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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.3.23 ■■■

天地創造の見方[4:捕天]

「女神話」はすでに取り上げた。[→]

「楚辞」天問に登場する位だから、その発祥は相当に古そう。・・・
  女有體,孰制匠之?
一体だれが女を作ったんだという、なんとも痛烈な疑問文なのが驚きであるが。

ただ、一般には、土と縄で人類を創造した、人首蛇体の女神として知られている。その源流はいかにも女系部族の蛇トーテム臭いが、"摶土造人"ということで人類始祖に祀り上げられている訳だ。マ、虱ではないから、プライドが傷つくことはないので、容認できるのであろう。
と言うか、中原の黄土と黄河の水こそが人の発祥元とのストーリーだから、中華帝国としては悪くない神話なのだろう。
特に、個々の人格を持つ少数者を丁寧に制作した後に、いい加減な作り方で大衆を生み出した話にしているから、為政者にとってはこれ以上の嬉しい支援はなかろう。
漢の統治システムにピッタリはまったのは間違いあるまい。・・・
《風俗通》曰:
俗説天地開辟,未有人民,
摶黄土作人,
劇務,力不暇供,乃引繩於泥中于舉以為人。
故富貴者黄土人也,貧賤凡庸者人也。

  [「 太平御覽」皇王部三 女氏]

但し、女が単独で勝手に行ったのではないらしい。
と言っても、黄帝以外は名前初出の得たいの知れぬ神々である。・・・
黄帝生陰陽,上駢生耳目,桑林生臂手:
此女所以七十化也。

  [「淮南子」卷十七 説林訓]

こうした人類創作以外の事績や役割も種々雑多あるのだが、なんの脈絡も感じさせないから、すべて後から付け加わった話としか思えない。

そのなかで、天地創造に関係する話だけは、性格が異なるので検討しておく必要がありそう。
間接的ではあるものの、天地の構造修復に関与している話が西漢 劉安:「淮南子」卷六 覧冥訓に記載されているからだ。・・・
往古之時,四極廢,九州裂,天不兼覆,地不周載,
 火炎而不滅,水浩洋而不息,猛獸食;38995民,鷙鳥攫老弱,
於是女煉五色石以補蒼天,斷鼇足以立四極。
殺K龍以濟冀州,積蘆灰以止淫水。
蒼天補,四極正,淫水涸,冀州平,狡蟲死,民生。


さらに、唐 司馬貞:「三皇本記」(「史記」補史記)になると、この話は俄然膨らんで、三皇扱いに。漢代の中華帝国の統治には、黄帝だけでは不十分であり、欠かせない神だったからか。・・・
氏亦風姓,身人首,有神聖之コ。
犧立,號曰女希氏。無革造,惟作笙簧。故《易》不載,不承五運。一曰女亦木コ王,葢犧之後已經數世。金木輪環,週而復始,特舉女,以其功高而𠑽三皇,故類木王也。
當其末年也,諸侯有共工氏,任智刑以強霸而不王,以水乘木,乃與祝融戰,不勝而怒。乃頭觸不周山崩,天柱折,地維𡙇
五色石以【補天】,斷鼇足以立四極,聚蘆灰以止滔水,以濟冀州。於是地平天成,不改舊物。
氏沒,神農氏作。


そこまで持ち上げられれば、道教が特別扱いに踏み切るのは時間の問題。以後、九天玄女、地母娘娘、驪山老母と多岐にわたる姿へと変身していくことになる。

明らかに、【補天】の役割を重視しており、それなりの理由がある筈。
しかし、奇妙なのは、蓋天を支える役割を蛇身が担える訳がないという点。そうなると、天地開闢に於ける陰陽の氣とは、人作りにおける陰陽を意味しているということかも。中華帝国の古代典籍は明らかに女神を削除しており、生殖行為に関する記述をさけているから、それは十分ありえること。もともと、万物を"産む"神は女神の筈であろうし。マ、当たり前の感覚が甦ってきたということでは。
従って、女が表舞台に登場するようになる漢代後半からは、必ず、男女神のペアとなる。その役割が天地創造とされたなら、お相手は造物主の盤古ということになろう。しかし、それは都合が悪いということで他の神が起用されたにすぎまい。しかし、古代に存在する神を突如として女と夫婦にする訳にもいかないので、知られていない神を引いてきたに違いない。それは、万物の卦を占う能力を持つ"新しい"神以外にありえまい。

この男神には、女同様、様々な役割がついてまわることになるが、それにたいした意味はない。
いかにも後世に被せたものという印象を与えるのが火の利用である。古事記を読めばすぐ気づくのは、これこそが古代史におけるメルクマールという点。中華帝国では、「三皇本記」編纂の時代になって初めてその重要性に気付いたようである。

そうそう、女神嫌いの体質からか、女の「死」について触れたくないことも、特筆すべき特徴である。盤古が死して万物を生むが、本来なら産むのは女神であるから、死して、多くの神が出現する筈というのが日本的発想。ところが、中華帝国ではそうはならない。
但し、例外的記述が「山海經」海經卷十一大荒西經に痕跡的に残っている。・・・
有神十人,名曰女之腸,化為神,處栗廣之野,横道而處。
腸以外がどうなったのかは、どこにも記載されていない。

中華帝国における残存神話とはそういう類ものでしかない。すでに述べたように、五行にしてからゾロアスター教の神話の一部を形而上学的にドグマ化した可能性が高い。[→]そんななかで、土着の神話がそのまま残っていると見るのは間違いのもと。神話の改竄は、独裁者-官僚機構-教派の共通した使命でもあるからだ。神話改竄と史書作りは表裏一体の行為なのである。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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