表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.8.17 ■■■ 椒と茱萸「卷十八 廣動植之三 木篇」には、厄介な項がある。"茱萸"の混乱状態に懲りたことがあるので。 → 「山グミの木」[2014.1.19] 文章自体は短く、単純極まるが。・・・ 椒,可以來水銀。 茱萸氣好上, 椒氣好下。 "椒"は水銀をもたらす。 "茱萸"は気の上昇を好み、 "椒"は気の下降を好む。 樹木の名前は知られていても、内容はナンダカネというところ。 先ず、"椒"だが、一般的には香辛料系樹木のジャンルを示す用語である。まともな粉山椒で強烈な痺れ感を味わったことがあれば、日本人であっても、中国の概念は実感している筈。 ただ、一文字で代表する場合は山椒ではなく、花椒である。(五香が花椒、八角。桂皮、丁香、茴香とされているから。) それと、水銀がどうつながるかは、はなはだもってわかりにくい。水銀を服用した時代の公開情報が極めて乏しいからである。しかし、水銀有毒説が通るようになってからの書物には、かつての状態を示唆する話が記載されていることがある。・・・ 水銀…有毒。 …古法治誤食水銀,令其人臥於椒上,則椒内水銀。 [張璐:「本經逢原」] どういう思い込みかはわからぬが、椒を通じた水銀摂取が流行っていた訳だ。 さて、お次は"茱萸"。 一般には、辞書を見て、"茱萸"を単純にグミとみなしてしまうが、冒頭にも書いたように、この植物が何かの判断は簡単ではない。 と言うことで、"椒"と"茱萸"を中国名と日本名の対応を整理してみた。(混乱の世界であるから、くれぐれも、これが正しいと思わないで欲しい。) すぐにわかるように、全く異なる樹木の系列が登場してくるのである。 【山椒類】 秦椒 or 蜀椒…山椒/ハジカミ/Japanese pepper 花椒……華北山椒 野花椒…唐山椒 花椒 or 香山椒…犬山椒 竹葉椒…冬山椒 刺花椒…刺山椒 両面針…照葉山椒 食茱萸 or 樧…烏山椒 岩椒……(雲貴の山椒) 【山茱萸類:水木系】 山茱萸 or 越椒…サンシュユ/Dog wood or ヤマグミ 【胡頽子/グミ/Silverberry系】 木半夏…夏茱萸/ナツグミ/Cherry elaeagnus 【蜜柑系】 呉茱萸…ゴシュユ or カワハジカミ 【胡椒類】 胡椒 卡瓦胡椒 or 麻醉椒…カヴァ/kava 蒌葉 or 荖葉…キンマ 蓽撥…印度長胡椒/Long pepper --- 草胡椒…佐田草/Radiator plant さて、"椒"="花椒"だが、それでは"茱萸"はどれだろうか。 これは間違いなく、"樧"こと烏山椒。"食茱萸"であって、我々が食したことのあるグミとは全く異なる。9月9日に食べるグミということ。 悪気を払うことができると信じられて来たグミだ。 一方の、"椒"は有毒な水銀を身体に取り入れることになり、元気とは程遠く、恐ろしい結末が待っている訳だ。 それだけの話だろう。 話はとぶが、整理していて、印度長胡椒という名称で、ふと気になって眺めてみたら、これこそが元祖胡椒だった。 ついでに触れておこう。 「本草草部の核心」[→]で「本草綱目」に引かれている植物をとりあげた際に、そのなかの「卷十八 廣動植之三 木篇」に"胡椒"と"蓽撥”があるが、後者の原文を再掲しておこう。・・・ 蓽撥,出摩伽陀國,呼為蓽撥梨,拂林國呼為阿梨訶咃。苗長三四尺,莖細如箸。葉似戢葉。子似桑椹,八月采。 インド大陸やマレー半島と島嶼部では珍しくもない胡椒系の蔓性香辛料/Long pepperと紹介しておいたが、サンスクリット語ではpippaliだそうだ。pepperの語源植物である。 未成熟果実の乾燥させた黒色モノを香辛料として使うが、(白は成熟モノ。)それは、古代ローマでは基本スパイスだったという。 黒胡椒(サンスクリット語ではmaricha。)が主流となり、西欧で一気に廃れたらしい。 おそらく、唐代に入り、西域経由で渡来したのだろう。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |