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2005.4.25
 
 


放送+通信産業の見方 (1: コングロマリット)…

 自分の頭で考えろ、などと偉そうに語ってしまった。   → 「雑学大王化の理由」

 具体的にどういうことか、放送+通信産業を題材に、多少稚拙だが見本を開陳してみよう。

 この業界に関する議論は低調で、大胆な意見は少ない。
 取り仕切る巨大組織と対立すると損だと考える人が多いからだろうが、こまったものである。

 かつては、産業構造が安定しており、技術の流れも読めたから、それでもよかった。
 しかし、今はそんな時代ではない。非合理的な方針を続ければ、巨大組織は生き延びれるかもしれないが、社会全体としては衰退の道を歩まことになりかねない。
 と言うより、すでに歩み始めていると見てよいだろう。

 こんなことを言っても、些細な点をついて、大騒ぎしたい人種の戯言と見る人が大半だろう。
 デジタル化が格段に遅れている訳でもないから、たいしたことはないと思うのである。

 そう感じている人には、簡単な質問をしてみたい。

 ISDNでデジタル化で先頭を走っていたのに、流れが変わっても対応が遅れ、日本の通信機器産業は急速に衰退したとは言えまいか?
 もしそう考えるなら、同じことが、AV家電産業で発生する可能性があるということである。
 当然ながら、もしもこんなことがおきたら、日本の国力そのものが急激に弱体化する。

 もっとも、こんな説明では、納得感ゼロだろう。

 少しづつ語ることにしよう。

 先ずは、2005年4月に突如始まった日本放送株買収騒動を例にとってみよう。

 結局のところ、フジテレビグループが大金をはたいて、現在体制を維持することになった。(1)
 普通なら、ビジョンを共有してから、具体的な提携に進むものだが、全く逆で、ともあれ提携を決めたという。何をするかは、半年かけて決めるらしい。
 流石に、経済同友会代表幹事も、産業の発展に繋がるとのコメントはしかねたようだ。
 「企業価値の向上、M&A(合併・買収)、コーポレート・ガバナンス等に関する社会の関心・理解が高まり、企業経営者があらためてこれらの問題を考える契機となったという意味で、意義のあることであった。 」(2)
 その通りだと思う。それ以上ではない。

 この解決策を見て、放送業界の変化を求めていた人達はがっかりしたようだ。
 それは、おそらく、考え違いだと思う。

 そもそも、買収側がコングロマリットを目指すのだから、基本的には所有権の移転にすぎない。

 コングロマリットとは、対象市場や自社のコア・コンピタンスに関連性のない事業を抱える複合企業を指す。資本効率が悪い企業を対象にした買収なら、これを糾す効果はあるが、発展性ある動きとは言い難い。

 よく考えて欲しい。現行放送のコンテンツをインターネット回線で流すこと自体にたいした意味などない。特に、テレビとインターネットの同時放送にどんな意味があるというのだ。どの回線から番組が流れてこようが視聴者にとっては何も変わらない。
 インターネット勢力が産業を変えるような発言をしているが、単に、新回線に番組を流すだけなら、既存放送勢力と変わるところは無い。
 そんなつまらないことをする位なら、既存放送企業が様々な回線を持ったさらなる巨大企業に変身してもらったほうがましである。(3)

 要するに、これは回線業者間の支配権争いにすぎない。インターネットと放送が融合し始めた兆候ではない。
 (インターネット回線はブロードバンド化が進んでいるから、卸回線業者が自社保有回線を利用するビジネスとして、テレビ番組を流そうと動くのは当然のことである。しかし、これは今回の買収とはなんの関係もない。)

 重要なのは、インターネット放送が、新しい愉しみを生み出せるかである。

 その観点では、日本の放送業界の雄とインターネット業界の企業が提携したところで、効果は期待薄である。
 放送業界の雄は、お金をかけて、大型ヒット番組を作ることには長けているが、この能力が、インターネットの特徴を生かすことに繋がるとは言い難いからだ。
 進めるべきは、放送業界からのスピンアウト組に斬新なコンテンツや双方向通信も活用した新しい愉しみ方の番組を作らせ、インターネットに乗せることである。ヒットしにくいようなニッチ番組や、当たるかよくわからないリスクが高い番組がインターネットに向いている。低コストで色々試せるのがインターネットの利点なのである。
 つまり、インターネットで新しい取り組みを次々と行い、放送側は、そこから生まれる新潮流を大型番組に生かすのが望ましい姿と言える。

 インターネットでテレビ番組を流そうというのなら、本来は、インターネット回線の卸業者が放送インフラを整え、様々な番組提供者に便宜を図るべきである。
 しかし、この方向に動く兆はない。

 立ち上げには、既存の映像資産を使うことになるが、現実には、それができないからである。
 巨人が全く動こうとしないからである。言うまでもなく、NHKのことである。
 NHKが、保有している映像資産の外部利用化を図るとともに、現行TV番組を、インターネット放送にも回せるような著作権管理制度を構築すべく動かない限り、一歩も進まない。

 ともあれ、日本の放送業界の問題は2つあると考えるとよい。

 1つ目は、多チャンネル化をできる限り押しとどめようとする姿勢である。
 2つ目は、これと表裏一体なのだが、番組内容ではなく、番組を送信するインフラを独占することで収益を上げる仕組みを続けている点にある。

 放送のデジタル化を進めても、この2点を踏襲しているのでは、メリットは享受できない。新しい愉しみが生まれる可能性は極めて低いと言わざるをえない。このことは、日本の放送産業は早晩衰退するということと同義である。
 お陰で、機器メーカーも飛躍のチャンスを失った。せいぜいが、前倒しのテレビの買い替え需要である。一過性の繁盛期がすぎれば、その後はない。これに続く新製品は日本からは生まれようがない。

 雑駁な話から始めてしまったが、次回は、もう少し絞った議論をしてみよう。

 --- 参照 ---
(1) http://www.c-direct.ne.jp/japanese/uj/pdf/10104676/00032434.pdf
(2) http://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/comment/2004/050418.html
(3) http://nk-money.topica.ne.jp/gyokai/gyokai14.html
   

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