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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.11.2 ■■■

木本本草

草部、果部に続いて、木部。・・・

<木之一 香木類三十五種>
《酉陽雜俎》云:丹陽山中有山桂,葉如麻,開細黄花。此即雷氏所謂丹
【桂】
山桂,葉如麻,細花紫色,黄葉簇生如慎火草。出丹陽山中。
  [續集卷九 支植上]
山桂とは、天竺桂/藪肉桂を指すと思っていたら、違う可能性もあるらしい。
考えてみれば、阿勒勃/波斯p莢/Cassia[→]を前集ですでに取り上げている訳で、續集でわざわざそれと似たものを記述する必要はなさそう。なんらかの意味がある訳だ。
今村注記によれば、この植物は、李徳裕の平泉荘に丹陽の山桂として植えられていた種だという。一般の藪肉桂とどの程度の違いがあるのかはなんとも言い難しだが、洞察力あるお方の見立てだから特別なものかも知れぬので書いておきたくなったのだろう。ただ、それほどの違いではないかもという気もするので、李徳裕の名は伏せたということか。[→「廃仏仕掛け人の知」]
しかし、今村クラスになるとそこらはお見通し。

《酉陽雜俎》云:沒樹出波斯國、拂林國人呼為阿 。樹長丈餘,皮青白色,葉似槐而長,花似橘花而大。子K色,大如山茱萸,酸甜可食。
【蜜香】
沒樹,出波斯國。拂林呼為阿糸差。長一丈許,皮青白色,葉似槐葉而長,花似橘花而大。子K色,大如山茱萸,其味酸甜,可食。
  [卷十八 廣動植之三 木篇]
沒薬/Myrrhは紅海沿岸の乾燥高地に生える没薬樹が分泌するゴム状の樹脂。ミイラの防腐剤として使われたことで知られるが、その香りにお清め効果ありとされていたようである。
ここで言う沒樹がそれを指すのかはわからぬが、代替案もなかろう。植物学の薀蓄本ではないのであり、没薬樹とは聖なる特殊な木ではないことを知らしめているに過ぎまい。
但し、今村注記には、伝聞の語彙に、地域と言語で混乱ありとの指摘がありと紹介している。しかし、レヴァント[東部地中海沿岸地域]は民族宗教が入り乱れており、ベルベル人のような移動部族も少なくないので、もともと混乱していて当たり前ではないか。
そんなところから、香桃木/銀梅花/Myrtleと見る説もあるとか。学者はこのような主張に批判はできぬが、単なる機械的思考であって何の意味もなかろう。成式が、そのような木の話を持ってくる意図がさっぱり見えないからである。

《酉陽雜俎》云:安息香樹出波斯國,呼為闢邪樹。長二、三丈,、皮色黄K。葉有四角,經寒不凋。二月開花黄色,花心微碧。不結實。刻其樹皮,其膠、如飴,名安息香,六、七月堅凝乃取之。
燒之,通神明,闢衆惡。

【安息香木】   「西洋とペルシアの植物」【安息香木】

《酉陽雜俎》云:龍腦香樹名固不婆律,無花實。
【龍腦香樹】   「西洋とペルシアの植物」【龍腦樹】

《酉陽雜俎》云:阿魏木,生波斯國及伽,那國即北天竺也。木長八九尺,皮色青黄。三月生葉,似鼠耳。
【阿魏】   「西洋とペルシアの植物」【アサフェティダ類 or アギ】

<木之二 喬木類五十二種>
《酉陽雜俎》云:無食子出波斯國,呼為摩澤樹。高六、七丈,圍八、九尺。葉似桃葉而長。三月開花白色,心微紅。子圓如彈丸,初青,熟乃黄白。蟲蝕成孔者入藥用。其樹一年生無食子。一年生拔子,大如指,長三寸,上有殼,中仁如栗黄可啖。
【無食子】
   「西洋とペルシアの植物」【没食子】

《酉陽雜俎》言:涼州有赤白,大者為炭,其灰汁可以煮銅為銀。故沈炯賦云:似柏而香。

赤白,出涼州。大者為炭,復入以灰汁,可以煮銅為銀。
  [卷十八 廣動植之三 木篇]
文字から見て、常識的には/御柳[ギョリュウ]だろう。
今村注記によれば、は河柳となっているが、文字上での誤解を生じやすい。
柳はもっぱら川縁に生えるが、柳は乾燥地帯の植物だからだ。成式の"出涼州"はまともな見方。と言っても、そこの湿地だけに棲息していたりする。
植物園で見れば、植えてある場所が場所だけに、柳に似ていると感じる人はいまい。どちらかといえば、針葉樹に映る。(もちろん広葉樹である。)
可憐な花が咲くが、赤や白があるのかはわからない。ともあれ、薄いピンク色の花弁の樹木は存在している。

<木之三 灌木類五十一種>
《酉陽雜俎》云:谷田久廢必生構。葉有瓣曰楮,無曰構。
【楮】
構,穀田久廢,必生構。葉有曰楮,五曰構
  [卷十八 廣動植之三 木篇]
構とか、楮という樹木は、紙の原料として知られる、カジ、コウゾである。桑と同類であり、田圃をほったらかしにしておくと生えるという指摘は当たっている。これら3種は別種ではあるが、葉の形を見ればわかるが、滅茶苦茶交雑している。従って、現実的には区別したところで余り意味は無いかも知れない。
   「カミの木」[2012.9.12]

《酉陽雜俎》云:世重黄楊,以其無火也。用水試之,則無火。凡取此木,必以陰晦,夜無一星,伐之則不裂。
【黄楊木】
黄楊木,性難長,世重黄楊以無火。或曰以水試之,則無火。取此木必以陰晦,夜無一星則伐之,為枕不裂。
  [卷十八 廣動植之三 木篇]
ツゲは成長が遅いが、そのお蔭で緻密な木質になる。木であっても、当然ながら火付きは悪い。水でプカプカ浮かぶようなものは偽物。
当然ながら、用途はもっぱら細工モノ。しかし、堅い木だから、伐採から、小細工まで、高度な道具が無いと骨が折れる作業の連続となる。しかも、優良材化するためには長期間陰干しして内部の水分を完全に飛ばす必要があるから面倒である。闇夜の伐採はその点では優れた方策であるのは間違いない。
常識的には繊細な工作に適した材である。、小さな彫り物や、手の込んだ造りの小箱が向いている訳で、大雑把な形状でかまわぬ枕が持ち出されるとは思わなかった。
陶器の枕は壊れやすいが、ツゲ枕だと落としたところで壊れることはないから、お勧めだということか。枕を壊すのは縁起悪そうだし。

<木之四 寓木類一十二種> 無し.
<木之五 苞木類四種> 無し.

<木之六 雜木類七種,附録一十九種>
《酉陽雜俎》作東門棲木。
【東家棲木】
《隱訣》言,太清外術:---
東家門棲木作灰,治失音。

  [卷十一 廣知]
「隱訣」という書に記してある"太清外術"には、
  こんなことが書いてある。:
  :
東にある隣家の門にある鶏用止まり木を
燃して灰にしたものを服用すると
失声症状を治すことができる。
  :

朝寝坊型だと、無理に早く起こされると頭が回らないもの。
そういう人には、朝日の兆候があるかないかの時刻から、けたたましく鳴く鶏には耐えがたきものがある。それが隣家だったりすると、たまらぬ。煩いから止めろとも言い難いし。
なにか手が必要だが、さすが道教は面倒見がよい。
方術ノウハウ本にはよさげな手が掲載されているゾ。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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