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2005.5.9
 
 


放送+通信産業の見方 (2: 地上波デジタル放送問題)…

 コングロマリットについて批判的見解を述べた。
  → 「放送+通信産業の見方 (1: コングロマリット) 」 (2005年4月25日)

 これに対して、新風を吹き込むだけでもプラスになるという見方もあろう。

 安定した大きな市場で、許されたプレーヤーだけが活動する産業を見ていれば、そう考える人の気持ちもわからないこともない。

 しかし、この産業に限らず、日本の企業間の取引・資本・人的紐帯については不透明な点が多い。
 この状況は、次第に改善されているものの、大半の企業はそうした動きに消極的である。閉鎖的な社会で上手く立ち回ることが得意な人が経営幹部に登りつめる仕組みができているのだから、いかんともしがたい。
 これを腐敗と指摘する人もいるようだが、ちょっと違うのではないか。
 独自の新戦略で市場を席巻する能力も意志もない企業にとっては、競争相手と同質の競争を一生懸命繰り広げるしかあるまい。実利を考えれば、この選択になるのはいたしかたあるまい。
 従って、新風程度でこの状況が変わるとは思えない。

 もたもたしていると、存亡の危機に瀕すると感じない限り、変化は期待できないと思う。

 ・・・こうした、一般的な経営論議は面白いとみえ、皆がこんな話ばかりしている。残念至極だ。
 折角、放送産業が注目されたのなら、本質的問題を語るチャンスだと思うのだが。

 一寸、まとめてみよう。

 放送産業の問題を、企業経営の視点ではなく、政府と関連産業の「放送」に対する姿勢で考えるとわかり易い。

 それでは、日本政府の姿勢とはどのようなものか。

 簡単に言えば、放送産業の「特殊性」にかかわる規制の精神を曲解し、関係する各産業の利益になるよう配慮するということだ。これを利権体質と批判する人もいるようだが、政府の視点で見れば、各産業の発展に寄与する政策を展開していることになる。
 ここが大問題なのである。

 実は、産業振興に寄与できる政策が打ち出されたと暢気に語れる状態ではない。
 たいして考えもせずに、地上波デジタル放送を放送の基幹に据えるという、日本の将来を決めてしまう重大な意思決定をしてしまったからだ。

 デジタル放送化に踏み切らなければ時代に取り残されるという当たり前の話を、短期的な視点での産業対策に絡めたため、このような決定に繋がったのだと思う。最悪の方針である。

 この方針は、立案者の意図とは逆に、産業の衰退を招きかねないからだ。一寸考えればわかるが、地上波デジタル放送とは、視聴者側から見れば、アナログ放送とほとんど同じだからである。これだけでも、意味の薄い「進歩」であることがわかると思う。

 ところが、産業界にはそれなりのインパクトがある。
 短期的なテレビの買い替え需要と、放送機器特需で、メーカーの機器生産は一時的に急激に膨らむからだ。
 だが、その一方で、放送局は、投資負担と運営コスト増を背負い込むことになる。

 本来なら、デジタル放送化とは、機器産業と組んで、放送産業が飛躍するチャンスなのだが、地上波デジタル放送を基幹にしたことで新市場立ち上げのチャンスを潰してしまった。視聴者の見えないところで、アナログがデジタルに変わっただけで終わるということである。

 多くの人はそうは考えていない。

 デジタル化の波に乗っているから産業振興になると信じてしまう。
 しかも、アナログ地上波放送並に、全国民が放送視聴できる体制を続けると聞かされれば、まあそんなものだろうと考える。

 これは2つとも、間違いである。

 第1点目だが、地上波デジタル放送は、デジタル化の波に乗っていると見なせるような代物ではない。視聴者にしてみれば、現行放送とほとんどかわらないから、新たなメリットはほとんどない。言い換えれば、この先売上低迷が待っているだけの話である。
 にもかかわらず膨大な償却費と高額な運営費用がのしかかる。番組制作者は間違いなく疲弊するだろう。テレビの質は悪化し、益々売上低迷という悪循環の可能性は高い。

