の話。・・・
   「妖狐」
[岡本綺堂:「中国怪奇小説集 酉陽雑爼」 九尾狐@青空文庫]をママ引用.

劉元鼎為蔡州蔡州新破,食場狐暴,
劉遣吏生捕,日於球場縱
逐之為樂。
經年,所殺百數。
後獲一疥狐,縱五六犬皆不敢逐,狐亦不走。
劉大異之,令訪大將家獵狗及
監軍亦自誇巨犬
至皆弭耳環守之。
狐良久才跳,直上設廳,穿臺盤出廳後,及城墻,俄失所在。
劉自是不復令捕。
道術中有天狐別行法,言天狐九尾金色,役於日月宮,有符有日,可洞達陰陽。

[巻十五 諾皋記下]

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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