表紙 目次 | ■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2015.8.1 ■■■ 柑橘 柑橘類は大陸では古くから存在し、大いに利用されていたようである。価値ある果実とされていたのは間違いなさそう。ここは、日本の歴史時代だと遣唐使上陸の地。こんな古代から名物として上納していたようだ。 「尚書 禹貢」より、揚州の箇所 淮海惟揚州。 彭蠡既豬、陽鳥攸居。 三江既入、震澤砥定。 篠、簜既敷; 厥草惟夭、厥木惟喬。 厥土惟塗泥。・・・低湿地。 厥田惟下下、・・・田圃開発は駄目な地。 厥賦下上、・・・そこそこ。 〔上〕錯。 厥貢惟金三品,瑤,琨,篠,簜,齒,革,羽,毛,惟木。 島夷卉服。・・・服を着るようになった! 厥篚織貝;厥包橘、柚、錫貢。 屈原早期的作品も有名である。愛故国ということで、楚でしか栽培できない南国的橘樹には深い思い入れがあった訳だ。 「橘頌」 屈原(B.C.343-277)[楚辞九章] 后皇嘉樹、橘徠服兮。受命不遷、生南国兮。 深固難徙、更壹志兮。緑葉素栄、紛其可喜兮。 曾枝剡棘、円果摶兮。青黄雑糅、文章爛兮。 精色内白、類任道兮。紛縕宜脩、姱而不醜兮。 嗟爾幼志、有以異兮。独立不遷、豈不可喜兮。 深固難徙、廓其無求兮。 蘇世独立、横而不流兮。 閉心自慎、不終失過兮。 秉徳無私、参天地兮。 願歳并謝、与長友兮。淑離不淫、梗其有理兮。 年歳雖少、可師長兮。行比伯夷、置以為像兮。 もっとも、そんな問題ではないゾとの見方も。 「晏子春秋 内篇雜下」には、"南橘北枳"("淮橘為枳")として知られる話が記載されている。もちろん、環境変われば、・・・という話だが、現代の植物学だと、橘属と枳属は峻別されている。ハハハ。 王視晏子曰:「齊人固善盜乎?」 晏子避席對曰:「嬰聞之、 橘生淮南則為橘、生于淮北則為枳, 葉徒相似、其實味不同。・・・ しかし、この見方、本質を突いている。柑橘類はとんでもなく種類が多いからだ。これは交雑が頻繁に発生するだけでなく、変異も矢鱈多いということ。種としたはたして安定していうものかもなんとも言えない。例えば、植物学的にはキンカンは独自の属とされているが、他の属と交配しているそうで、こうなれば分類もなにもあったものではなかろう。 それに、種を撒くとそれが親の形質通りということもなさそうである。つまり多くの場合、栽培品種はクローンということになる。園芸農業的には接ぎ木栽培で済ますことになる。従って、これからもいくらでも沢山の品種が生まれ続けることになる。 ただ、情報を勝手に整理してみると、それなりに全体像が見えてくる。 その話の前に、日本の状況を整理しておこう。中国の地名とは無関係な命名の「温州蜜柑」で名をはせた日本だが、それは現代の話。 日本にはもともと柑橘類は無く、渡来品種から始まったと教わる。まあ、古事記に。"登岐士玖能迦玖能木実"を求め、多遅摩毛理が常世国に遣わされたと書いてある訳だから、この時点を初渡来と見なすのは当然とも言えよう。当の守は、橘を入手し帰国したが、すでに天皇崩御後。悲嘆に暮れたとの話が頭に残る訳だ。素人が推定すれば、これは、但馬国国守が遣魏使を務めた話ということに。しかし、それで一件落着とはいかないのである。 中国側の記録である魏志倭人伝には、倭に「橘」が存在していると記載されているからだ。しかも、倭人は好きではなく、その価値を知らないとのこと。 と言うことは、日本列島には、すでに在来種があったことになる。渡来の「橘」はそれとは別の魅力的な品種ということになろう。まだ、時代が古いから、それは蜜柑系の筈がなく、「橙」系だったのではなかろか。一方、倭の在来種とは南島のシーカーシャー系統だと思う。 もしかすると、それは「ベル之木」の類縁かも知れないという気もしてくる。インド亜大陸で信仰対象になっている樹木はもっぱらイチジク系だが、柑橘系のこの木だけは別扱いだからだ。「左近の橘 右近の桜」の両樹木は、常に生い茂り神が宿る木と、春の精気が到来する木ということだと思うが、それは仏教以前の古代インドの思想と同じでは。インドの樹木でいえば、それぞれ、「ベル之木」と「梯梧」ということになる。その代替樹木が、橘と桜ということ。 言うまでもないが、こんなことを考えてしまうのは、柑橘類はどう見てもインド西北の高地辺りで発祥したと見ることができるからだ。それが、3方向に広がっていって、短期間のうちに、多種多様な品種が生じた訳である。 ・インドシナ半島から島嶼 ・長江から中華圏全域 ・ペルシアを経て西へ これを踏まえると、柑橘類全体を見る場合は、このように見るとよいのでは。5種類から始まっているように思える。 ●宗教的な意味付けがなされる類 ・・・「ベル之木」が大元 (この宗教観は中華、ペルシア、西欧にはなさそう。) 日本だけは別で「橙:"登岐士玖能迦玖能木実"」="代々" 本来は、もちろんタチバナ。 (「柚子/鬼橘」や「酢橘」は棘樹木なので該当。) → 「絶滅が危惧される勲章木と類縁木」[2012.9.29] ●香りが特徴的な薬果類 ・・・「シトロン」が大元 東南アジア/島嶼へ行くと「瘤蜜柑」 日本の対応品種は「香母酢」 長江辺りは「佛手柑」(宗教観とは違う。) 西へ行くともっぱら「檸檬」 (第一波はイスラムの砂糖漬で、第二派は西欧海外進出。) ●異端の大実系 ・・・「文旦」が大元 (余り好まれなかったようだ。) 日本だけは別で「晩白柚」 園芸農業成功例は「グレープフルーツ」。 ●甘実選抜類 ・・・変異種「マンダリンオレンジ」が大元。 (東南アジア経由で世界に。) ●小実は例外的:金柑 詳細はこんなところ。(2次資料が当てにならぬ状態なので、手抜きで作成。従って、間違いも多いと思われる。そのおつもりで。) ---薄皮蜜柑系--- ●マンダリンオレンジ/Mandarin orange/橘 or 桔 ∞:アッサム →中国→日本:●温州蜜柑/Citrus unshiu/温州蜜柑 →■椪柑 or 凸柑[ポンカン]/Ponkan or Suntara/椪柑, ■デコポン"不知火" →中東→地中海:■地中海マンダリン,■Clementine →モロッコ→フロリダ:■タンジェリン/Tangerine/甌柑 →中国→日本:■紀州蜜柑 or 小蜜柑/Cherry orange →■相模柑子 or 福来蜜柑 <甘橙[スイートオレンジ]Sweet orange/柳橙> ■ネーブルオレンジ[臍柑]/Navel orange ∞:(インドシナ→葡→)ブラジル@19C →■バレンシアオレンジ/Valencia orange ■ブラッドオレンジ/Blood orange ■キノット/伊:chinotto <橙xマンダリンオレンジ> ■ベルガモット/Bergamot/香檸檬 <椪柑xネーブルオレンジ> ■短桶 or 桶柑[タンカン]//桶柑 or 年柑 ∞:広東 <椪柑xネーブルオレンジ> ■タンゴール/tangor <温州蜜柑x文旦> ■伊予柑/Iyokan <マンダリンオレンジx金柑> ■カラマンシー/Panama orange/四季橘 or 屬雜交柑 ---香酸系--- ●シトロン/Citron/枸櫞 ∞:ガンジス川上流域 →ペルシア("ペルシアの林檎") ■佛手柑/Buddha's hand/佛手柑 ∞:インド東北 ■長柄蜜柑/Wood apple or Elephant-apple/象橘 ■臭橙 or 香母酢[カボス]/Kabosu ∞:尾道市 ■三宝柑/-/三寶柑 ■シーカーシャー or 平実檸檬/Thin-skinned flat lemon/台灣香檬 ■瘤蜜柑[コブミカン]/Kaffir lime/箭叶橙 or 泰國檸檬 ∞:タイ〜マレーシア →■タヒチライム, ■ペルシアライム/Persion lime/大果莱姆 or 波斯莱姆 →■メキシカンライム, ■キーライム/Key lime/小果莱姆 or 墨西哥莱姆 ■ライム/Lime/青檸 or 萊姆 ∞:インド〜ミャンマー〜マレーシア ■フィンガーライム/Finger Lime/手指莱姆 ■-/Sweet lime/甜莱姆 or 甜檸檬 ●檸檬/Lemon/檸檬 ∞:ヒマラヤ ■九年母 or 香橘[クネンボ] ∞:インドシナ半島 ●ベル之木[ベンガル語:Bel] or 印度枳殻/Bael fruit tree or Bengal quince/木橘,硬皮橘 or 毘羅婆 ∞:インド ◆枳殻 or 枸橘[カラタチ]/Trifoliate orange/枳 ∞:長江上流域 ■柚子[ユズ]/Yuzu 縁起モノの場合は鬼橘 →■日向夏 or ニューサマーオレンジ/Hyuganatsu/日向夏 ■酢橘[スダチ]/Sudachi/酢橘 ●橙[代々] or サワーオレンジ/Bitter orange/苦橙 or 酸橙 ■菊橙 ■-/Ichang papeda/宜昌橙 ■夏蜜柑 or 夏代々 ∞:長門市漂着 ■八朔[ハッサク]/Hassaku orange/八朔 ■黄金柑 ---大実系--- ●文旦[ブンタン] or 朱欒・香欒[ザボン]/pomelo/柚 ■晩白柚/Banpeiyu <文旦xオレンジ> ●グレープフルーツ/Grapefruit/葡萄柚 or 西柚 <グレープフルーツxタンジェリン> ■セミノールSeminole ■ミネオラ/Minneola ■タンジェロ/Tangelo or Honeybell <グレープフルーツx文旦(無酸味タイプ)> ■スウィーティー/Sweetie or Oroblanco <グレープフルーツxオレンジ> ■オランジェロ/Orangelo ---甘皮極小実系--- ◆金柑[キンカン]/Kumquat/金橘 縁起モノの場合は姫橘 ∞:長江中流域 「日本の樹木」出鱈目解説−INDEX >>> HOME>>> (C) 2015 RandDManagement.com |