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2003.3.29
 
 


イラク戦での同床異夢(1)…

 小泉政権は、フセイン政権打倒連合軍のイラン派遣支持を明確にした。国内世論調査結果を見ると、この判断を是とする意見が大半だ。北朝鮮問題を抱えて不安定さを増すなかで、日米同盟関係維持は最優先だから、米国支持やむなし、という訳だ。
 米国政策支持によりテロの標的になる危険性は増すが、日米同盟関係を傷つけ、安全保障体制が揺らぐ方がリスクが高いから、このような考え方は当然、と考える人が多い。

 ・・・こうした見方をしていると、イラン戦争の意味を読み間違うのではないだろうか。

 と言うのは、今回のイラクへの軍事進攻が、前回のイラク戦争の延長戦上にあるとは思えないからだ。
 といっても、仏・独・ロが軍事進攻に反対し、国連が機能しなかったという話ではない。石油資源問題に対する姿勢の問題である。

 おそらく、米国は、この進攻をきっかけに、180度方針転換を図るだろう。
 そうなったら、日本も大きな影響を被る。従って、イラク戦争への当座の係わり方を考える前に、将来の大変動を予測し、どのような備えを準備すべきか、熟考すべきといえよう。

 どうして、そう考えるか、背景を説明しよう。

 石油問題が表面化したのは、第1次石油ショックだ。OPECによるカルテル結成で、市場は根底から揺らぎ、欧米のメジャーは支配力を完全に失った。この時点で、石油は「希少戦略資源」化したといえよう。石油が、アラブの政治の道具になった訳である。
 ところが、その後、OECD諸国が急速に生産力を増強した。その結果、現在では、スポット取引市場が4割を占めるまでになった。今や、輸送費はバレル当り1ドル台だから、世界中どこから調達しても価格の違いはないに等しい。当然、OPECは価格支配力を喪失する。換言すれば、石油は「国際コモディティ商品」化が進んだのである。価格支配者は、政治から市場に移行し始めたのである。(但し、他の市況商品と違い、情報が公開されていないため、投機の動きで価格変動は激しい。)
 従って、前回のイラク戦争は、「国際コモディティ商品」市場安定のために行われたものといえる。中東地域の安定を図ることで、市場の大変動を防止したのである。

 今回の進攻はフセイン政権打倒を目指すのであるから、中東地区安定による市場大変動防止策とは考えられない。どう見ても、イラクの石油資源を、政治的道具から、「国際コモディティ商品」市場に移行させる動きである。
 これは、米国が目指す経済のグローバル化とまったく同じ動きといえる。

 ・・・言うまでもなく、ヒト・モノ・カネのグローバル化が、先進国繁栄の前提である。
 この観点から見れば、石油の「国際コモディティ商品」化は最重要政策となろう。そして、1990年代、目論み通り進んだのである。
 問題は、この先である。

 OPECは弱体化したとはいえ、埋蔵量は過半を占めており、生産でも未だに3割程度のシェアを維持している。
 ところが、OECDの生産量は減少の兆しを見せ始めている。その一方で、石油需要は確実に増える。中国経済伸張に基づく消費増は膨大だし、日欧が進める炭素放出抑制策による石炭使用量削減が引き起こす石油需要増も見込まれるからだ。
 このままでは、再度、石油が「希少戦略資源」化せざるを得ない。下手をすると、世界は不安定化する。これを防ぐには、非OPECでの生産量増加しかないが、チャンスがありそうな国はおしなべて政治的に不安定である。リスクは高い割りに、リターンは大きいとは言い難い。
 これだけなら、八方塞がりの感があるが、発想を変えると、一気に展望が開ける。
 もし、OPEC諸国の姿勢を、「国際コモディティ商品」提供姿勢に変えることができるなら、この問題は一気に解決できる。ハイテク技術の投入で、すぐに既存油井の生産増加も可能だし、膨大な埋蔵量があるから、徹底的に油田開発を進めれば、需要に応えることもできる。
 このように考えれば、「OPEC諸国の国内政治体制一新」策は、先進国にとって、極めて魅力的な施策といえよう。

 今までは、このような施策は、他国の内政干渉になるから、議論さえタブーだった。ところが、米国は、ついに、今回のイラク戦争でこのタブーを破ることになりそうだ。

 日本は、中東地区安定との従来型発想でイラク戦争を見ているが、米国はOPECを根底から変えるつもりだ。考え方が違う。   


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