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■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2014.10.6 ■■■

園藝三寶のピカ一芳香樹

クチナシ/gardeniaに続き、芳香樹シリーズということでもう一種。
   「見方が分かれる芳香花木」 [2014.9.13]

そうなれば、当然ながら、ジンチョウゲということになろう。この樹木は中国渡来と言われなくとも、一目というか、一嗅ぎでわかろう。もちろん香るのは花期だけだが。花が枯れてもしばらく余韻が残るから、その強さがわかろうというもの。

大陸では睡香とか瑞香と呼ばれている。
その語源は宗教の聖地でもある廬山に発するとか。誰が作った話かわからぬが、こんなところ。・・・
   <廬山瑞香花始縁>  [廣羣芳譜 卷四十一]
  比丘晝寢磐石上
    夢中聞花香酷烈
    及覺求得之因名睡香。
  四方奇之謂為花中祥瑞
    遂名瑞香。

  (宋代の清異録とされるが.原典ママではなさそう.)

長江辺りが原産とされているが、宋代までは余り知られていなかったようだから、葉の印象からして、雲南あたりから僧侶が持って来たのではなかろうか。それが、庭等に植えられたものと見る。
そして、「色・香・姿・韻」の四絶蜚聲世界の園芸種としての地位を確立したということでは。
こんなところか?・・・
  花色美觀
  滿堂飄香
  樹姿優美
  神韻薀内

やはり「色・香・味・形」で四絶の岩茶で花を愛でるということか。

ちなみに、園藝三寶とは瑞香、君子蘭、五針松(日本)である。

そんなこともあり、現代の観光振興にも有用ということで、以下の詩が引用されることが多い。
  「廬山瑞香」 張祠部
   曾向廬山睡裡聞
   香風占斷世間春。
   窺花莫撲枝頭蝶
   驚覺南窗午夢人。


日宋貿易は盛んだったから、日本にも室町時代に入ってきたと思われるが、その香りに惹かれ、中国名を用いずに「沈丁花」としたのだろう。もちろん、花の香りが「沈香[伽羅香]+丁子/Clove」と考えた訳だ。確かに、そんな気にさせられる芳香である。

最初の渡来品種がどのようなものだったかは定かでないが、外側が赤紫系で内側が白色の花が一番ポピュラーな感じがする。純白も結構あるらしいが。
さらに、葉の縁に覆輪と呼ばれる黄色の斑が入っている園芸品種も広がっているそうだ。語呂合わせの「福隣」が悦ばれているということか。
中国大陸では、春節開花という点がお気に入りの肝だと思うが、そうなれば、先ずは黄金色が好まれそうだから、似た品種が色々ありそう。鮮紅色や紅白も縁起良ではあるものの、第一義的にはそうはいくまいから。

などと考えてしまうのは、大寒の花として住居の側に植える樹木と見なしてしまうから。
ところが、昔は、そうでもなかったようである。
畑の際に沢山植えられていたらしい。挿し木で次々と増えるせいもあろうが。

   「沈丁花」 北原白秋
なまめけるわが女、汝は弾きぬ夏の日の曲、
悩ましき眼の色に、髪際の紛おしろひに、
緘みたる色あかき唇に、あるはいやしく
肉の香に倦める猥らなる頬ほほゑみに。

響かふは呪はしき執と欲、ゆめもふくらに
頸巻く毛のぬくみ、真白なるほだしの環
そがうへに我ぞ聴く、沈丁花たぎる畑を、
堪へがたき夏の日を、狂はしき甘きひびきを。

しかはあれ、またも聴く、そが畑に隣る河岸側、
色ざめし浅葱幕しどけなく張りもつらねて、
調ぶるは下司のうた、はしやげる曲馬[チヤリネ]の囃子。

その幕の羅馬字[らうまじ]よ、くるしげに馬は嘶[いなな]き、
大喇叭鄙びたる笑してまたも挑めば
生あつき色と香とひとさやぎ歎きもつるる。

実になまめかしい詩だが、これこそが、日本での本来的な沈丁花のイメージであって、瑞兆の芳香とは見なしていなかったのではあるまいか。

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