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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.7.28 ■■■

海亀

道教的「五色亀」の話[→]をとりあげたので、生物としての亀類を、成式がどうとりあげているか見ておこう。・・・

玳瑁,蟲不再交者,虎鴛與玳瑁也。

鼈甲で知られる海亀のタイマイ/だが、肉に毒が含まれることがある。多分、だからこその別字。但し、その場合は玉偏であり虫偏ではない。原則的には食材扱いされないのだろう。もっとも、食の帝国だから、そこらはなんとも言えぬし、さらなる別偏文字もある。[→]

さて、海棲生物なのに、突然、"虎鴛"を引き合いに出すのだが、理由がよくわからん。"再び交わらない"との説明も何を言いたいのだろう。滅多に出くさわさず、二度と同じ個体に会うことなしとか、雄雌の番のことと考えようと思っても、鴛/オシドリが該当するとは思えないし。
類似な点があるとも思えないし。ただ、タイマイの甲羅は黄褐色に黒褐色の斑紋というのが一般的だから、虎的模様ということでは、似てはいるか。タイマイの口の先端は普通は鷹の形と見なすが、(英名では、Hawksbill turtle。)、オシドリの嘴はどうかネ〜。

日本では、タイマイを知らない人は少ないかも知れぬが、それは生物としてではなく鼈甲/べっこう細工品が有名だからだろう。従って、それに馴染みが薄い世代は、べっこうとタイマイは結びつかないかも知れぬが致し方あるまい。もともと、ベッコウという言葉自体がヘンテコな用語。タイマイ製の櫛や簪類が御禁制品になっても、人々に密かに愛され続けたのでタイマイと呼ばない名称が必要になったからだろう。

そう言えば、軒轅、神農と並ぶ[史書 越絶書 外傳記寶劍]赫胥氏が、梳[象牙玳瑁]を作ったという伝説があるという。(注記だろうか。後付の可能性もあろう。)
 赫胥氏造梳,以木為之,二十四齒,取疏通之意
 [事林廣記]
遺唐使の時代、海のシルクロードを介して、胡椒、乳香、玳瑁が泉州に集まっていたし、貞觀十三[639年]献上の記載[「旧唐書」列傳百四十七]もあり、成式としては、一応触れておくかと、収録に踏み切ったにすぎぬのではないか。・・・

系臂,如龜,入海捕之,人必先祭。
又陳所取之數,則自出,因取之。
若不信,則風波覆船。


獲りたい頭の数を決めると、必ず実現するというのだから、おそらく人懐っこい性質の海中生物。そんなこともあって、先ずは祭祀をしてから海に潜るという漁のスタイルが約束事。それを小馬鹿にすると、風や波が荒くなって船が転覆するゾという信仰なのだろう。亀の如きとされているが、正真正銘の亀以外考えられまい。
尚、"系臂"は、一般用語だと、"指貌美入選内宮"らしいが、浦島太郎の世界だろうか。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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