 第2点目は最も深刻な問題である。
 適当にお茶を濁すのかと思っていたら、本気で、全国民視聴体制を地上波デジタル放送で図るようだ。これは、どうみても無理筋である。妥当な方針どころではない。
 デジタル地上波で全国津々浦々まで電波を届けようと思ったら、難視聴地域向けに、送信設備を至る所に設置せざるを得なくなる。
 デジタル地上波はユニバーサルサービスには不適である。

 両方とも、ビジネスマンならわかっている筈である。
 しかし、皆、黙して語らずである。政府が、関連業界に損がないよう十分配慮しているからだ。
 なかでも、放送機器産業にとっては、一気に市場が広がるから、隆盛を謳歌できる。無駄なハコもの作りでゼネコンが潤ったのと同じパターンである。
 テレビメーカーも買い替え需要が発生するから嬉しいだろう。

 しかし、機器産業は、意味の薄いビジネスに大量のエンジニアを投入することになる。新しい利用方法の開発や、新技術の適用は、従来型テレビ番組の範囲で行うことになる。衰退する市場に全力投球させられるのだ。
 国内市場向けの細かな仕様の新製品開発に力を入れざるを得ないから、時代を切り拓くブローバルに通用する大型新商品開発はできなくなると見てよい。

 デジタル化の流れからいえば、一番損なやり方だ。労多くして実り少なしどころではない。市場全体は拡大しない上、折角育てた技術を無駄に消費することになる。
 下手をすれば、グローバル市場における独占的な地位を失う可能性さえある。
 どうあれ、日本メーカーは、技術の波から外れることになろう。

 本来、どうすべきか。

 答えは、単純である。
 ユニバーサルサービスの仕方を変えるしかない。

 先ずは、僻地だが、地上波受信から衛星放送受信への転換しかあるまい。衛星放送受信機器購入の補助金交付で対応することになろう。
 一方、ケーブルが引ける地域は、デジタルCATV普及率100%を目指すべきだ。デジタルをわざわざアナログ変換して既存設備で送信するような仕組みを作らせてはならないのである。
 地上波デジタル放送は、事業として成り立ちそうな地域で勝手に始めればよいのである。

 と言っても、こんな方針が受け入れられることはない。大手放送局はCATVを基幹にしたくないからである。

 当たり前だが、CATVが家庭に入れば多チャンネル化必至である。そうなれば、既存放送局の番組寡占が破られ、収益が落ちる。企業としては、とてもこんな流れに乗れない。単に、それだけのことである。
 そう言うと、必ず、CATVが入っても多チャンネル化が進んでいないではないか、と語る人がいる。しかし、それは時間の問題である。
 それに、地域独占のCATV局自体も、放送チャージ額を高く設定して、多チャンネル化抑制姿勢を貫いているから浸透スピードがあがる筈がない。
 圧巻は、CATV有料放送を無料で試聴できるチューナーが大々的に販売されていても、いつまでも放置した態度といえよう。こんなものに議論の余地などない。多チャンネル化を抑制する動きを大歓迎する姿勢がよくわかる。

 こんな状態が続けば、技術力を蓄えていても、日本の家電機器産業と放送機器産業は低迷するのは致し方あるまい。多チャンネル化と、双方向通信を利用した、新しい愉しみをもたらす仕組みが開発できないからだ。

 とはいえ、CATVの普及は益々進む。地上波デジタル地上波のインフラは早晩意味がなくなる。屋外で受信する放送以外は、結局は壮大な無駄とならざるを得まい。

 ポイントをまとめておこう。

 ・インフラ投資は巨大だから、重複投資や過大な投資は避けるべきである。
 ・そのため、インフラ事業は独占形態になりがちである。
  これはいたしかたない。
  そのかわり、独占利潤の追求に向かわないよう、
  安価なサービスを提供するインセンティブが必要である。
  この制度は工夫して作りあげるしかない。
 ・インフラは、誰でも安く使えるようにすべきだ。
  このため、インフラ事業と利用事業を峻別する必要がある。
  インフラが自由に活用できるから、新しい産業が勃興するのである。
  当然ながら、挑戦を呼び込む仕掛けも必要である。

 以上が大原則である。

 日本の放送業界は、こうした方向とは正反対の方向に動いている。関連業界も、短期的に収益増になるから支持しているようだし、全体像を見ない政府も個々の業界が発展するなら問題無しと見なす。

 長期的視点で眺めれば、皆で衰退産業作りを粛々と進めているように見えるのだが。


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