表紙
目次

📖
■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.7.1 ■■■

秀才顧非熊

「卷十一 廣知」に、たった1行の、不思議な話が書いてある。・・・

秀才顧非熊言,
釣魚當釣其旋繞者,
失其所主,衆鱗不復去,頃刻可盡。

秀才の顧非熊[n.a.〜854年]の言。・・・
魚釣りをするに当たっては、
旋回している魚を釣るのが決め手。
その中心の主を失ってしまうと、
衆と化している魚達は、逃げていくこともできず、
たいした時間もかからずに、一網打尽的に釣れる。


顧非熊は、滑稽好辯な性と書かれたりしているが、上記の内容からみて、諧謔をお得意とする御仁のようだ。そうそう、王建の詩にも「送顧非熊秀才帰丹陽」がある。"秀才"は院試及第にすぎぬが、才能がはじけ飛ぶようなタイプだったのだろう。
おそらく、冗談が通じない相手にも一発お見舞いするだろうから、嫌われていたのでは。逆に、成式が大いに好みそうな人物である。
成式のサロンには不可欠な"秀才"人材と言えよう。
   「落第後腹同居友人」 唐 顧非熊@全唐詩卷五百零九
 有情天地内,多感是詩人。見月長憐夜,看花又惜春。
 愁為終日客,閑過少年身。寂寞正相對,笙歌滿四鄰。


実際、「卷十三 冥跡」に収載されている最後の話は、朋友である非熊から直接聞いたとのこと。有名な、非熊の「生まれ変わり伝説」である。 [→]
さらに、「卷十七 廣動植之二 蟲篇」【蝶】にも、秀才顧非熊の少年時の話が。 [→]

両者は長年つきあってきたのでは。
  「夏日會修行段將軍宅」 唐 顧非熊@全唐詩卷五百零九
 愛君書院静,莎覆蘚階濃。連穗古藤暗,領雛幽鳥重。
 樽前迎遠客,林杪見晴峰。誰謂朱門内,雲山滿座逢。


顧非熊の清明節の詩を、他の詩人の作品と比較して眺めると面白かろう。小生が知っていたのは、杜牧の詩のみだが。
迷訳誤訳付で。・・・
  「清明」 杜牧
 清明時節雨紛紛,路上行人欲斷魂。
 借問酒家何處有?牧童遙指杏花村。

 雨がしとしと。路を歩いていると、気力も何も失いそう。
 「ちょっと尋ねるが、呑み屋はどこだい。」
 牧童は、遥かかなたの花咲く村を指すだけ。

  「清明日」 
 清娥畫扇中,春樹鬱金紅。出犯繁花露,歸穿弱柳風。
 馬嬌偏僻口,駭乍開籠。拓彈何人發,黄隔故宮。

 清楚な蝶は、扇の画中の存在。
 春木と言えば、金紅の造花。
 朝、外に出れば、花は露に濡れており、
 夕刻、戻ってみれば、柳が風で揺れている。
 馬はいなないて、仕事をしないし、
 鶏は叫んで騒ぎ、籠を開けさせない。
 誰かが、石を投げて、なにかを撃っているようだ。
 オ〜。高麗鶯が、故宮からやってきたではないか。

  「寒食」 
 春城無處不飛花,寒食東風御柳斜。
 日暮漢宮傳燭,青烟散入五侯家。

 城中はどこにいても、飛んでいく花弁だらけ。
 寒食の日の東風は、宮中の柳さえも傾けている。
 日が暮れ、宮殿では燭の火を賜る行事。
 やんごとなき人の豪邸からは、禁火明けの煙がうっすら。

  「寒食野望吟」 白居易
 烏啼鵲噪昏喬木,清明寒食誰家哭?
 風吹曠野紙錢飛,古墓壘壘春草香B
 棠梨花映白楊樹,盡是生離死別處。
 冥冥重泉哭不聞,蕭蕭暮雨人歸去。

 烏が鳴き、鵲がさざめく、夕暮れの喬木。
 清明寒食の節日に、誰の家からか、哭き声。
 風は広野を吹き抜け、紙銭を飛ばす。
 古い墓が並ぶ辺りは、草ぼうぼうの緑一色。
 棠梨の白い花々も、柳の色によく映える。
 墓地など、所詮は、生離死別の場所でしかない。
 冥々たる黄泉の地から、声が聞こえてくる訳もなかろう。
 蕭々たる墓場の地から、暮雨にぬれながら帰るのみ。

  「長安清明言懷」 顧非熊
 明時帝里遇清明,還逐游人出禁城。
 九陌芳菲鶯自囀,萬家車馬雨初晴。

 明け方、長安の都は、清明節を迎えた。
 しかし、游人は、都城の出入り禁止をくらった。
 辺り一面、芳香がたちこめるほど花が咲いており、
 鶯は自由に飛び回って囀っているというのに。
 どこの家も車馬の用意を終えているが
 天気の方は降ったり止んだり。


(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>>    トップ頁へ>>>
 (C) 2017 RandDManagement.com