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2010.4.8
 
 


日本でも電子書籍化が騒がしくなってはいるが…

 日本の電子書籍化の動きは鈍そうだと書いたが、結構動きはでてきたようだ。
  → 「日本の電子書籍化の動きは鈍そうだ」 (2010.3.8)

 2010年4月6日、マイクロソフトが、Wordファイルを電子書籍化できるプラグインソフト「DAISY Translator日本語版」を公開したと発表。(1)障害者用だが、XHTML形式だから、欧米の規格であるEPUBに親和性がある。
 実にタイムリーな発表。

 そうそう、4月1日には、日本電子出版協会が電子書籍ファイルの標準仕様EPUB日本語要求仕様案を一般公開した。(2)
 “日本にはXMDF、BBeB、T-Timeなどの企業が推進する縦書き、ルビ対応のフォーマットが存在しますが、仕様が非公開または企業依存であり世界標準とはなりえません。このままでは世界の潮流に日本だけ取り残されますので、IDPFやOpen eBook Forum参加企業が多いJEPAが日本語仕様の策定に乗り出しました。”ということ。

 そう、すでに決着はついてしまったのである。XHTML形式を自己解凍ZIP圧縮ファイルにしたようなEPUBか、Kindle(AZW)以外は特殊規格ということ。
 その点、青空文庫は早くからXHTML形式に対応しており立派。(3)伝統的な読書文化を支える核として成長しつつあり、電子書籍化の流れを牽引して欲しいものだ。
 しかし、出版文化を考えると、著作権切れ作品を、読んでいて気分がのる字体にしたり、心に残るような挿絵や入れるとか、解説の注をつけるものを廉価で出すようになってもらいたいものである。ここらあたりができるかが日本の読書家相手の電子出版ビジネスが成り立つかどうかの境目だと思う。
 ただ、日本の既存会社の組織はそんなことはできないかも。
 Kindle対応もどこが始めるかと、見ていたら、案の定ベンチャー。2000年設立の香川県の会社(資本金300万円)、想隆社。(4)“文庫の画面の美しさに、これが電子ブック化と驚かれるでしょう。”とのこと。

 一方、国の方はどうなっているか。
 ということで、先日大笑いになったのだが、政府が統一規格に向けて動くとかいう話があるとか。どこまで本当かはわからぬが、ありそうなこと。
 おまかせ自民党とは違い、政府肝いりの新規格を作ろうと考えそうな政権だからだ。既存業界保護のための規制から、政府による業界管理のための規制に変えるというのは実にわかり易い転換である 。

 それはともあれ、2015年には「デジタル教科書を全ての小中学校全生徒に配備」(5)という目標を掲げたから、“現場”が騒がしくてもよさそうなものだが、さっぱりだし。どうなっているのかね。

 だいたい、出版業界の現場を知っていれば、そんなことをしてもほとんど意味がないのは明らかだぜ。未だに、電子出版フォーマット化などできない人だらけ。勉強などしている人は異端児ではないのかな。とうの昔に熱意は冷めていつ状況では。
 間違ってはこまるが、すでにIT化されているのである。理屈では、これをEPUB日本語要求仕様に転換すればよいだけだが、そう簡単なものではない。一太郎をMS Wordに変えるようにはいかないのである。
 作り手を欠くのだから、奔流になる訳がない。

 それに、新産業勃興を狙う取り組みになるにもかかわらず、○○コンソーシアム組織に依存するから、転換はなかなか進まない。こういった組織は既存企業が集まっているから、業界秩序維持が大前提で、いくら熱心に動いても、新しい仕組みに合った業界構造に変えることはできないから致し方ない。

 従って、最初に手がけるべきは、新時代を切り拓こうと動く人をあぶりだすこと。これを怠るから、使われないインフラ作りで終わってしまうのである。例えば、国会図書館の膨大なデジタルデータをビジネスに利用できるようにするだけでも効果はある。呼び水ならなんでもよい。当然んがら、副作用はあるが、それを気にしていたら失敗。

 危惧されるのは、教科書配布という手法。義務教育だから、児童全員にビューワー機器を配ることになるが、日本ではこの手の施策が産業活性化の刺激になるかはなはだ疑問。
 教育と関係ないコンテンツを子供に売る商売が立ち上がりかければ、まず間違いなく大反対の動きが立ち上がるからである。要するに、規制だらけになる呼び水でしかない。ビジネス立ち上げに向く領域とは言い難いのである。
 教育の観点では、そんなことより、パソコンで作ったプリゼンテーションマテリアルを使って意見発表のカリキュラムを導入することの方が余程重要だと思う。

 そんなことより、意味の薄い、同じような立派なパンフレット・ブックレットの類の行政が出す出版物をなんとかする方が余程意味があろう。紙ベースの出版ビジネス存続のための政府のインセンティブ政策を止めなければ、電子出版に動こうとする訳がない。
 しかし、多分できないだろう。

 --- 参照 ---
(1) “DAISYコンソーシアム、日本障害者リハビリテーション協会、マイクロソフト 電子書籍のバリアフリー化に向けた取り組みで協力
  〜 広く利用されている電子書籍フォーマットのMicrosoft(R) Word向け作成ツールを無償提供 〜 ”
   http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=3837
(2) http://bizpal.jp/jepa.prhi.com/national/update/0224/TKY201002240422.html
(3) 「青空文庫組版案内」http://kumihan.aozora.gr.jp/
(4) http://www.soryu-sha.jp/bunko/
(5) 「原口ビジョン」 総務大臣 http://www.soumu.go.jp/main_content/000048728.pdftp://totodaisuke.asablo.jp/blog/2010/03/01/4915522


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