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■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2014.4.19 ■■■

芳香で清浄化する花木

  "茉莉花" 蒲原有明 (「有明集」所収)

  咽び嘆かふわが胸の曇り物憂うき
  紗の帳しなめきかかげ、かがやかに、
  或日は映る君が面、媚の野にさく
  阿芙蓉の萎え嬌めけるその匂ひ

  魂をも蕩らす私語に誘はれつつも、
  われはまた君を擁きて泣くなめり、
  極秘の愁、夢のわな、――君が腕に、
  痛ましきわがただむきはとらはれぬ。

  また或宵は君見みえず、生絹の衣の
  衣ずれの音のさやさやすずろかに
  ただ伝ふのみ、わが心この時裂けつ、

  茉莉花の夜の一室の香のかげに
  まじれる君が微笑はわが身の痍を
  もとめ來て沁みて薫りぬ、貴にしみらに


日本の象徴詩の代表作とされるのが上記の「茉莉花(マツリカ)」。娼婦という職業が公認されていた明治後半の心情風景である。
衣ずれの音を耳にしながら、ジャスミンの魅惑的な香りの異空間の中にとっぷりと嵌ってしまった自分を眺め、その甘美さに酔っている訳である。・・・自分一人の恋人ではないから、会えないことがあり、そんな時は心が張り裂けてしまうのだが。

そういえば、「梅」の木を調べていて、黄梅が"Winter jasmine"なのを知った。
  「梅の分類」
ウメとは縁も所縁もなき木なのは、素人でも、葉の形を見ればわかるのに不可思議だったが、なんとなくわかってきた。
中国から渡来した訳だが、名前が「迎春花」なのである。そのまま使う訳にもいかないから、梅でいこうということだろう。

尚、「まつりか」の英語名は"Arabian jasmine"である。蒲原有明は、それを理解した上で「茉莉」に異国的なイメージを重ねたのではないかと思う。しかし、「まつり」という音は、「待つ・離」を思い起こさせるから、素敵な名前とは言い難かろう。

そう考えるのは、この植物の一群には「素馨」(ソケイ)という名称がついているからだ。文字からすれば、いかにも香りを聞くという、そのものズバリだから、こちらにすればよいのに。音も、いかにも、中国・印度・波斯辺的だし、ストーリーもあるようだから。
 <彙考> 【龜山志】 昔劉王有侍女名素馨,冢上生此花,因以得名。
尚、種のバラエティだが、こんな感じのようだ。
 黄素馨 [漢語:矮探春]
  ヒマラヤ素馨
  雲南素馨
 沖縄素馨
 台湾素馨(白)
 マリアナ素馨
 ボルネオ素馨
 波斯素馨
 西班牙素馨(大白)
 紅花素馨

しかし、マツリカという名称に拘る理由もわからないではない。仏教経典の六根清浄に「末利華」として登場する由緒正しき植物だからだ。もちろん、サンスクリット語。(mallika) おそらく、西域の荘厳な花木として渡来し、大切に育てられていたと思わる。その名前を勝手に弄るのをためらうのは当然だろう。
どうも、蓮華以上に重視されていそうだし。(小生は、インドネシアやフィリピンの国花でもあるのは、仏教国ではないからと勘違いしていた。)
  「蓮文化はナイル河文明発祥か」「蓮華とは輪廻再生のシンボル」
ジャスミンティー(香片茶)が好まれるのは、こんなこともあった訳か。
   この清浄鼻根を以って、三千大千世界の上下・内外の種種の諸の香を聞かん。
    須曼那華の香・闍提華の香・
末利華の香・
    ---
茉莉花 黄素馨 印度素馨の芳香3樹木だろう。
    瞻蔔華の香・
    波羅羅の香・
    赤蓮華の香・青蓮華の香・白蓮華の香・
    華樹の香・菓樹の香・栴檀の香・沈水の香・
    多摩羅跋の香・多伽羅の香・
  及び千万種の和香の、若しくは抹れる 若しくは丸めたる 若しくは塗る香を、
  この経を持たん者は、此間に住りて悉く能く分別せん。
  「法華経」 "法師功徳品" [坂本幸男 岩本裕 訳 岩波文庫]

こんなことを書いてみたのは、梅や蓮の話を書いていたこともあるが、お散歩途中で日向に出してある鉢植ジャスミンに出くわしたせいでもある。
よく手入れされていたので、早速、香りを嗅いでみたのだ。
そうしたら、突然、お声がかかったのである。「この香りお好きですか」と。まさか、持ち主が側にいるとは露知らず。

そして、その方に、その木はジャスミンでは無いと教えて頂き、さらにビックリ。余りに似ていて驚いたというより、マダガスカルのガガイモだったから。
そうか、ガガイモとは、東のポリネシアから、東南アジア島嶼、西のマダガスカル迄、南島海人が積極的に広げた植物だったのか。仏教渡来以前に、その文化は日本にもやって来たということ。


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