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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.10.31 ■■■

珍奇とは無知の同義語

珍しいモノはすぐに採り尽くされてしまうのは、[→]それがお金になるから。

商品経済が発達すれば、宗教的歯止めが無い限り、古今東西のの流れは避けられない。
ただ、中華帝国では、階層に関係なく、珍奇なモノには特別な関心を示してきた。特別なモノには強い"気"が備わっており、それを入手し自分もその能力を得たいとの欲望がとてつもなく肥大化していたということでもある。それは、自己の欲徳から来ているのは間違いないが、本人的には、その姿勢は宗族繁栄のためには当然取るべき姿勢と考えていたから措置なしである。
たとえ噂の類いであろうと、跳びつくことに大きな意義が与えられていたと考えて間違いない。

成式は、そのような社会風土を100も承知で、珍奇な植物の話をしているのである。

その姿勢は冷静そのもの。
変種とは地域的特殊性で生まれるものと看破していた可能性は高い。
しかし、知識を欠けば、それが珍奇に映ることになる。しかし、本質的には特産品となんら変わらないモノが多いと見ていたと思わる。

そんな例を取り上げておこう。

先ずは、"芥"より。・・・:

岸芥】,
芥高者五六尺,子大如卵。


芥子は香辛料の"からし"[芥菜/からし菜/Mustard greenの種子]、あるいは、鴉片/阿片/Opiumが採れる罌粟/ケシ/Opium poppyを指す。

岸とは、海南島の秀美山崖の地と比定されている。[「漢語大詞典」]
 …翠嶺萬重,瓊崖千仞。…
  [ [獅子賦」虞世南@「全唐文」卷百三十八]
いかにも、変種が多そうな熱帯の地。

次は同じ地の産物である、瓢箪/ヒョウタン。・・・:

崖瓠】,
崖種瓠,成實率皆石余。


現代なら、アフリカ原産イメージもあるし、巨大から極小まで、ヒョロ長から短太までと、様々なものがあることを知っていたりするから、誰も驚かないだろう。
「オー、大きいネ。どこで採れたの?」といった反応以上ではないだろう。

唐代は、それなりの珍奇感を呼んだのであろう。
  [→] 「類まれなる竹器と瓢箪」

熱帯の離島でなくても、異境の地は気候・土地・水が全く異なるのだから、かなり違う作物があって当然。・・・

大食勿斯離國 石榴重五六斤。
アラブ人[クルド人ではない.]の都市国家モスル[Mosūl@現イラク北部:チグリス川対岸はアッシリアの都市ニネヴェ/Nineveh遺跡]には、5〜6斤の巨大な石榴/柘榴/ザクロ/Pomegranateあり。

柘榴は実の大きさと種の数は相当な違いがあるものの、矮小化種を除けば、世界中で栽培されている品種は同一種とみなされているようだ。
米国あるいは、トルコ産は、甘くて大きい栽培品があり、大振りなモノはゆううに1Kgを越す。Guinness World Recordsでの最大の果実は、1.85Kg・48.7cm[@四川涼山会理の愛国郷2009年](1斤=220g@漢末,660g@唐[丘光明:「(中国古代計量史」安徽科学技術出版社2012年]; 500g@中華民国)
尚、高品質で知られるのはカンダハル/Kandahar@アフガニスタン産である。

変種と言えるのかわからぬが、そんな気にさせられる記述も。・・・

南中 桐花有深紅色者。

厄介なのは、"桐"といっても、、どのキリかははっきりしない点。解釈は難しい。
   「桐の概念」[2014.2.19]

普通に考える泡桐/キリ/Empress treeとすれば、桐壺の渡来樹。その花の色と言えば、雅な紫色と決まっている。深紅の変種があったとは言われていないから、多分、この桐ではないだろう。

紅色花という点では梧桐類があるが、樹木ではなく草[夜落金銭/午時花/ごじか/Midday flower}である。樹木とは書いていないので、この可能性もあるが、こちらの場合は、その特徴について一言ありそう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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