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☀ 📖■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.7.11 ■■■
古代神話なき社会
中華帝国では、ゾロアスター教/祆教[瑣羅亞斯德教]は話題に上ることも稀だったろうが、成式は、その割には結構気にしていることがわかる。[→]唐代の土着信仰に、仏教より格段に古い渡来宗教の影響を見ていた可能性ありということ。
異教徒を折伏するにあたって、仏教はインドヒンドゥー教の神々を護法神として天部として取り込んだのだから、中央アジアのアーリア人の神祇を無視できる訳がないのは自明。
そういうことで、密特拉/Mitrasを、未来佛としての弥勒菩薩/Maitreyaとして取り入れたらしいとの説は説得力がある。すでに取り上げたように、ソグド人地域はゾロアスター教[瑣羅亞斯德教]/祆教一色だった訳で、ここに仏教を広げるということは、経典"アヴェスター"の全知最高神の阿胡拉-馬茲達/Ahura-Mazdaをなんらかの形で遇す必要がある。そういう観点では、“無限的光明”神という共通性から、阿弥陀如来/アミターバとして残っているとの説にはそれなりの説得力がある。後世に成立した、密教宇宙神の大日如来の概念に重なっているとの考え方も一理ある。
ただ、成式的感覚からすれば、それよりは、五行が気になったのではなかろうか。
ゾロアスター教の宇宙創成論は以下の７神からなるが、五行とはその一部を取り入れたようなものに近いからである。
水の守護神→＜水＞→玄帝顓頊水德
「聖なる火」の守護神→＜火＞→赤帝火德
金属/鉱物の守護神→＜金＞→白帝少昊金德
植物の守護天使→＜木＞→青帝太昊木德
大地の守護神→＜土＞→黄帝土德
動物界の統治者
人類の守護神
おそらく、ゾロアスター教の中身を知って、愕然としたに違いないのである。それは五行が、ペルシア～ソグド人の地の概念だった驚きではなく、中華帝国の受け入れ姿勢の方。
簡単に言えば、五行の神々にはなんのストーリー性もないということ。単位、形式的に論理立って整理されているだけ。土着精神の欠片も感じさせないものになっている。
そうなるのは、ある意味必然。天子独裁の官僚制国家の特性そのもの。
簡単に言えば、中華帝国には神話の体系が無いということ。・・・
どのような神だろうと、それを受け入れるに当たって、常に政治的道徳/政治的倫理に読み替えることを優先する社会なのである。従って、神々は商品カタログのように唯々並べられる存在と化す。その上で、時々のご都合主義的な説明がつけられる。
しかも、官僚主義国家であるから、夫々の神をヒエラルキーのなかに位置付ける必要もあるので、個々の神の由緒を示す物語は自動的に削られていき、与えたポジションに合うように簡単な創作話が付けられることになる。
実際、古書類(《史記・五帝本紀》《世本》《大戴禮記》《易傳》《禮記》《春秋國語》)から、古代の神々(三皇五帝とその周辺)を整理してみると、それがよくわかる。脈絡なく雑然とした系譜を強引にまとめたものに過ぎないことは明らか。いかにも、官僚の手抜き仕事に映るが、そのような曖昧性と無内容性を保っているからこそ、官僚統治の中華帝国では大いに役立つのである。・・・
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼(盤古)→"元始天王"＠道教
伏羲/太昊 + 女媧[人面蛇身]
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼(共工[人面蛇身])→北狄
炎帝神農氏─・・・─(祝融)
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼(形夭[断首身])
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼(蚩尤[牛頭人身])
黄帝
│┼┼┼┼┼┼┼┼┼＜臣下＞(蒼頡)
│
│┌(昌意)─顓頊高陽氏
││┼┼┼┼│
││┼┼┼┼│┌・・・・─ 有虞氏舜/俊+(羲和,常羲)
││┼┼┼┼││┼┼┼┼┼渾潡[七孔欠損面六足重翼]
││┼┼┼┼││┼┼┼┼┼窮奇[ハリネズミの毛が生えた牛]
││┼┼┼┼││┼┼┼┼┼饕餮[人面牛身]＝蚩尤の頭
││┼┼┼┼││┼┼┼┼┼檮杌[人面犬毛虎身]
││┼┼┼┼└┤
││┼┼┼┼┼│┼┼┼┼(益/嬴)＜臣下＞
││┼┼┼┼┼└(鯀)─(禹)─(啟)---＠「夏」
││┼┼┼┼┼┼└→東夷
└┤
┼└玄囂/少昊─・─高辛帝嚳
┼┼┼┼│
┼┼┼┼│┌伊祁堯
┼┼┼┼│││┼┼┼┼┼┼＜臣下＞(羿+嫦娥)
┼┼┼┼││├(丹朱/驩兜)→南蠻
┼┼┼┼│││┼┼└(三苗[渾沌+窮奇+饕餮])→西戎
┼┼┼┼││└＜嫁下＞(娥皇,女英)
┼┼┼┼└┤
┼┼┼┼┼├(契)─・・・─(主癸)─(湯/天乙)---＠「殷/商」
┼┼┼┼┼├(后稷)─・・・・・・---＠「周」
┼┼┼┼┼├・・
どうみても、本来的にゴチャゴチャしていている様々な部族集団を、整合性ある形に無理にまとめただけ。
従って、「酉陽雑俎」には、上記の神々はほとんど取り上げられていない。ストーリー性をできる限り削って、強引に「黄帝」の傘下に一本化している系譜カタログにすぎないので、付けたしたお話を語ってもたいした意味はないからだ。
それよりは、反「黄帝」勢力の神話の残滓の方が面白い。何故にそのような記述になっているか考えてみるのも一興。
記載されている内容はいかにも貧弱。・・・【炎帝】、【渾潡】、【形夭】、【女媧】、【羿】。
【炎帝】
炎帝甲為北太帝君，主天下鬼神。 [卷二 玉格]
これは上記の神農氏ではないようだ。道教のヒエラルキーで神階第七中位の鬼神の総元締め"酆都北陰大帝"を指しており、関連は無いと見て間違いないらしい。
炎帝大庭氏諱慶甲，為天下鬼神之宗，治羅酆山，三千年一更替。 [陶弘景:「真靈位業圖」注記]
【渾潡】 & 【形夭】 [卷十四 諾皋記上]：[→「有識無面目の帝江」]
【女媧】 [卷一 忠誌]：[→「女媧神話」]
【羿】
《孟子》曰："逢蒙學射於羿，盡羿之道，唯羿為愈己，於是殺羿。" [續集卷四 貶誤]
上記の引用のみ。蠅や蜘蛛を射ることができる超人的能力を吐きする人がいるゾというお話の最後に、そういえば、太陽を射落とした神的人物がいたようだと。太陽信仰部族を殲滅し天子支配を進めたのだと思われる。ただ、その妻は不老不死の仙薬入手にこだわり月に飛ばされてしまう訳だが。
小生は、こちらの方が古代の状況を示しているように思うが。・・・
昔者三苗大亂，---高陽乃命玄宮，禹親把天之瑞令，以征有苗。四電誘祗，有神人面鳥身，若瑾以侍，搤矢有苗之祥。苗師大亂，後乃遂幾。 [「墨子」非攻下]
(参照) 白川静:「中国の神話」中公文庫・・・初出1975
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.
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