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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.3.10 ■■■

スットンキョウ

素っ頓狂ならぬ、"主顛狂"が収録されている、その手の俗説オムニバス。順序を再編してご紹介しよう。[卷十一 廣知]・・・

 【自縊死繩】主顛狂。
 【孝子衿灰】傅面<面幹>。
 【東家門棲木作灰】,治失音。
 【砧垢】能蝕人履底。
 【古襯板】作琴底,合陰陽通神。


この箇所は圧巻。

〇 晩唐の首府では、首吊り自殺が多発していたようだ。よりにもよって、その縄に、それこそ瘋癲に"威力"ありという話が横行していたのである。
文化的に行き詰まりをみせていたことを示す事象と言えそう。
〇 その一方で、社会的に"人格者"としてみなされている人が着ている服の襟の灰も"凄いゾ!"と。
成式サロンではさぞかし大笑い。
〇 そんな俗説の根源は、特別製の琴に"神威"ありとする昔からの言い伝えだろうと言うことか。
〇 【東家棲木】はすでに検討した。[→「木本本草」]《隱訣》からの引用である。
〇 織りあがった布に付着している糊や油を洗い落とすと湯面に浮かぶののがあり、それが"垢"なのだろうが、それに威力があるらしい。この文章はよくわからぬが、鞋/履物にした古い底の燒灰や煮汁にも、霍亂を止める等の効能ありという記載が本草にある。土中の"氣"が溜まっていると考えるのだろうか。

一般に、中華帝国の民にみられる土着俗信の核は、あくまでも「食することで"氣"を頂戴」。もちろん、お利益ありということで。
しかし、態度悪しだと、逆に、甚大な悪影響を被ることもあろう。触れているだけではありえないと思うが。
そんなこともあるのか、そんな話には、非道教的なお説教が含まれていたりして。・・・

瓠牛踐【苗】則子苦。
ヒョウタン牛とは聞きなれないが、はるばる印度から渡来した瘤牛/Zebuの俗称だろう。いくら聖なる牛だからといって、苗を踏み潰してはいかんナ。報いがくるというのはいかにも仏教的で土着の俗信とは思えないが、天竺教ということでそんな話になったのであろう。

大醉不可臥【黍穰】上,汗出眉發落。
泥酔して、酒の原料でもある大切な黍の稈[=茎]の上に臥せて潰してしまうなど言語道断。汗がでてきて、眉や頭髪が抜け落ちてしまって当然の報い。と言うか、深酒せざるを得ない厄介な問題があり、円形脱毛症になったというのが真相だと思うが。

著母臥【薦】下,勿令知之。
優れた母親というものは、真菰を編んだ筵で寝ていたりするもの。出世して長官になった子供は、やがて、それを知ることになる。儒教臭芬々。

【莎衣】結治瘡。
[=鋏虫/Earwig, 俗称剪刀蟲]がヒトを傷つける訳がなかろうが、理由がわからない瘡はこの虫のせいとされたのだろう。それ以外にも、恐ろしい話は色々あろう。それこそ、寝ていると耳から入るゾという類のもの。
それを治す方法が莎衣結というのだから面白い。(莎衣とは、雨天時に付ける蓑衣。)

肝心の食に話を移そう。

素晴らしい"氣"を食を通じて得ることができれば、不老長生、富貴名声、に繋がるだろうが、そうでない"氣"が入ってくることもある。そんなご注意話。

そのうちの季節モノはすでにとりあげた。[→「俗言重視」]《隱訣》からの引用である。・・・
十月食【霜菜】,令人面無光。
三月不可食【陳】。


婦人有娠,食【幹姜】,令胎内消。
幹姜とは、根生姜の乾物、"乾姜/干姜"であろう。食べ過ぎれば下痢の可能性はあろうが、流産につながるとは考えにくいが。ただ、現在でも、妊婦は慎重にと言う人がいるようだ。

【井口邊草】止小兒夜啼,
「本草綱目」草之十 雜草九種のなかに"小兒夜啼,私著席下,勿令母知。"との記載がある草である。鳳尾蕨/井許草 or 鶏足草/Spider brakeと見られており、毒性は報告されていないようだ。そんなこともあるのか、現代でも、全草煎汁が一種獨特風味の健康飲料とされているようだ。
小児が夜、目を覚ますのは正常なこと。ストレスが溜まっていると、不安で泣き続けたりするもの。今も昔も同じ問題を抱える親は少なくない。

【船底苔】療天行。
海人の言うことか。
至海船若不勤加洗,則船底苔草𧐈蟲粘結,輒駕駛不靈,故隔越兩三旬即須傍岸洗;李長庚收船進港,委非無故逗。 [「福建通志列傳選」]  (𧐈蟲=蝦蟲頭上距)

寡婦槁【薦草節】去小兒霍亂。
薦草とは稲の類縁の真菰/マコモ。日本は田圃だらけの国なのなので雑草と見なされる。おかげで、その種子は別名のワイルドライスの方が有名である。しかし、薦草節となると話は別。茎に黒穂菌が寄生した真菰筍のことで、人気食材である。
但し、収穫が遅れれば、真っ黒になってしまう。未亡人は放りっぱなしにしているから、食用にできなくなるが、薬用にはなるというのだろう。

魚有睫,及目合,腹中自連珠
後世の小説「西遊記」では、玄奘の父は病の母親と妻となる満堂嬌と赴任先に向かう。鯉を購入するのだが、瞬きをしたので川に放った。その後、父は船頭に殺され川に捨てられるが龍王に助けられたとストーリーがあるところを見ると、魚の眼に動きがあるのは怪奇現象とされていたのであろう。
それと連珠がどうつながるのかは想像がつきにくい。"五目並べ"は高山互楽が始めたものなので、ここでは真珠を沢山持っている魚ということなのだろうが。
「山海経」西山経 第四には珠玉を生む魚の話があり、戦乱を呼ぶとされているから、そんなイメージの俗信か。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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