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2003.5.2
 
 


理解不能な特許調査報告(1:ライフサイエンス)…

 2003年4月、特許庁から出願動向調査報告概要が発表された。対象領域は、ライフサイエンスとナノテクノロジーである。(http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0003959/0/030424gijutudoko.pdf)

 今までの特許庁の調査報告書は概して質が高かったから、期待していたが、裏切られた感じである。読んでも、さっぱりポイントがわからない。
 読者に理解不能な「意味付け」は、害を及ぼすだけである。なんらかの「目論み」があるのかもしれないが、分析結果の要点だけ発表してもらえば十分である。

 例えば、ライフサイエンスでは、冒頭で、「グローバル化に対応した特許戦略を構築すべき」との主張がなされている。ところが、内容はさっぱりわからない。
 「優位に立つ米国、成長の著しい中国」との指摘だが、今になって、わかったことでもあるまい。しかも、特許上の課題としてとらえ返す訳でもない。・・・海外申請補助金を始めるつもりなのか、と思わざるを得ない。
 日本は進展スピードが遅いとの指摘もある。・・・研究者は、早く特許を出せ、という話しなのだろうか。
 それとも、米国特許で日本人比率が減少しており、相変わらず内国出願が多すぎる、という点を問題視しているのだろうか。・・・グローバルに通用する特許が生み出せないだけ、と思うのだが。

 次ぎの主張は、競争力の観点から、日本の強いところを伸ばせ、との提言だ。
 強いところとは、「ゲノム創薬、糖鎖工学、グリーンバイオケミストリー」とされる。「糖鎖工学」は内容が明確だが、他は曖昧な表現で、かつ範囲が広すぎる。これでは、何が強いかさっぱりわからない。日本は自動車のニューモデル開発力があるから、自動車開発技術をさらに磨けと言っているようなものである。このような見方はジャーナリストには意味があるだろうが、実務家の技術戦略議論には何の役にも立たない。

 そもそも、製薬産業基盤が決定的に弱体な国で、技術で制覇するには、どのようなパターンがあり得るのかを考えないで、戦略を議論できる筈があるまい。
 欧米は、創薬プロセスをモジュール化して、様々な機能を独立に研究する仕組みを作ることでイノベーションを生み易くした。つまり、技術の観点だけなら、飛躍のチャンスはどこにでもある。

 例えば、日本は、蛋白質の構造解析に徹底注力している。これは、ゲノム創薬技術の一部でしかない。まずは、ここが、強いのか、弱いのか、答えるべきだろう。
 戦略提言するなら、さらに、3択ではっきり答える必要があろう。
 (1) 蛋白質の構造を解明し特許をおさえれば勝てる。
 (2) 蛋白質構造解明だけでは勝てないから、ここだけに注力しても意味がない。
 (3) どちらかわからない。

 もっとも、強いと言っても、たいした評価では無いようだ。
 「キャッチアップすべき」と提言しているからだ。
 普通は、弱体なら、広範な展開では追いついたところで勝てないから、特定形態の蛋白領域に絞り込んで注力するといった絞り込み戦略を採用し、トップ領域を作る戦略提言がなされる。ところが、この報告書概要はキャッチアップ戦略がベストと見なしているのだ。
 どのような根拠で、キャッチアップ方針がベスト戦略かの説明は全く無い。何処の分野で追いつくべきかもわからない。突然、結論が登場する。
 戦略論議とは、いくつかのオプションを案出し、そのなかからベストを選ぶものだが、そのような発想は全く感じられない。どうも、始めから結論が決まっているようだ。・・・おそらく、この結論に合わせた施策も作成済みなのだろう。

 さらに読み進むと、益々混乱してくる。「キャッチアップすべき」と記載されたのだから、日本は遅れていると思っていると、そうではないようだ。「日米の優秀な研究者の出願傾向は遜色がない」と語る。何がなんだかさっぱりわからない。

 そして、お馴染みの言葉で結びにかえる。「ベンチャー育成環境整備が望まれる」そうだ。

 どこを読んでも理解し難い、不可思議な概要である。   


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