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■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2015.6.17 ■■■

和傘部品用材の木

小石川植物園は日差しが強くなってきた頃の、日曜散策にはお手頃。木陰の草地があるし、ベンチも結構多い。庭園や御苑系は人だらけだし、林試の森に至っては児童公園のようなもの。と言って、自然教育園は狭すぎ。

植物に深い関心がある訳ではないが、植物園だと樹木名称が掲げてある。
結構みかけたのが「チシャ」である。浅学の身には、ナンダカネに映る訳だ。
言うまでもないが、チシャ[萵苣]とはレタスのことだからだ。
   「萵苣の話」[2008.1.15]

ニュートンの林檎やメンデル葡萄がある研究用植物園だからといって、まさか智者の木が植わっている訳でもあるまいし。

気になったので調べたら、山萵苣と呼ばれる木があるという。
レタス同様に、白い液体が出てくるということで命名されたのだろう。別名は石鹸の木だというし。
歴史的にはえらく古い名称とみえる。
  寄花
 息の緒に 思へる我れを 山ぢさ[治左]の
  花にか君が うつろひぬらむ

    [万葉集第七巻#1360]

と言っても、未だにそんな名前が通用している訳ではなさそう。普通は「エゴの木」と呼ばれている。
肝心なその山萵苣の花だが、5弁白色で極めて小さい。それが鈴なりになって枝から垂れ下がる。「エゴの花」は、夏の季語とされている位だから、雑木林には必ずある樹木と考えて間違いなかろう。散策好きなら、写真を見れば、なんだアレかとなろう。

かなり長く咲いている花だから、移ろい易い花とはとうてい思えないが、百日紅のように咲く一方でどんどん散るということかも。
英語も中国語もなかなか素敵な名前を進呈しているように、可憐な印象を与える花である。表向きはそう見えても、実際のところは、心変わりばかりで酷いぜということか。
そんなことから、エグい体質の木となったようにも思えてくる。
  売子木[エゴの木]/Japanese snowbell/野茉莉

尚、轆轤木とも呼ばれるそうだ。
木地挽き道具用材は欅や樫だろうから、これ又、ナンダカナだ。
もっとも、そう感じるということは無知そのものを意味する。和傘を知る人なら常識の類らしいから。
要するに、日傘の内側にある。開け閉め時に中軸を上下する部品(下轆轤ことランナー)と、上の骨出し部品を指すようだ。そのための用材はエゴの木に限るらしい。細工のし易さと耐久性を考えれば、これに限るということなのだろう。なにせ、美濃山中に棲息している木々を大切にしているらしいから。
   「永治オーナーのコラム」@和傘 坂井田永吉本店[2013.5.11]

ついでながら、果実は石鹸用とされているが、生薬でもあったらしく「麻厨子」との立派な名称がついている。良薬にはならぬだろうが、ともあれ口に入れればすぐに吐き出すほどのエグさなのだろう。流石に、毒物を試す人はいないから、そのレベルはわからぬが。

ついでに類縁たる、大葉萵苣の木もご紹介しておこう。
  白雲木/Fragrant snowbell/玉鈴花
流石に、大葉エゴの木とは呼びたくなかったと見える。
芳香があるようだが、それも当然だろう。有名な木が近縁なのだから。
  安息香の木/Sumatra benzoin tree
  シャム安息香の木/Siam benzoin/越南安息香
  -/中華安息香

尚、これらの仲間の代表格は少々名前が異なる。
  西洋売子木/"Official" styrax
この木からとれる香料樹脂の名は「蘇合香(styrax)」。ご存知スチレン。(日本語)

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