表紙
目次

■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2015.7.7 ■■■

名称が腑に落ちぬ葉使い低木

「七夕笹飾り」が至るところで目立つが、使っているのは、どう見ても笹ではなく竹。分類学が世俗感覚と乖離していることが一瞬にしてわかる。

一般人から見れば、笹とは丈の低い竹でしかない。利用部位が、笹は葉で、竹は稈ということの方がわかり易かろう。オカメザサは竹で、ヤダケが笹という分類学にはどうも馴染めない。
要するに、「分類が腑に落ちぬ木」[→2012.10.21]なのだ。

ともあれ、日本においては、笹とは昔から「小竹」。
   柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上  来時歌
  小竹之葉は み山もさやに さやげども
    我れは妹思ふ 別れ来ぬれば

     [万葉集二巻#133]

当然ながら、笹は国字。葉から考えたものではないかと想像するが。
  葉= +
  𥫗 +
  笹=−木

個別の笹にはそれぞれ漢字がありそうだが、よくわからない。
ただ、クマザサの漢字はわかっていそう。というか、感覚的にコレではないかと思ってしまうだけだが。
  𥮷𥫗 + 若

しかし、この「クマ」が難物なのである。分類学ではカタカナで書くので意味を取り違えることが多いが、コレもその部類。

実態的には、クマザサと呼ばれているものは多岐に渡る。変種と栽培品種が含まれていそうだが、峻別されていないような印象。
その一方で、どういう訳か知らぬが、クマの漢字は熊ではなく、隈であるとの掟が定められているようなのだ。しかし、クマザサの変種とされていても「隈」無しもある。なにがなにやらである。

そもそも、このような名称は、一般人のために標準化しただけ。サイエンスでは、こんな名前は不要なのだから。従って、我々が、どう呼んだところでかまいはしない。
と言うことで、クマザサを整理してみた。

クマとされる漢字は色々ある。これを参考に考えてみたい。
  熊 阿 隈 嵎 暈
但し、本来はそのように読まない文字でも、意味的に通じそうな場合は、ルビをふることで、クマと呼べそうな漢字もあるから、拘る必要はないが。

と言うことで、最初は公定の名前。
 【お墨付きクマザサ】
多分、該当範囲は極めて狭い。しかし、植物学者が変種を含めて呼ぶべしと指導したので、クマザザといえばこの種とされている。
クマザサ(隈笹
・・・冬季に葉の縁が白く隈取。
   自生は限定的と言われる。
   (京都の鞍馬・貴船地区)
   要するに、我々が見かけるのは栽培品種。
ミヤマクマザサ(深山隈笹)

 【隈笹の変種
日本海側にとっても多い。「クマザサ」と呼ばれているとは限らない。
オオザサ(大笹)
キンキザサ(近畿笹)
チュウゴクザサ(中国笹)
・・・隈取少なし。

 【ブナ林床料理に利用のクマザサ】
クマイザサ(供米笹)=「粂[クメ]笹
・・・基本は料理装飾用。
   日本海側の鮨用笹の発祥と思われる。
チマキザサ(粽笹)
・・・日本海側多雪域深山系+九州熊本等
   笹団子、粽、等に使用。
クマイザサ(九枚笹)=信濃笹
・・・枝に葉が9枚つくという話だが、少ないもの多し。
   上記3種は供米が代表。
   従って、すべて「クマザサ」と呼べる。

実際に食用になるものも。もっとも筍。
チシマザサ(千島笹)=根曲竹
・・・隈は無い。
   筍は美味で有名。
   東北が中心である。
   「曲[クマ]笹」と呼ばれる。

 【隈笹類縁のクマザサ】
クマスズ(隈篶竹)
・・・篶竹[スズダケ]に隈入り
   要するに篠竹である。笹ではない。
   細く株立。背が低いなら「クマザサ」。
ヒメシノ(姫篠)
・・・「子隈笹
ミヤコザサ(都笹)=糸笹
・・・比叡山発祥
   太平洋側山地に普通に見かける。(牛馬が好む。)
   熊注意ということで「熊笹
   もともと、熊とは「隠[クマ]」的動物。
アタゴザサ(愛宕笹)
   小石川後楽園には一面覆われた築山あり。
   林羅山命名の「小廬山」。
   京都の愛宕に自生していたものの移植か。
   ここは「熊笹」でいきたい。

 【熊棲息ブナ林のクマザサ】
アズマザサ(東笹)
・・・葉裏に微毛があり比較的細葉。
   かなり広い群落が多い。
   少雪域山影の地に多いということで「嵎[クマ]笹」。

 【ラテン語Kumasasa縁起熊手】
オカメザサ(阿亀笹)
・・・ドイツ人が「Kumasaca」(誤植ではない。)と命名。
   縁起が良いとされる小振りの笹である。
   多分、お寶を付けると富貴を呼び込む笹。
   「会津磐梯山は宝の山よ 笹に黄金がなりさがる」
     [民謡「会津磐梯山」-歌詞「玄如節」]
   飢饉に笹の実という話はでっちあげと見る。
   酉の市で阿亀面で販売し広まったらしい。
   縁起物小宝付きというのが鍵か。
 ・今宮戎神社@浪速:「十日戎の福笹」
  神社伝承の江戸期の歌:「十日戎のうりものは、はぜ袋に取鉢、銭かます、
   小判に金箱、立烏帽子、米箱、小槌、たばね熨斗、笹をかたげて千鳥足」

 ・堀川戎神社@天満,西宮戎神社
 ・清澄寺@鴨川:「凡血の笹」
  日蓮聖人が「いらなくなった凡人の血を吐かれた」---これは違うか。
 ・鷲神社@浅草:お酉さまの「熊手の笹
 ・大鷲神社@足立,長國寺@浅草,花園神社@新宿,大鳥神社@下目黒
 ・大國魂神社@府中,鷲宮神社@久喜

 【無縁だがクマザサ】
クマザサと呼ばれることもあるというにすぎない。
ヤネフキザサ(屋根葺き笹)
・・・山陰から日本海側

--- <付録> 「竹」文字について ---
𥫗」は「ケ」が並んでいると見なしがちだが、その元の「竹」をよくよく見ると偏と旁は同じ文字ではない。意義的にはおそらく右側の旁だろう。
右側の偏は「」に近いのではないかと感じるが、よくわからぬ。
一方、旁だが、「」と思ってしまうが、よく見ると異なる。と言うのは、こちらは、冠の左の小垂れは同じだが、右端が下に跳ねているから。つまり庇となる訳で、「个」の系列。ところがこの文字は「h」であり、竹の旁の様に縦棒の下が跳ねる「亅」ではない。
しかし、一般には「个」でOKである。言うまでもなく「個」の略字だが、どういう訳か、「箇」と同一とされる。場合によっては、偏と旁にして「竹」の異體字として使うことも。本来は竹とは無縁だと思われるのに。
ついでながら、「ケ」は「个」の崩し字なのは自明と思ってしまうが、そうとも言えないのである。・・・青空文庫では「ケ」文字の扱いは厄介な問題だったらしい。二つの起源があるが、見た目では区別できないからである。1つは「介」の一画を省いた表音文字としての片仮名「ケ」。もう1つが「箇」の略字「个」もしくはその部首「𥫗」の略字「ヶ」。由来が全く異なる訳だ。

(参照) Weblio 辞書「竹の一覧」
 「日本の樹木」出鱈目解説−INDEX >>>    HOME>>>
 (C) 2014 RandDManagement.com