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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.2.11 ■■■

諸画家評価

玄宗皇帝[在位:712-756年]の宮廷画家【呉生/呉道玄】の怨嗟による【皇甫軫】暗殺話が収載されているが、[→]呉の弟子である【盧楞伽】も、呉絶賛の素晴らしき絵を仕上げた途端に死亡する。・・・

崇仁坊[東四条]資聖寺,
土院門外,相傳【呉生
/呉道玄】一夕秉燭醉畫。
就中戟手,視之惡駭。
院門裏,【盧楞伽】畫。
盧常學【呉】勢,【呉】亦授以手訣。
乃畫總持三門寺,方半,【呉】大賞之,謂人曰:
  “【楞伽】不得心訣,用思太苦,其能久乎?”
畫畢而卒。

   [續集卷六 寺塔記下]

得意ジャンルが違えばそのような権力闘争からの危険性は薄れるのかも。
そのような人物としては、【韓幹/韓干[706-783年]があげられるのかも。[→「馬絵論議」]

道政坊寶應寺。
【韓幹】,藍田人,少時常為貰酒家送酒。
王右丞兄弟未遇,毎一貰酒漫遊。

【幹】常債於王家。

戲畫地為人馬,右丞精思丹青,奇其意趣,乃與錢二萬,令學畫十余年。
今寺中釋梵天女,悉齊公妓小小等寫真也。
寺有【韓幹】畫下生幀彌勒,衣紫袈裟,右邊仰面菩薩及二獅子,猶入神。
   [續集卷五 寺塔記上]

仁坊[東四条]資聖寺,
  :
觀音院兩廊四十二賢聖,【韓幹
/韓干】畫,元中書載贊。
東廊北頭散馬,不意見者,如將嘶
聖僧中龍樹、商那和修,絶妙。

   [續集卷六 寺塔記下]

成式的には、力があるのに、今一方、本気になって描いていない画家という評価かも。
そう言う点では、好みの画家は【李真】かも。徳宗[在位:779-804年]代の宮廷画家であり、道釈画で活躍したようである。
[空海請来の「真言五祖像」@東寺(国宝七祖像のこと)は、李真も作画に参加していると伝わる。]

崇義坊招福寺,
:
庫院鬼子母,貞元中【李真】畫,往往得長史規矩,把鏡者猶工。

   [續集卷六 寺塔記下]

崇仁坊[東四条]資聖寺,
  :
中門窗間,【呉道子
/呉道玄】畫,高僧韋述贊,李嚴書。
中三門外,兩面上層,"不知何人"畫,人物頗類【閻令】。
寺西廊非隅,【楊坦】畫,近塔天女,明睇將瞬。
團塔院北堂有鐵觀音,高三丈余。
團塔上菩薩,【李真】畫。
四面花鳥,【邊鸞】畫。當藥上菩薩頂,茂葵尤佳。
塔中藏千部《法華經》。

   [續集卷六 寺塔記下]

花鳥画だと、コ宗期の右衛長史【邊鸞】[活動時代:780-805年]か。

宣州長史の【周】も素晴らしい道釈画家と見なしているようだ。ただ、仏画だけでなく、貴族遊宴図や美人図にも力を発揮したようで、その手の人物表現の鋭さで群を抜いていた模様。

成式達がどのように評価していたかは、以下で。・・・
辭。諸畫連句,柏梁體:
 【呉生
/呉道玄】畫勇矛戟 (柯古)
 出奇變勢千萬端
 (善繼)
 蒼蒼鬼怪層壁ェ
 (夢復)
 睹之忽忽毛發寒
 (柯古)
 【
/盧楞伽】之力所 (柯古)
 【李真】【周】優劣難
 (夢復)
 活禽生卉推【邊鸞】
 (柯古)
 花房嫩彩猶未幹
 (善繼)
 【韓幹
/韓干】變態如激湍 (夢復)
 惜哉壁畫勢未殫
 (柯古)
 "後人"新畫何汗漫
 (善繼)
   [續集卷六 寺塔記下]
この「諸画」連句では、参加者全員が競って、韻を踏む一句を作る、昔からの柏梁体様式で遊んでみた。
【呉生
/呉道玄】のモチーフは勇壮な矛戟を集めたもの。
その出没の仕方は千変万化。
わさわさと層を成す鬼怪は壁面に広がる。
/盧楞伽】の描く強者は疾病創傷だらけ。
【李真】、【周】の優劣はつけ難し。
生きている鳥や花卉の絵画なら【邊鸞】を推す。
花房の瑞々しさとその生彩は、乾画とは思えないほど。
【韓幹
/韓干】の変態画法は激流そのもの。
惜しむらくは、壁画の勢いが尽きるには、余裕がある点。
それにしても、
 後世の画人の描く絵にはいい加減なものが多すぎる。


[付記]
絵画の評価視点としては
南齊 謝赫:「古畫品録」に記載されている6つの観点が知られている。
 <六法者何?>
 一 氣韻生動是也 ・・・スピリッツ&ヴィヴィッドネス
 二 骨法用筆是也 ・・・タッチ&ドローイング
 三 應物象形是也 ・・・モチーフ&デッサン
 四 隨類賦彩是也 ・・・カラーリング
 五 經營位置是也 ・・・コンポジション
 六 傳移模寫是也 ・・・レプリカ(完璧な真似!)
尚、中華帝国の知識人が展開する文化史論では、儒教的な"古代の素晴らしさ"を賞賛することが礼儀とされているのが普通。(ステレオタイプな指摘はこんな具合の流れになる。・・・"簡略-素朴"
(儒教ではアプリオリに雅とされる。)⇒"精緻-洗練"(巧みとされる。)⇒"絢爛-豪華"(精神的腐敗の始まりと解釈されてしまう。)⇒"煩雑-錯乱"(世も末ダ。)⇒"今こそ、回帰せよ!")

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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